Dysphagia Knowledge Hub — 吞嚥困難知識庫

嚥下障害患者の低栄養スクリーニング:MNA-SF、介入基準と栄養管理

嚥下障害患者は低栄養の高リスク集団です。食事摂取量の減少、食事時間の延長による疲労蓄積、食形態制限による嗜好の低下が重なり、必要エネルギー・タンパク質の確保が困難になります。定期的なスクリーニングと早期介入が不可欠です。


1. 嚥下障害患者が低栄養になりやすい理由

リスク因子 詳細
摂食量の減少 嚥下に時間がかかり、疲労で食事を途中でやめる
IDDSI食形態制限 刻み食・ミキサー食は嗜好性・エネルギー密度が低下しやすい
増粘剤による水分摂取困難 水分制限・とろみ嫌いで脱水と低栄養が併発
疾患関連代謝亢進 脳卒中後、悪性腫瘍、COPD等では安静時エネルギー消費量が増加
嗜好変化 認知機能低下・うつ症状で食欲低下
誤嚥恐怖 食べることへの不安が食事量を自発的に制限させる

2. MNA-SF(Mini Nutritional Assessment Short-Form)

評価項目(6項目、最高14点)

項目 質問内容 配点
A 食事量の減少(過去3ヶ月) 0–2点
B 体重減少(過去3ヶ月) 0–3点
C 移動・活動能力 0–2点
D 急性疾患・ストレスの有無(過去3ヶ月) 0–2点
E 精神的問題(認知症・うつ) 0–2点
F BMI(またはCC:下腿周囲長) 0–3点

判定基準

スコア 判定 推奨アクション
12–14点 正常(低栄養リスクなし) 3ヶ月ごとの再スクリーニング
8–11点 低栄養リスクあり 管理栄養士による詳細評価(MNA-Full版)
0–7点 低栄養状態 即時の栄養介入計画、多職種カンファレンス

嚥下障害患者での注意点: MNA-SFは「食事量の減少」を問いますが、嚥下障害では「食べたいのに食べられない」状況があるため、スコアが低栄養を過小評価する可能性があります。食事記録との併用が推奨されます。


3. 嚥下障害専用の追加評価指標

MNA-SFに加えて、以下を組み合わせると精度が上がります:

身体計測

生化学指標

| 指標 | 低栄養の目安 | 注意点 | |—|—|—| | 血清アルブミン | <3.5 g/dL | 炎症で偽低値になる | | トランスサイレチン(プレアルブミン) | <20 mg/dL | 短期の栄養変化に敏感 | | リンパ球数 | <1,500/μL | 免疫機能低下の指標 | | CRP | 高値の場合 | アルブミンの解釈に影響 |

食事摂取量評価


4. 経管栄養への移行判断基準

以下の複数条件が重なる場合、言語聴覚士・医師・管理栄養士の協議のもと経管栄養を検討します:

臨床的指標

患者・家族の意思確認

日本の臨床では、経管栄養移行前に必ず本人・家族との話し合いが必要です:


5. 栄養介入戦略

経口摂取の最大化

| 介入 | 内容 | |—|—| | IDDSI対応の高エネルギー食 | 少量でも栄養密度を高める(オリーブオイル・バター添加) | | 補助栄養飲料(ONS) | アイソカルゼリー、メイバランスなど、IDDSI Level 3–4で提供可能な製品 | | 食事回数の増加 | 1日3食→5–6回の小分け提供で疲労軽減 | | 嗜好対応 | 好みの食材・風味を優先(安全な範囲で食形態を調整) |

ONS(経口栄養補助食品)の選択基準

| 製品タイプ | IDDSI適合 | エネルギー密度 | 適応 | |—|—|—|—| | ゼリータイプ(例:アイソカルゼリー) | Level 3–4 | 75–200 kcal/個 | 液体嚥下困難者 | | ヨーグルト状(例:テルミール) | Level 4–5 | 200 kcal/125mL | 粒状物OK者 | | 濃厚流動食(とろみ付き) | Level 1–2 | 200 kcal/200mL | 軽度とろみ可能者 |


6. 多職種連携による栄養管理(日本の医療現場)

職種 役割
管理栄養士 MNA-SF実施、栄養計画立案、食形態と栄養密度の調整
言語聴覚士 安全な食形態レベルの決定、摂食訓練
医師 経管栄養移行の最終判断、基礎疾患の治療
看護師 毎日の食事観察、体重測定、誤嚥サインの早期察知
作業療法士 自助食器・食事補助具、食事姿勢の調整

栄養サポートチーム(NST): 日本では多くの病院でNSTが組織されており、嚥下障害+低栄養のケースはNSTと嚥下チームの合同介入が推奨されます。


総まとめ

嚥下障害患者の低栄養対策の要点:MNA-SF(定期スクリーニング)→ 食事摂取量観察→ 身体計測・生化学指標→ 多職種カンファレンス というサイクルを確立することが重要です。経管栄養への移行は「諦め」ではなく、栄養状態を改善してより安全な経口摂食へ戻るための橋渡しとなることもあります。本人・家族の意思を尊重した栄養管理計画が嚥下障害ケアの核心です。