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IDDSIレベル5(みじん切りと水分調整食)完全ガイド

IDDSIレベル5とは何か

IDDSI(国際嚥下食標準化イニシアチブ)レベル5(Minced & Moist)は、嚥下障害(えんげしょうがい)のある方を対象とした食形態の国際標準区分のひとつです。日本語では「みじん切り食」「ミンチ食」「細刻み水分調整食」などと呼ばれることがあります。IDDSIフレームワーク(全8段階・レベル0〜7)の中で、レベル5はペースト食(レベル4)の上、軟食一口サイズ(レベル6)の下に位置します。

レベル5の本質的な特徴は「細かく刻まれた食材の粒が残っており、かつ十分な水分・潤滑性を持っている」という点にあります。食材は形を保ちながらも4mm以下の小さな粒状に刻まれており、舌の力が弱い方でも口の中で食材を操作できます。均一なペースト(レベル4)とは異なり、食感や食材の形がわずかながら残ることで、食べる楽しさを維持しつつ安全に摂食できるよう設計されています。

嚥下障害のある高齢者・脳卒中後のリハビリ中の方・神経筋疾患のある方など、様々な状態の方にとって、レベル5は「安全と食の楽しみ」のバランスを取る重要な食形態区分です。


レベル5の物理的基準

粒子サイズ基準

レベル5の最も重要な基準は粒子サイズです。

4mmという数字は、成人の義歯(総義歯)使用者が誤嚥なく飲み込める粒子サイズの上限として設定されています。この基準は小児にも適用されますが、乳幼児の場合はさらに小さなサイズが求められることがあります。

テクスチャー(食感)基準

水分・潤滑性基準


フォーク・スプーン圧テスト

IDDSIでは以下のテスト手順が推奨されています。

フォーク圧テスト(Fork Pressure Test)

  1. フォーク(または親指)を食材の上に置く
  2. 通常の親指の力(約140g相当)でゆっくり押す
  3. 食材が容易に潰れ、フォークの隙間を通り抜けるならレベル5合格
  4. 潰れるが隙間を通らない場合はレベル6相当
  5. 全く潰れない場合はレベル7以上

スプーン傾けテスト(Spoon Tilt Test)

  1. スプーンに食材をすくう
  2. スプーンを傾ける
  3. 食材がゆっくりと流れ落ちるならレベル5の水分・まとまり合格
  4. 滑らかに落ちずに塊のまま残る場合は水分不足(ソース追加が必要)
  5. 水のようにすぐ流れてしまう場合はレベル4(ピューレ)に近い

隣接レベルとの比較

レベル5はレベル4(ペースト食)とレベル6(軟食一口サイズ)の間に位置します。どちらの隣接レベルとも混同されやすいため、以下の表で整理します。

表1:レベル4・レベル5・レベル6の比較

項目 レベル4(ピューレ食) レベル5(みじん切り水分調整食) レベル6(軟食一口サイズ)
食材の形 均一なピューレ。形がない 細かな粒が残っている 一口大の塊が残っている
粒子サイズ 粒なし(滑らか) 4mm以下 15mm以下
食感 なめらか・均一 粒感がわずかにある 塊感・形がある
必要な口腔機能 舌の最低限の動きのみ 舌で押しつぶせる力 舌と口蓋で圧迫できる力
水分管理 自然に流れる(とろみは別途) 全体に水分コーティング必須 食材自体か煮汁で水分補給
使用道具 スプーンのみ スプーンのみ スプーンまたはフォーク
日本食の例 なめらかな裏ごし食・全粥 みじん切り野菜煮物・細刻みほぐし魚 煮付け一口大・茶碗蒸し
対象嚥下機能 舌の動きが非常に制限された方 舌の力は弱いが口腔操作は可能 舌の力がある程度保たれている

