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IDDSIレベル7(普通食・やわらか普通食)完全ガイド
IDDSIレベル7とは何か
IDDSI(国際嚥下食標準化イニシアチブ)レベル7(Regular Diet)は、IDDSIフレームワーク(全8段階・レベル0〜7)の最高レベルに位置する食形態区分です。日本語では「普通食」または「通常食」と表現されます。
レベル7の特徴は、食品のサイズ・テクスチャー・水分量などに関して、特定の制限を設けない 点にあります。すなわち、嚥下機能・咀嚼機能が十分に保たれており、あらゆる食品を安全に食べられる方が対象となります。
ただし、IDDSIのレベル7には重要な二段階が存在します。
- レベル7(通常の普通食):制限なし。あらゆる食品・飲料が安全に摂取できる
- レベル7(Easy to Chew / やわらか普通食):嚥下機能は保たれているが、軟らかい食品のみが適切。咀嚼に何らかの制約がある方向け
後者の「Easy to Chew」は、一般的な普通食と同様に見えるが、調理の際に軟らかい食品・調理法を選ぶという配慮を含む形態です。誤嚥リスクは低いが、硬い食材や粘着性の高い食材を避けるべき方に用いられます。
IDDSIは「レベル7以下のすべての食形態は、個別の患者・利用者の状態に合わせて専門家が評価すべき」という立場を取っており、レベル7への到達はリハビリテーションのひとつのゴールとして位置付けられています。
レベル7の物理的基準
レベル7(普通食)の基準
通常の普通食には、IDDSIとして定められた明確な物理的制限はありません。ただし、食品の安全摂取のための暗黙的な前提として以下が含まれます。
- あらゆるサイズ・形状の食品が対象
- 硬い食品(例:生野菜・固い肉・堅果類)を含む
- 飲料類に特段のとろみ調整は不要
- 咀嚼機能・嚥下機能が健常に近い水準が前提
レベル7(Easy to Chew / やわらか普通食)の基準
- 舌と歯茎(義歯含む)で押しつぶせる軟らかさ:通常の歯による噛み切りは前提としない
- 食品の形はそのまま保たれている:切り方や調理法は工夫するが、ピューレやみじん切りにはしない
- サイズ制限はない:ただし実用的に扱えるサイズが望ましい
- 水分制限はない:嚥下機能は保たれているため、液体のとろみ調整は不要
レベル7の二段階:通常食とやわらか普通食の違い
表1:レベル7(普通食)とレベル7(やわらか普通食)の比較
| 項目 | レベル7(普通食) | レベル7(Easy to Chew / やわらか普通食) |
|---|---|---|
| 対象者 | 嚥下・咀嚼機能とも正常 | 嚥下は正常、咀嚼に軽度制限がある |
| 食品サイズ | 制限なし | 制限なし(ただし軟らかい食品を選ぶ) |
| テクスチャー | 全テクスチャー可 | 軟らかい食品を選択。硬いものは避ける |
| 硬い食品 | 可(生野菜・固い肉・ナッツなど) | 避けることを推奨 |
| 粘着性の高い食品 | 可 | 要注意(口腔内での制御が難しい場合) |
| 液体のとろみ | 不要 | 不要 |
| 調理の制限 | なし | 軟らかくなる調理法を選ぶ(煮る・蒸すなど) |
| 例となる日本食 | すべての日本食 | 煮魚・茶碗蒸し・豆腐・軟らかい煮物 |
| 臨床上の位置付け | 嚥下リハビリの最終到達目標 | 嚥下は良好だが歯・義歯に問題がある高齢者に多い |
対象となる方
レベル7(普通食)が適する方
- 嚥下機能・咀嚼機能ともに正常範囲にある
- 誤嚥リスクが臨床的に認められない
- 嚥下リハビリを経てレベル6から移行してきた方(評価済み)
- 健常な成人・小児
レベル7(やわらか普通食)が適する方
- 嚥下機能は正常だが、歯の欠損・義歯不適合・顎関節の問題で咀嚼力が低下している
