Dysphagia Knowledge Hub — 吞嚥困難知識庫
嚥下困難患者の栄養不良スクリーニングと管理:MNAとMUSTの実践
なぜ嚥下困難患者に栄養スクリーニングが必要か
嚥下困難(ディスファジア)は食事摂取量の低下を直接招き、タンパク質・エネルギー不足から筋力低下・免疫低下・褥瘡発生リスク上昇へとつながります。早期にスクリーニングを行い、リスク層に応じた介入を迅速に開始することが重要です。
MNA(Mini Nutritional Assessment)の実践
MNAは高齢者の栄養状態評価に広く使用される世界標準ツールです。スクリーニング版(MNA-SF)は6項目で構成され、短時間で実施できます。
| 項目 | 内容 | スコア |
|---|---|---|
| 食事摂取量の減少 | 過去3ヶ月間の食欲低下・嚥下困難による摂取減 | 0–2点 |
| 体重減少 | 過去3ヶ月間の体重減少量 | 0–3点 |
| 移動能力 | 寝たきり〜自由歩行まで | 0–2点 |
| 急性疾患・心理的ストレス | 過去3ヶ月以内の入院・強いストレス | 0–2点 |
| 神経・精神的問題 | 認知症・抑うつ | 0–2点 |
| BMI または下腿周囲長 | BMI<19またはCC<31cm | 0–3点 |
判定基準:12〜14点(栄養状態良好)、8〜11点(栄養不良リスク)、0〜7点(栄養不良)
MUST(Malnutrition Universal Screening Tool)の3段階リスク評価
MUSTは医療・福祉施設で広く用いられる栄養スクリーニングツールで、3つの指標を合算してリスクを判定します。
| ステップ | 評価項目 | スコア |
|---|---|---|
| ①BMI評価 | BMI>20: 0点 / 18.5〜20: 1点 / <18.5: 2点 | 0–2点 |
| ②体重減少 | 過去3〜6ヶ月:<5%: 0点 / 5〜10%: 1点 / >10%: 2点 | 0–2点 |
| ③急性疾患の影響 | 食事摂取不能が5日以上続く場合 | +2点 |
リスク分類:0点(低リスク)→ 定期モニタリング / 1点(中リスク)→ 3日間の食事記録と観察 / 2点以上(高リスク)→ 管理栄養士への即時照会
臨床指標による栄養評価
スクリーニングツールを補完するため、以下の臨床指標を定期的に評価します。
- BMI:18.5未満は低栄養を示唆(高齢者は21未満でリスクとする施設も多い)
- 上腕三頭筋皮下脂肪厚(TSF):体脂肪量の指標。年齢・性別基準値との比較で評価
- 握力:サルコペニア(筋肉量減少)の簡便な指標。男性28kg未満・女性18kg未満が低下の目安
- 血液検査:血清アルブミン(Alb)3.5g/dL未満で低栄養、トランスサイレチン(プレアルブミン)は短期的な栄養状態の変化を反映
栄養不良と嚥下困難の悪循環
栄養不良と嚥下困難は双方向に影響し合う悪循環を形成します。
嚥下困難 → 食事摂取量低下 → 栄養不良 → 筋力低下(嚥下筋含む)→ 嚥下機能さらに悪化
この悪循環を断つためには、嚥下リハビリテーションと栄養管理を並行して行う多職種チームアプローチが不可欠です。
段階的栄養介入
| リスクレベル | 第一選択介入 | 第二選択介入 | 第三選択介入 |
|---|---|---|---|
| 低〜中リスク | 食事内容の強化(エネルギー密度向上)・食事回数増加 | 高カロリー嚥下調整食の提供 | 経口補助栄養食品(ONS)の追加 |
| 高リスク | 経口補助栄養食品の積極的使用 | 経鼻胃管(NGT)による経管栄養 | 胃瘻(PEG)造設の検討 |
経管栄養への移行は、経口摂取の完全な廃止ではなく「補完的」な位置づけが推奨されます。嚥下機能の回復に合わせて、段階的に経口摂取量を増やしていきます。
高タンパクIDDSI食事プランの立案
栄養不良リスクの患者には、IDDSIの食形態を維持しながら高タンパク・高エネルギー食を提供します。
- 目標タンパク量:1.2〜1.5g/体重(kg)/日(標準的高齢者よりも多め)
- 目標エネルギー量:30〜35kcal/体重(kg)/日
- IDDSI対応の高タンパク食品例:絹豆腐・卵豆腐・茶碗蒸し(レベル6)、魚の白身蒸し・鶏ひき肉スープ煮(レベル5)、肉ペースト・魚ムース(レベル4)
日本の制度的サポート
介護保険加算
- 栄養管理体制加算:施設において管理栄養士が個別栄養管理を行う体制を評価する加算
- 低栄養リスク改善加算:高リスク入所者に対して医師・管理栄養士・看護師等の多職種が月1回以上協働して栄養管理を実施した場合に算定
在宅サービス
管理栄養士による居宅療養管理指導(月2回まで)を活用することで、在宅要介護者への個別栄養スクリーニングと食事計画の作成が可能です。主治医の指示のもと、ケアマネジャーを通じてサービス利用を調整します。
栄養不良の早期発見と適切な介入は、嚥下困難患者のQOL維持と合併症予防に直結します。MNA・MUSTを定期的に実施し、多職種で情報共有する体制を整えることが施設・在宅を問わず求められます。