Dysphagia Knowledge Hub — 吞嚥困難知識庫
GUSS嚥下評価ガイド——Gugging Swallowing Screenの実施方法と臨床活用
TL;DR: GUSSはオーストリアで開発されたベッドサイド嚥下スクリーニングツールで、20点満点中15点未満で誤嚥リスクがあると判定します。4つのセクションで構成され、唾液嚥下から固形物まで段階的に評価します。急性脳卒中患者での感度100%・特異度50%が報告されており(Trapl et al., 2007)、言語治療師以外の医療スタッフも使用できる実用的なツールです。
はじめに——GUSSとは何か
GUSS(Gugging Swallowing Screen:グッシング嚥下スクリーニング)は2007年にTrapl Mらがオーストリア・クロスターノイブルクのKlosterneuburg Hospital(Gugging)で開発した嚥下スクリーニングツールです。
開発目的: 急性脳卒中患者に対し、言語治療師がいない状況でも看護師・医師が安全にベッドサイドで実施できるスクリーニングを提供する。
特徴:
- 実施時間:5〜10分
- 特別な器具不要(スプーン・コップ・水・プリン等)
- 段階的評価(稀薄液体から始めず、安全な唾液嚥下から開始)
- スコア20点満点
- 液体・ペースト・固形物の3種類の食形態を評価
原著論文: Trapl M, Enderle P, Nowotny M, et al. Dysphagia bedside screening for acute-stroke patients: the Gugging Swallowing Screen. Stroke. 2007;38(11):2948-2952.
GUSSの構造——4つのセクション
GUSSは2つの部分、4つのセクションで構成されます。
Part 1(予備評価):間接嚥下評価
セクション1:意識・咳反射・唾液嚥下の評価
実施前に以下を確認します(3項目すべて「はい」でなければPart 2に進めない):
| 評価項目 | 方法 | はい | いいえ |
|---|---|---|---|
| 覚醒している(意識清明) | 話しかけへの反応を観察 | 1点 | 0点 |
| 自発的に咳ができる(または咳の指示に従える) | 咳をするよう指示 | 1点 | 0点 |
| 唾液を飲み込める(嚥下反射の確認) | 空嚥下の観察 | 1点 | 0点 |
セクション1合計: 最大3点
- 3点: Part 2(直接嚥下評価)に進む
- 3点未満: 経口摂取禁止、言語治療師に依頼
Part 2(直接嚥下評価):食形態別テスト
Part 2はセクション2〜4で構成され、それぞれ異なる食形態を使用します。
重要な原則: 各セクションは「安全性」の観点から必ずセクション2→3→4の順に実施します。前のセクションで安全性が確認できなければ次に進みません。
セクション2:ペースト・プリン状(Semisolid/Pasty consistency)
使用食材: プリン・ヨーグルト・ゼリー(IDDSI Level 4相当)
実施方法:
- スプーン1/3〜1/2杯(約3〜5g)のペーストを提供
- 3〜5回繰り返す
- 観察項目を評価する
評価項目:
| 観察項目 | 問題なし(1点) | 問題あり(0点、テスト中止) |
|---|---|---|
| 嚥下あり(嚥下反射が観察できる) | 嚥下あり | 嚥下なし |
| むせ(coughing)なし | むせなし | むせあり |
| 咽頭残留の自覚症状なし | なし | あり(「喉に残っている」と訴える) |
| 嗄声なし(嚥下後の声質変化) | 嗄声なし | 嗄声あり(wet/gurgly voice) |
セクション2スコア: 最大4点(4項目すべて「問題なし」)
- 4点: セクション3(液体)に進む
- 4点未満: テスト中止。ペースト食(IDDSI Level 4)のみ処方。言語治療師に依頼。
セクション3:液体(Liquid consistency)
使用材料: 稀薄液体(水)
実施方法:
- まず3ml×1回提供し安全性を確認
- 問題なければ5ml×1回
- 問題なければ20ml×1回
- 問題なければ残り(計50〜100ml)を飲んでもらう
評価項目:(セクション2と同一の4項目)
| 観察項目 | 問題なし(1点) | 問題あり(0点) |
|---|---|---|
| 嚥下あり | 嚥下あり | 嚥下なし |
| むせなし | なし | あり |
| 咽頭残留の自覚症状なし | なし | あり |
| 嗄声なし | なし | あり |
セクション3スコア: 最大4点
- 4点: セクション4(固形物)に進む
- 4点未満: テスト中止。ペースト食+増粘剤液体(IDDSIレベルに応じて)を処方。
セクション4:固形物(Solid consistency)
使用材料: 乾いたパン(耳の部分)またはクラッカー(IDDSI Level 7相当)
実施方法:
- 少量の固形物を提供
- 通常の食べ方・速度で咀嚼・嚥下させる
評価項目:(4項目同一)