- 軽度の咀嚼障害があるが、嚥下は問題ない
- 抜歯・口腔外科手術後の一時的な咀嚼制限期間
- 加齢による歯の摩耗・歯周病で硬い食品が食べにくい高齢者
- 化学療法・放射線療法による口腔粘膜炎で硬い食品が痛い患者
レベル7が適さない場合
- 嚥下障害がある(誤嚥・咽頭残留リスクがある)→ レベル6以下を検討
- 認知症の進行により食行動に問題がある(丸飲みの習慣・過食・食事への注意が続かない)
- 液体の飲み込みに問題がある → 飲料のとろみ管理を組み合わせる
レベル6からレベル7への移行基準
嚥下リハビリテーションの過程では、レベル6(軟食一口サイズ)からレベル7(普通食またはやわらか普通食)への移行が重要なマイルストーンとなります。
移行を検討できる臨床サイン
- 複数回の食事でむせ込みがない:少なくとも5〜7日間、レベル6でむせ込みがないことが確認できている
- 食後の湿性嗄声がない:食後に「ガラガラ声」「水っぽい声」がない(咽頭残留なし)
- 嚥下評価(VF/VE)で適合を確認:嚥下造影検査(VF)または嚥下内視鏡検査(VE)でレベル7相当の食品を安全に嚥下できることが確認されている
- 食事時間が短縮されている:レベル6食でスムーズに食事でき、疲労感なく食事を完遂できる
- 舌圧・咀嚼力の改善が測定できる:舌圧測定器・咀嚼評価ガムなどで機能改善が客観的に示されている
移行の進め方(段階的移行推奨)
- 段階1:レベル6食の中に、軟らかい普通食相当の食品を1〜2品追加する
- 段階2:問題がなければ、食事の半分をレベル7(やわらか普通食)に置き換える
- 段階3:全食をレベル7(やわらか普通食)に移行し、一定期間観察する
- 段階4:問題がなければ制限なしのレベル7(普通食)へ移行する
移行後も、少なくとも初回の数週間は専門家(言語聴覚士・医師)による定期確認を継続することが推奨されます。
レベル7で避けるべき食品(丸飲みリスク・誤嚥リスク食品)
レベル7(普通食・やわらか普通食)であっても、特定の食品については注意が必要です。特にレベル7(やわらか普通食)の方や、嚥下機能が回復したばかりの方に対しては、以下の食品について個別評価が推奨されます。
表2:レベル7での注意食品一覧
| リスクカテゴリ | 食品例 | 理由 | 対処法 |
|---|---|---|---|
| 硬い食品(やわらか普通食では避ける) | 生にんじん・ゴボウ・セロリ・固い肉 | 咀嚼力が不十分だと大きな塊で飲み込もうとする | 軟らかく煮る・加熱調理 |
| 繊維質が強い食品 | たけのこ・ゴボウ・えのき茸・レンコン | 繊維が口腔内に残留しやすい | 細かく刻む・長時間加熱 |
| 丸飲みリスクの食品 | こんにゃく・ソーセージ・ぶどう・さくらんぼ | 弾力性が高くそのまま飲み込もうとする | 一口大以下に切る |
| 粘着性が高い食品 | 白玉・大福・餅・ういろう | 口腔内に張り付き、咽頭・気道に詰まるリスク | 特に認知症患者・高齢者に注意。レベル7でも提供に慎重さが必要 |
| ばらける食品 | ブロッコリー・細切りキャベツ・そぼろ | 口の中でばらけて制御が難しく、一部が誤嚥につながる可能性 | 食材をまとめるソース・あんをかける |
| 二重テクスチャー食品 | 水分が多い刺身・スープ付き麺・おじや | 固形物と液体が同時に口に入り、液体先行で誤嚥するリスク | 飲み込み機能が確認できた方のみ |
| 薄く小さい食品 | のり・ウエハース・ポテトチップス | 口腔内で崩れ薄いシート状になり気管に入りやすい | 特に注意。嚥下機能が安定している方のみ |
| 乾燥・パサパサした食品 | 焼き魚の皮・乾燥パン・スポンジケーキ | 水分が少ないと口腔でのまとまりが悪い | 水分・ソースを追加して提供 |
| 硬い種・殻 | 栗・クルミ・梅干しの種 | 誤飲・歯の破折リスク | 種・殻を事前に取り除く |
日本食におけるレベル7対応
