Dysphagia Knowledge Hub — 吞嚥困難知識庫

IDDSIフレームワーク完全ガイド — 日本の嚥下調整食分類との対応関係

要約(TL;DR): IDDSIフレームワークとは、食品と飲料をテクスチャーと粘度によってレベル0〜7の8段階に分類する国際標準です。日本では独自の嚥下調整食分類2021(日本摂食嚥下リハビリテーション学会・JSDR)とユニバーサルデザインフード(UDF)分類が普及していますが、IDDSIはこれらと対応関係があります。本記事ではIDDSI全8段階の解説に加え、JSDR・UDFとの対応表、日本の介護食製品の位置づけ、そして在宅介護者・管理栄養士のための実践的なガイダンスをお届けします。


IDDSIとは何か、なぜ必要なのか

かつて、嚥下障害(えんげしょうがい)のある方への食事提供において、世界中で「とろみの程度」「食形態の名称」がバラバラでした。ある病院での「ミキサー食」と別の施設での「ミキサー食」は実際には全く異なるテクスチャーであることも珍しくなく、患者が転院・転所した際に誤嚥(ごえん)リスクが高まるケースが報告されていました。

この問題を解決するため、IDDSI(International Dysphagia Diet Standardisation Initiative:国際嚥下障害食分類標準化イニシアチブ) が2013年に設立されました。50か国以上の臨床医・研究者・食品科学者が3年間の研究と協議を重ね、2017年にIDDSIフレームワークを発表。現在はオーストラリア、カナダ、英国、米国、アイルランド、ニュージーランド、そして日本・韓国・中国・香港・シンガポールを含むアジア各国の医療・介護現場で採用・導入が進んでいます。

IDDSIの二つの大きな特徴は次のとおりです。

  1. 連続したひとつのスケール。 飲み物と食べ物が同じレベル0〜7で表現されるため、患者の状態変化に応じてスムーズに段階を調整できます。別々の用語体系を「翻訳」する手間がありません。
  2. キッチンにある道具で検証できる。 特別な検査機器は不要で、フォーク・スプーン・10mLシリンジがあれば誰でも食形態を確認できます。

日本においては、IDDSIは既存の嚥下調整食分類2021やUDFを「置き換える」ものではなく、国際的な共通言語として補完的に活用されています。特に外国人患者の受け入れ、海外製品の導入、学術論文・国際連携の場面でIDDSIの知識が必要とされています。


IDDSI全8段階 — 一覧表

レベル 名称(英語) 日本語訳 飲料 食品 対象となる方の目安
0 Thin 薄い(水様) 嚥下機能に問題のない方
1 Slightly Thick わずかにとろみあり 早産児;非常に軽度の嚥下障害のある成人
2 Mildly Thick 軽度のとろみ 液体の流れを少し遅くする必要がある成人
3 Liquidised / Moderately Thick 中等度のとろみ/なめらかな流動食 カップから飲める;食品はなめらかに流れる形態が必要な方
4 Puréed / Extremely Thick ピューレ状/極めてとろみあり スプーンで形を保てる食品が必要;咀嚼が不要な方
5 Minced & Moist みじん切り・しっとり 舌の動きはある程度あるが、安全に咀嚼できない方
6 Soft & Bite-Sized 軟らかく一口大 咀嚼できるが、小さく軟らかい食品が必要な方
7 Regular / Easy to Chew 普通食/やわらか普通食 通常の咀嚼力がある方;またはやわらかい普通食で対応できる方

色分けコード(世界共通): レベル0=白、1=グレー、2=薄ピンク、3=黄、4=緑、5=オレンジ、6=青、7=黒。食事トレイや包装のラベルでこの色を見れば、言語に関係なく食形態が即座に判断できます。


IDDSI・JSDR嚥下調整食分類2021・UDF 対応表

日本の医療・介護現場で使用される主な食形態分類とIDDSIの対応を以下に示します。なお、これらの対応はあくまで目安であり、実際の食形態は必ずIDDSI検査または各分類の基準に基づいて確認してください。