対象となる方

レベル5は以下のような状態の方に適しています。

適応となる主な嚥下障害の種類と程度

レベル5が適さない場合


日本食におけるレベル5対応

日本の食文化にはレベル5対応に適した食材・調理法が豊富にあります。ただし、そのままではレベル5に合わない食材も多く、調理の工夫が求められます。

表2:日本食のレベル5対応早見表

カテゴリ 食材・料理 レベル5可否 備考・調理のポイント
穀物 全粥(五分粥・七分粥) 米粒が4mm以下に柔らかく崩れていること。粒が硬い場合は不適
穀物 軟飯 要工夫 十分に軟らかく炊き、さらに刻む必要がある場合あり
穀物 通常白飯 不適 粒が大きく硬い。水分不足
大豆製品 絹ごし豆腐(みじん切り) 4mm以下に刻みあんかけをかける
大豆製品 木綿豆腐 要工夫 十分に煮て軟らかくし細かく刻む
大豆製品 納豆 要工夫 粒が均一で4mm相当。ただし粘り・糸引きに注意
卵料理 茶碗蒸し(みじん切り状) 細かくほぐした状態で提供。均一な食感
卵料理 スクランブルエッグ(軟らかめ) 4mm以下に細かくする。水分は牛乳や煮汁で補う
卵料理 固茹で卵 不適 白身が硬く水分なし
魚介類 白身魚の煮付け(細かくほぐし) 4mm以下に細かくほぐし、煮汁をたっぷりかける
魚介類 まぐろのそぼろ(煮) 甘辛く煮てほぐしたもの。水分を補うと良い
魚介類 焼き魚 不適 表面が乾燥。繊維がほぐれにくい
魚介類 蒸し魚(白身) 蒸してほぐせば水分が保たれやすい
肉類 鶏ひき肉の甘辛煮(みじん) 煮汁でまとまりを確保。4mm以下に調理
肉類 豚ひき肉のそぼろ 要工夫 乾燥しやすい。あんかけや煮汁で水分補給
肉類 牛・豚の薄切り肉(細刻み煮込み) 要工夫 繊維を断ち切り4mm以下に。十分な煮込みが必要
野菜類 かぼちゃの煮物(みじん切り) 十分に煮てから細かく刻む
野菜類 ほうれん草・小松菜(細刻み) 繊維を断ち切る方向に細かく刻む。あんかけ推奨
野菜類 大根・人参の煮物(みじん) 芯まで煮てから細かく刻む
野菜類 ゴボウ・たけのこ・れんこん 不適 繊維質が強く4mm以下でも口の中でバラけやすい
デザート プリン・ゼリー(細かく) すくえば自然に4mm以下になる。水分豊富
デザート ヨーグルト 水分豊富。果肉入りは粒サイズに注意
デザート ようかん(みじん切り) 要確認 粒が残ればレベル5相当。均一にほぐれればレベル4
スープ類 みそ汁(具なし・とろみあり) 飲料としてではなく食材の水分補給として活用

レベル5のための調理テクニック

みじん切りの基本

4mm以下という細かさは、家庭で一から包丁で刻む場合、かなりの手間がかかります。実用的な方法として以下が有効です。

水分の確保

レベル5において最も失敗しやすいのが「水分・潤滑性の不足」です。以下の方法で水分を確保します。

食材別の調理ポイント

魚類
白身魚(タラ・カレイ・タイなど)は煮付けにするとほぐしやすくなります。煮た後にほぐし、煮汁と一緒に提供することでレベル5の水分基準を満たします。皮や骨は必ず取り除いてください。

肉類
鶏むね肉・豚ひき肉・合びき肉などをひき肉状にしたものが使いやすいです。そぼろ状に調理する際は乾燥を防ぐために煮汁・みりん・だし汁を十分に使います。ゆで卵の黄身や裏ごし野菜を混ぜ込むことで水分保持力が向上します。

野菜類
繊維の強い野菜(ほうれん草・糸みつば・ゴボウなど)は、繊維を断ち切る方向に細かく刻むことが重要です。下茹での後に刻むと仕上がりが安定します。根菜類はやわらかくなるまで十分に煮てから刻みます。

穀物
全粥は水分量を多めに(米1に対して水10)炊き、粒が自然に崩れる状態を目指します。粒感を残しながらも軟らかい「五分粥」「七分粥」がレベル5の境界に位置します。