IDDSIレベル7は制限が最も少ない食形態であり、日本食の大部分はレベル7(普通食)として提供可能です。ただし、「やわらか普通食」として提供する場合は、食材の選択と調理法に若干の配慮が必要です。
レベル7(普通食)として提供できる日本食の例
- 白飯・炊き込みご飯・すし飯
- みそ汁(具材を問わず)
- 刺身・焼き魚・煮魚(骨を取り除いたもの)
- 煮物(根菜・芋類・魚介類など)
- 炒め物・揚げ物(唐揚げ・天ぷら・フライ)
- 和え物・サラダ(生野菜含む)
- 麺類(そば・うどん・ラーメン・パスタ)
- デザート(和菓子・洋菓子全般)
レベル7(やわらか普通食)での配慮が必要な日本食
- 餅・白玉・大福:粘着性が高くリスクがあるため、特に高齢者・認知症の方には代替品(ゼリーで代用など)を提案する
- 生野菜の和え物・サラダ:硬い根菜は加熱した上で提供する
- そば(二八・十割):やや細く切れやすいが、食べる速度・量に注意
- たこ・イカ(刺身や煮物):弾力が高くかみ切りにくい。薄切りまたはやわらかく煮ることを推奨
日本の摂食嚥下リハビリテーション学会2021分類との対応
日本では、日本摂食嚥下リハビリテーション学会(日本摂食嚥下リハ学会)嚥下調整食分類2021 が医療・介護施設で広く使用されています。IDDSIレベル7は以下との対応関係にあります。
- 嚥下調整食コード4(やわらか食):日本分類2021の最上位区分(コード4)はIDDSIレベル6〜7(やわらか普通食)に相当
- 通常食(コードなし):日本分類2021では通常食は嚥下調整食の外に位置する。IDDSIレベル7(普通食・制限なし)に相当
重要な違いとして、日本分類2021は嚥下調整食(コード1j〜4)の外に「通常食」を置いており、IDDSIのようにレベル7を「最高レベルの嚥下食分類」として明示的に定義していません。一方IDDSIは、健常者の普通食(レベル7)もフレームワークの中に位置付けることで、すべての食形態を一元的に扱える体系を構築しています。
表3:IDDSIレベルと日本嚥下調整食分類2021の全体対応表
| IDDSI レベル | 日本分類2021 | 名称 | 主な対象 |
|---|---|---|---|
| レベル0(稀薄液体) | とろみなし飲料 | — | 嚥下・咀嚼正常 |
| レベル1(わずかにとろみ) | 薄いとろみ | — | 液体誤嚥リスク最小 |
| レベル2(なめらかにとろみ) | 中間のとろみ | — | 液体誤嚥リスクあり |
| レベル3(液状食) | 濃いとろみ / コード1j | 嚥下調整食1j | 重度嚥下障害 |
| レベル4(ピューレ) | コード2-1 / 2-2 | 嚥下調整食2 | 中〜重度嚥下障害 |
| レベル5(みじん切り) | コード3 | 嚥下調整食3 | 中等度嚥下障害 |
| レベル6(軟食一口サイズ) | コード4 | 嚥下調整食4(軟らかい食品) | 軽〜中度嚥下障害 |
| レベル7(やわらか普通食) | コード4上位 / 通常食 | (嚥下調整食の外) | 軽度咀嚼障害・嚥下正常 |
| レベル7(普通食) | 通常食 | — | 正常 |
施設・在宅でのレベル7適用
施設での適用
医療・介護施設においてレベル7を適用する際は、以下の点に注意します。
- 嚥下評価記録の保持:レベル7移行の根拠となった評価(VF/VE等)の結果を記録し、担当スタッフ全員が共有できる状態にする
- 食事環境の整備:座位姿勢の確保・適切な食器・自助具の提供。食事介助の必要性を個別評価する
- スタッフ教育:「レベル7でも全員が全食品を問題なく食べられるわけではない」という理解を徹底する。特に認知症利用者の丸飲み・早食いへの対応
- 定期的な再評価:状態の変化(感染症・脱水・手術後・薬剤変更など)によって嚥下機能が一時的に低下することがある。再評価のタイミングと基準を施設として定めておく