IDDSI レベル JSDR 嚥下調整食分類2021 コード UDF区分 概要
レベル 0(薄い) コード0t / 0j(薄いとろみ付き水分) 水・お茶・ジュース相当
レベル 1(わずかにとろみ) コード0t(薄いとろみ) ごく薄いとろみ
レベル 2(軽度のとろみ) コード0t〜コード1(中間) 中等度とろみ飲料
レベル 3(中等度のとろみ) コード1(均質でなめらか、まとまりやすい食品) とろとろのスープ状
レベル 4(ピューレ状) コード2-1(ピューレ・ペースト・ミキサー食等) 区分4(かまなくてよい) スプーンで形が保てるピューレ食
レベル 5(みじん切り) コード3(舌と口蓋間の押しつぶしが可能なもの)〜コード4(歯ぐきでつぶせる) 区分3(舌でつぶせる) 4mm以下のしっとりしたみじん切り食
レベル 6(軟らかく一口大) コード4(歯ぐきでつぶせる)〜コード5(容易に噛める) 区分2(歯ぐきでつぶせる)〜区分1(容易に噛める) 15mm以下の軟らかい一口大
レベル 7(普通食) コード5〜コード7(普通食) 区分1(容易に噛める)〜なし 通常の食事

JSDR嚥下調整食分類2021について: 日本摂食嚥下リハビリテーション学会(JSDR)が2021年に改訂した分類で、コード0〜7(コード0はさらに0t・0jに分類)の計10段階で構成されています。日本の病院・施設での標準的な表示基準として広く使用されています。

UDF(ユニバーサルデザインフード)について: 日本介護食品協議会が定める4区分の市販介護食品の基準です(区分1:容易に噛める、区分2:歯ぐきでつぶせる、区分3:舌でつぶせる、区分4:かまなくてよい)。スーパーや薬局で販売される介護食品のほとんどにUDFマークが表示されています。


飲み物のIDDSI分類(レベル0〜4)

レベル0 — 薄い(水様)

レベル1 — わずかにとろみあり

レベル2 — 軽度のとろみ

レベル3 — 中等度のとろみ

レベル4 — 極めてとろみあり(食品にも該当)


食べ物のIDDSI分類(レベル3〜7)

レベル3 — 流動食(なめらか)

なめらかで塊がなく、スプーンから流れ落ちる状態。嚥下機能はあっても咀嚼できない方向けで、カップや太めのストローで提供されることもあります。

よくある失敗: とろみ剤を入れすぎてレベル4になる;ミキサーが不十分で微細な塊が残る;でんぷん系とろみ剤は時間の経過とともに粘度が上がるため、調理直後と30分後で濃度が変わることがある。

レベル4 — ピューレ食

一般的に「ムース食」「ピューレ食」として提供される形態です。スプーンで盛り付けたとき形を保ちますが、なめらかで均一、塊はゼロ。液体が分離しないことが必須要件です。

レベル5 — みじん切り・しっとり食

軟らかく、水分を含み、細かく刻まれた状態。粒の大きさは成人で4mm以下(鉛筆の先端程度)、小児で2mm以下が基準です。粒同士がまとまってスプーンにのることが重要 — 乾燥した状態はレベル5に該当しません。

レベル6 — 軟らかく一口大

成人で15mm(約1.5cm)以下小児で8mm以下にカットされた軟らかい食品。フォークの背(または親指)で押せば潰れる軟らかさが必要です。ソースは必須ではありませんが、食品自体が軟らかい必要があります。

日本特有の注意点: 餅・だんご・おはぎなどの粘性が高い和菓子は、見た目が軟らかくても高い付着性・凝集性のため、嚥下障害のある方には非常に危険です。いかなるIDDSIレベルにも安全には該当しません。

レベル7 — 普通食 / やわらか普通食

通常の食事ですが、二つのサブカテゴリーがあります。

「やわらか普通食(EC)」は世界的な高齢者ケアで普及が進んでおり、レベル6まで下げなくても、見た目や食べやすさをほぼ普通食に近い状態で提供できるため、食事の満足度と摂食量の維持に効果的とされています。


食形態を確認するためのIDDSI検査

IDDSIの検査はすべてキッチンにある道具で実施できるよう設計されており、介護者・看護師・調理師が食事提供の現場で確認できます。

  1. IDDSI流量テスト(飲み物レベル0〜4): 10mLスリップチップシリンジの先端を10mL目盛りで切り取り、10秒後の残量を測定。
  2. フォーク滴下テスト(レベル4食品): ピューレ食をフォークの先端に乗せ、フォーク越しにゆっくり落ちるか観察。
  3. フォーク加圧テスト(レベル4〜6食品): フォークの背を食品に横から押しつけ、軽い力で潰れるかを確認。
  4. スプーン傾けテスト(レベル4食品): 山盛りにすくい、横に傾けたとき一塊でスルッと落ちるか(流れない、くっつかない)を確認。