セクション4スコア: 最大4点
GUSSスコアの解釈
合計スコアの計算
Part 1合計(セクション1): 最大3点 Part 2合計(セクション2〜4): 各最大4点 × 3 = 最大12点
ただし、途中でテスト中止になった場合は完了したセクションのスコアのみ計上します。
GUSS合計スコアの解釈:
| 合計スコア | 嚥下機能の解釈 | 推奨される食形態 |
|---|---|---|
| 20点 | 嚥下機能正常・誤嚥リスクなし | 通常食・稀薄液体 |
| 15〜19点 | 軽度の嚥下障害・低リスク | 通常食 + 嚥下監視 |
| 10〜14点 | 中等度の嚥下障害・中リスク | ペースト食 + 増粘剤液体 |
| 0〜9点 | 重度の嚥下障害・高リスク | 経口摂取禁止 / 言語治療師緊急評価 |
感度・特異度(Trapl et al., 2007)
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 感度(Sensitivity) | 100% |
| 特異度(Specificity) | 50% |
| 陽性的中率(PPV) | 42% |
| 陰性的中率(NPV) | 100% |
臨床的意義: 感度100%は「GUSSが安全と判定した患者に誤嚥がない」ことを意味します(偽陰性なし)。一方、特異度50%は過剰診断(本当は嚥下可能な患者を制限してしまう)がある程度あることを示します。安全側への誤りであり、臨床的には許容されます。
ベッドサイドでの実践——よくある問題と対策
問題1:患者が指示を理解できない(失語症・認知症)
対策:
- 失語症患者には示範(手本を見せる)を使い、言葉による指示を最小限に
- 認知症患者には慣れた介護者の存在が安心感を与え、評価が安定しやすい
- 高度の認知機能低下患者にはGUSS単独評価の限界があるため、言語治療師に依頼
問題2:「wet voice(湿った声)」の判定が難しい
対策:
- 評価前に患者に「ア〜」と声を出させてベースラインを確認する
- 嚥下直後に再度発声させ、声質の変化(ガラガラ感・水が混じったような音)を比較する
- 判定に迷う場合は「問題あり」として評価する(安全側への判定)
問題3:むせが起きた場合の対応
対応手順:
- 直ちに食材提供を中断する
- 患者を前傾姿勢にして排出を促す
- 咳が止まるまで待つ
- 完全に落ち着いてからGUSSを中断し「問題あり」として記録
- テスト中止、言語治療師に依頼
香港での活用——急性脳卒中と安老院
急性脳卒中ユニット(Hong Kong Hospital Authority)
香港の病院管理局では複数の急性脳卒中ユニットにおいてGUSSを採用しています:
- 入院後6〜24時間以内に訓練された看護師がGUSSを実施
- スコア15点未満:言語治療師(Speech Therapist)への同日依頼
- スコア15〜19点:軟食または嚥下監視付き通常食と翌日のST評価
- スコア20点:通常食提供開始
香港での課題:
- 言語治療師の人員が限られており、スコア20点患者はSTを待たずに食事開始できる体制が臨床的に有効
- Chinese(広東語・普通話)版の失語症への対応が課題
安老院(老人ホーム)での活用
一部の安老院では、新入居時の標準評価にGUSSを導入しています:
- 看護師・実際護理員が研修を受けてGUSSを実施
- スコア変化(前回比3点以上の低下)を言語治療師依頼のトリガーにする
- 夜間・休日のSTがいない時間帯の緊急評価として有用
GUSSとEAT-10の使い分け
| 特性 | GUSS | EAT-10 |
|---|---|---|
| 評価者 | 医療スタッフ(看護師・医師) | 患者・介護者 |
| 評価方法 | 観察型 | 自己報告型 |
| 所要時間 | 5〜10分 | 2〜5分 |
| 適応患者 | 急性期・意識障害あり | 外来・安定期 |
| 認知症患者 | 比較的使用可能 | 限定的 |
| 食形態処方 | 直接推奨可能 | 紹介基準のみ |
推奨使用場面:
- GUSS: 急性期入院・リハビリ入院の患者、迅速な食形態処方が必要な場面
- EAT-10: 外来・地域・安老院での定期スクリーニング、患者自己モニタリング
まとめ
GUSSは4セクション・最大20分で実施できる実用的なベッドサイド嚥下スクリーニングツールです。感度100%という特性を活かして「安全な経口摂取」を正確に判定し、IDDSIに基づいた食形態処方への橋渡しを行います。急性期病院・安老院・地域リハビリいずれの現場でも、医療チームに言語治療師が常駐していない状況での迅速評価に有用です。
参考文献(主要):
- Trapl M, et al. Stroke. 2007;38(11):2948-2952.
- Schrock JW, et al. (2011). Validation of GUSS. Ann Emerg Med.
- IDDSI Framework. www.iddsi.org. 2019.
本記事はCC BY 4.0ライセンスの下で公開されています。出典:softmeal.org