在宅での適用
- 家族・介護者への教育:「やわらか普通食」は外見が普通食と変わらないため、家族が調理上の配慮を怠りやすい。具体的な調理手順を書面・動画で提供する
- 食材の選び方:スーパーでの購入時に避けるべき食材リストを提供する(餅・こんにゃく・硬い根菜など)
- 外食時の対応:外食時に選べるメニューの目安(うどん・煮魚定食・豆腐料理・茶碗蒸しなど)を提案する
- 状態変化時の連絡体制:むせ込みが増えた・食事量が急減したなどの場合の連絡先(担当STや医療機関)を明確にしておく
実践アセスメントチェックリスト
レベル7への移行前チェック(専門家用)
- 嚥下造影(VF)または内視鏡検査(VE)によるレベル7食品の嚥下安全性が確認されているか
- 複数回(5〜7日以上)のレベル6食でむせ込みがないことが記録されているか
- 食後の咽頭残留サイン(湿性嗄声)が認められないか
- 認知機能が食事への継続的な注意を保てるレベルか
- 丸飲み・早食い・ながら食べの習慣がないか
- 嚥下機能低下を引き起こす可能性のある薬剤変更・疾患変化がないか
レベル7維持中のモニタリングチェック(施設・在宅共通)
- 食事中・食後にむせ込みが新たに発生していないか
- 食後の声質(湿性嗄声)の変化がないか
- 体重・栄養状態が維持されているか(急激な体重減少は嚥下悪化の指標になりうる)
- 発熱・肺炎が繰り返されていないか(誤嚥性肺炎の可能性)
- 食事時間が延長していないか(疲労・機能低下のサイン)
- 食事の拒否・意欲低下がないか(嚥下困難の自覚症状の表れ)
レベル7からの後退基準
レベル7に達した後も、状態の変化によってより低いレベルへの後退が必要になる場合があります。
後退を検討すべきサイン
- 新たなむせ込みの出現:1日複数回・複数日にわたりむせ込みが見られる
- 食後の発熱(38℃以上)が繰り返す:誤嚥性肺炎の疑い
- 食事量の著明な減少:1週間以内に通常の50%以下に低下
- 脳卒中・神経疾患の増悪:新規の麻痺・球麻痺症状の出現
- 意識レベルの変化:傾眠傾向が強く食事への注意が持続しない
- 歯科的問題の急変:全歯抜歯・義歯の紛失・口腔内疼痛による咀嚼不能
上記のいずれかが見られた場合は、速やかに言語聴覚士・医師に連絡し、食形態の一時的な後退と再評価を行うことが推奨されます。
まとめ
IDDSIレベル7(Regular Diet)はIDDSIフレームワークの最終目標となる食形態であり、「普通食(制限なし)」と「やわらか普通食(Easy to Chew)」の二段階から構成されます。
レベル7の核心は3つのポイントにまとめられます。
- 嚥下機能の正常化・安定化:誤嚥リスクがない状態で安全に食べられる
- 段階的移行と継続的評価:レベル6から適切な評価手順を経て移行し、維持中も定期モニタリングを継続する
- 食品の個別リスク管理:レベル7でも餅・こんにゃく・ナッツなど一部食品は注意が必要。特にやわらか普通食では硬い食品・粘着性食品を避ける
日本食は全体として、調理法や食材の多様性からレベル7(普通食・やわらか普通食)に適した食文化を持っています。ただし、餅・白玉・こんにゃく・粘着性の高い和菓子など、日本の伝統食の中には特別なリスクを持つ食品も含まれており、特に高齢者や嚥下リハビリ後の方への提供には注意が必要です。
施設・在宅を問わず、言語聴覚士・管理栄養士・医師の連携のもとでIDDSIレベル7を適切に運用することが、誤嚥性肺炎の予防と最大限の食の自由の確保につながります。
本記事はIDDSI(国際嚥下食標準化イニシアチブ)フレームワーク2019年改訂版および日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021を参照して作成されています。個別の食形態判定は必ず専門家(言語聴覚士・管理栄養士)の評価に基づいて行ってください。