これらの検査は、視覚だけでの判断(目測)よりはるかに信頼性が高く、30秒程度で実施できます。


よくある間違いと注意点

1. 「なめらか」=「レベル4」ではない

スムージーはなめらかでもスプーンで形を保たないためレベル3(またはそれ以下)です。レベル4は形を保つことが必須。

2. 時間経過による粘度変化(ドリフト)

でんぷん系とろみ剤(市販の多くの「とろみ剤」はでんぷん系)は、調製後30分程度かけて粘度が上昇します。作った直後にレベル2で確認した飲み物が、食事開始時にはレベル3になっていることがあります。グアーガムなどのガム系とろみ剤は比較的安定していますが、それでも測定を怠らないことが重要です。

3. 大きさだけで判断しない

「4mm以下に刻んだから大丈夫」という誤解が多いです。レベル5では粒の大きさだけでなく、粒同士のまとまり(凝集性) が重要です。ドライ状態のみじん切りはまとまらないため危険です。

4. 「見た目でわかる」という過信

経験豊富な調理師・看護師でも目測での食形態判断は誤差が大きいです。簡単なフォーク検査を習慣化することで、多くの誤りを防げます。

5. 一皿の中で複数レベルを混在させる

レベル4の蒸し物の横にレベル6の野菜を盛りつける、というケースが見られますが、混在は介護者・患者双方の混乱を招きます。患者の処方レベルで全品を統一することが原則です。

6. 日本特有:とろみ剤の使い過ぎ

とろみが「安全」という誤解から必要以上に濃くすることがあります。過度なとろみは飲み込みにくく、脱水リスクや食事摂取量低下につながります。担当の言語聴覚士(ST)・管理栄養士と相談のうえ、適切なレベルを処方してもらいましょう。


日本の介護食品(市販品)とIDDSIの対応

日本のスーパー・ドラッグストアで手に入るUDFマーク付き介護食品のIDDSI目安は以下のとおりです。

UDF区分 IDDSI目安レベル 代表的な商品例
区分1(容易に噛める) レベル 6〜7 EC やわらか煮込み、軟らかいお惣菜系レトルト
区分2(歯ぐきでつぶせる) レベル 5〜6 舌でつぶせる系惣菜、歯ぐきでつぶせる魚料理
区分3(舌でつぶせる) レベル 4〜5 ペースト状惣菜、やわらかゼリー状食品
区分4(かまなくてよい) レベル 3〜4 ミキサー食・ムース食、ゼリー飲料

注意: UDF区分とIDDSIレベルは完全には一致しません。たとえばUDF区分4の食品でもレベル3(流れる)とレベル4(形を保つ)の間で異なる場合があります。担当STや管理栄養士が個別評価を行うことを推奨します。


在宅介護者・家族向け実践ガイド

嚥下障害のあるご家族の食事を担当されている方へ、現場で役立つポイントをまとめます。

処方レベルを確認する

退院時・担当医や言語聴覚士(ST)から「どの食形態・とろみが必要か」をIDDSIレベルまたはJSDRコードで確認しましょう。施設と在宅で用語が異なる場合は、両方の分類を確認しておくと安心です。

市販のとろみ剤を活用する

お茶・水分へのとろみは、スーパーや薬局で「とろみ剤」「とろみ調整食品」として販売されています。製品によって粘度特性が異なるため、同じ分量でも粘度に差が出ることがあります。購入した商品のレベル表記とIDDSI/JSDR対応表を確認しましょう。

調理の工夫

専門家への相談

嚥下機能の評価は言語聴覚士(ST)、栄養管理は管理栄養士が専門です。在宅での嚥下食調製に不安がある場合は、地域の訪問リハビリ・居宅療養管理指導(在宅訪問管理栄養士)などを活用してください。


参考文献・出典

本記事はIDDSIフレームワーク、JSDR嚥下調整食分類2021、UDF基準を要約・解説したものです。臨床での実践においては、必ず最新の各公式ガイドラインをご参照ください。


免責事項(Disclaimer): 本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的アドバイスではありません。嚥下障害の評価・食事形態の処方は、必ず担当医・言語聴覚士・管理栄養士にご相談ください。本記事の情報に基づく行動によって生じた損害について、当サイトおよびEditorial Team(Editorial Team)は責任を負いません。


最終更新: 2026-04-17 · ライセンス: CC BY 4.0 · 監修・提供: Editorial Team — 嚥下障害食の専門家チーム


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Editorial Team(吞嚥易) は、IDDSI準拠の嚥下調整食を専門とする香港発のソーシャルエンタープライズです。T/SATA 084 & 085(大湾区護食標準)の起草参加団体であり、ハーバードビジネススクールのケーススタディ(W33928)の研究対象にもなっています。

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