Dysphagia Knowledge Hub — 吞嚥困難知識庫

嚥下困難患者の体重減少モニタリング:栄養不良の早期発見と介入

嚥下障害は、食事量・食事内容の制限を通じて慢性的な栄養不良をもたらします。そして栄養不良は嚥下機能そのものをさらに悪化させるという「悪循環」を生み出します。体重モニタリングと早期介入がこの悪循環を断ち切る鍵です。


体重減少が危険な理由:悪循環のメカニズム

嚥下困難 → 食事量減少 → 筋肉タンパク質分解 → 嚥下筋力低下
         ↓                                      ↑
         低栄養 → 免疫機能低下 → 誤嚥性肺炎 ──────

体重測定の頻度と危険閾値

測定頻度

栄養不良の危険閾値

期間 体重減少率 判定
1ヶ月 5%以上 重篤な栄養不良リスク
3ヶ月 7.5%以上 中等度〜重篤なリスク
6ヶ月 10%以上 重篤な栄養不良

例:60kgの患者が1ヶ月で3kg減少(5%減)→即時介入が必要


栄養スクリーニングツール

MNA(Mini Nutritional Assessment)

高齢者に特化した栄養スクリーニングツール。18項目(長形式)または6項目(短形式)。

MUST(Malnutrition Universal Screening Tool)

BMI・体重減少率・急性疾患による食事摂取量減少の3項目で評価。在宅・施設双方に適用可能。

BMI18.5以下への対応

BMI18.5未満(低体重)は栄養介入の明確な指標です。嚥下障害患者では標準体重より少し高めを目標とすることが推奨されます(BMI 20〜22)。


高カロリー食品の工夫

少量でエネルギー密度を上げる食品添加の工夫(1食あたり100〜200kcal追加が可能):

食品 追加カロリー(大さじ1) 注意点
ゴマ・すりゴマ 約50kcal ペースト状で誤嚥リスク低減
バター・マーガリン 約75kcal 軟らかい料理に溶かして混入
MCTオイル 約110kcal 無味無臭・水に溶ける・消化吸収が早い
全脂粉乳 約40kcal(小さじ2) 料理・とろみ食・ゼリーに添加
卵黄 約55kcal(1個分) 加熱して軟食・プリンに利用

栄養補助食品(経口栄養補助:ONS)

経口摂取量が不十分な場合、栄養補助食品を食間に追加します。

製品例 エネルギー 特徴
エンシュア・リキッド 250kcal/250mL 1.0kcal/mL、バニラ等フレーバー
メイバランス 200kcal/200mL とろみ調整版あり(嚥下障害対応)
アルジネート入りとろみゼリー 80〜160kcal 嚥下しやすい形状
ハイカロリーゼリー 150〜200kcal/100g 少量でエネルギー補給

食事記録票の活用

毎食の摂取量を記録することで、栄養不足の早期発見が可能になります。


日本の制度:栄養管理への支援

在宅療養患者への管理栄養士訪問

在宅患者訪問栄養食事指導料(医療保険):在宅療養患者(嚥下困難・低栄養含む)に管理栄養士が訪問し、食事指導を行った場合に算定可能。月2回まで算定可能。

経管・経口移行支援加算(介護保険)

経管栄養から経口摂取への移行を支援した介護施設で算定可能。言語聴覚士・管理栄養士・歯科衛生士のチームアプローチが算定要件に含まれます。


体重・栄養モニタリング チェックリスト

□ 月2回以上の定期体重測定・記録
□ 1ヶ月で5%以上の体重減少→即時報告
□ MNA/MUSTスクリーニング実施
□ BMI18.5以下→管理栄養士に相談
□ 高カロリー食品の追加(ゴマ/MCTオイル等)
□ 栄養補助食品の食間追加
□ 食事摂取量記録(5段階)
□ 訪問栄養指導の利用確認

本ガイドは参考資料です。個別の栄養管理計画は担当医・管理栄養士と連携して作成してください。