日本の摂食嚥下リハビリテーション学会分類2021との対応

日本では、日本摂食嚥下リハビリテーション学会(日本摂食嚥下リハ学会) が「嚥下調整食分類2021」を定めています。IDDSI のレベル5は、この分類における以下のコードにほぼ対応します。

ただし、IDDSI と日本分類2021は完全に一致するわけではなく、施設・病院によって対応関係の解釈が異なる場合があります。IDDSIレベル5を用いる場合は、施設の管理栄養士・言語聴覚士と日本分類との対応を確認することが推奨されます。

表3:IDDSIレベル5と日本嚥下調整食分類2021の対応

IDDSI レベル 日本分類2021 コード 名称 主な特徴
レベル3(液状食) コード1j 嚥下調整食1j ゼリー状・均一なとろみ
レベル4(ピューレ) コード2-1 / コード2-2 嚥下調整食2-1、2-2 ピューレ・ペースト状
レベル5(みじん切り) コード3 嚥下調整食3 形はあるが軟らかく容易にほぐれる
レベル6(軟食一口サイズ) コード4 嚥下調整食4(軟らかい食品) 一口大・舌でつぶせる
レベル7(普通食) 普通食 制限なし

実践アセスメントチェックリスト

在宅・施設でレベル5食が適切に提供されているかを確認するためのチェックリストです。

食事前のチェック

食事中のチェック

食事後のチェック


レベルの進段・維持・後退の判断基準

レベル5はリハビリの中間段階として機能することが多く、状態に応じてレベルを変更する判断が重要です。

レベル6へ進段できるサイン

レベル4へ後退すべきサイン

レベル5を長期維持する場合

脳卒中の後遺症が固定化している方・神経筋疾患で緩徐に進行している方などでは、レベル5が長期的に最適な食形態である場合があります。定期的(3〜6ヶ月ごと)に言語聴覚士による再評価を行い、食形態が本人の機能に合い続けているかを確認します。


市販のレベル5対応製品(日本国内)

日本では、嚥下調整食コード3相当の市販介護食品が複数のメーカーから提供されています。

メーカー シリーズ名 特徴
ホリカフーズ おいしくミキサーシリーズ(きざみ) レトルトのきざみ食。コード3相当品が中心
キューピー やさしい食シリーズ(きざみ食) きざみ食・ソフト食。加熱調理不要のものも
明治 やわらか食シリーズ コード3相当の軟らかい刻み食品
ネスレ日本 ハートフルシリーズ(きざみ) 施設向け・在宅向け両対応。温めるだけで提供可能
ヘルシーフード ソフトミールシリーズ(きざみ) 病院・施設向け冷凍品。栄養管理された製品
日清医療食品 エバースマイル(きざみ食) 外観が通常食に近く、食欲増進効果が期待される

製品を選ぶ際は、パッケージの「嚥下調整食分類2021 コード表示」を確認し、コード3相当であることを確かめてください。施設での使用時は管理栄養士の指導のもと導入することを推奨します。


まとめ

IDDSIレベル5(Minced & Moist)は、4mm以下の粒子サイズ・舌でつぶせる軟らかさ・全体を覆う水分・潤滑性 という3つの基準を満たす食形態です。ペースト(レベル4)より食感・形が残り、軟食一口サイズ(レベル6)よりも細かく、舌機能が中等度に低下した方に最適な区分です。

日本食との相性は比較的良く、全粥・みじん切り煮物・細かくほぐした白身魚煮付け・みじん切りの豆腐料理など、多彩な料理をレベル5に対応させることが可能です。「あんかけ」「出汁煮」「スープ煮」という日本の伝統的調理法はレベル5の水分・潤滑性基準を満たすうえで非常に有効です。

在宅・施設どちらにおいても、定期的な嚥下評価(言語聴覚士・管理栄養士との連携)のもとでレベル5を活用し、本人のQOL(生活の質)を最大限に高める食事管理を行うことが推奨されます。


本記事はIDDSI(国際嚥下食標準化イニシアチブ)フレームワーク2019年改訂版および日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021を参照して作成されています。個別の食形態判定は必ず専門家(言語聴覚士・管理栄養士)の評価に基づいて行ってください。