Dysphagia Knowledge Hub — 吞嚥困難知識庫

嚥下障害患者への経口栄養補助食品(ONS):選択・増粘・臨床活用ガイド

嚥下障害( dysphagia)を抱える患者は、誤嚥リスクを避けながら十分な栄養を摂ることが難しく、低栄養・脱水・体重減少が慢性的な課題となります。経口栄養補助食品(Oral Nutrition Supplement;以下ONS)は、通常の食事を補い、必要エネルギー・タンパク質・微量栄養素の不足を効率よく補填できる有力な手段です。本ガイドでは、STや管理栄養士が臨床現場で即実践できるよう、製品選択・粘度調整・モニタリングまで体系的に解説します。


ONSが必要になる理由

嚥下障害患者には以下の要因が重なり合い、摂取不足が生じやすくなります。

これらの課題に対し、ONSは少量で高密度の栄養を補給できる点で優れており、食事量が50〜75%程度にとどまる患者に特に有効です。


ONSの種類

標準型(1.0 kcal/mL)

水分補給とエネルギー補充を同時に行える基本タイプ。嚥下障害の程度が軽く、食事量が若干不足する患者に適します。

高エネルギー型(1.5〜2.0 kcal/mL)

少量でより多くのカロリーを摂取でき、嚥下疲労のある患者や一回摂取量を制限すべき患者に有用です。1回200 mL未満でも目標エネルギーに近づけます。

疾患特異型


日本で入手可能な主要ONS製品比較

製品名 メーカー エネルギー密度 タンパク質 特記事項
エンシュア・リキッド アボット ジャパン 1.0 kcal/mL(250 mL/250 kcal) 8.8 g/本 医薬品扱い;バニラ・コーヒー等8フレーバー
エンシュアH アボット ジャパン 1.5 kcal/mL(250 mL/375 kcal) 13.2 g/本 高エネルギー版;脂質比率高め
ラコール NF配合経腸用液 大塚製薬工場 1.0 kcal/mL(200 mL/200 kcal) 8.76 g/本 医薬品;乳糖不使用;チョコ・バニラ他
テルミール2.0α テルモ 2.0 kcal/mL(200 mL/400 kcal) 17.8 g/本 超高エネルギー型;食欲不振・少量摂取向き
メイバランス Mini 明治 1.5 kcal/mL(125 mL/187.5 kcal) 7.5 g/本 食品扱い;小容量;果汁系フレーバー豊富
アイソカル 2K Neo ネスレ日本 2.0 kcal/mL(200 mL/400 kcal) 18.0 g/本 食品扱い;高タンパク・高エネルギー

医薬品製品(エンシュア・ラコール)は医師処方が必要。食品扱い製品は処方不要だが、適応・用量は多職種で判断すること。


IDDSI対応:増粘調整の実際

ほとんどのONS製品は出荷時に IDDSIレベル0(薄い液体 / Thin) です。嚥下評価(VF・VE)で処方された粘度に合わせ、増粘剤を用いて調整する必要があります。

IDDSI粘度別・増粘剤目安量(200 mL当たり)

IDDSIレベル 粘度区分 目安粘度(mPa·s) 増粘剤添加量の目安※
レベル1 わずかに濃い(Slightly Thick) 1〜50 約0.5〜1.0 g
レベル2 ネクター状(Mildly Thick) 51〜350 約1.5〜2.5 g
レベル3 ハチミツ状(Moderately Thick) 351〜1750 約3.0〜4.5 g
レベル4 プリン状(Extremely Thick) 1750以上 約5.0〜7.0 g(またはゼラチン固化)

※増粘剤の種類・製品(キサンタンガム系・デンプン系)・液温・ONS製品の組成により増粘特性が異なる。必ず使用する増粘剤の添付文書とIDDSIフォーク/スプーンテストで実測確認すること。

注意点


臨床活用の原則

食事の「補完」として使う

ONSはあくまでも食事を補うものであり、食事そのものを置き換えるものではありません。食事摂取を維持しながら、不足分をONSで補う形が基本です。食事直前のONS提供は食欲を抑制するため避け、食間(10時頃・15時頃) に提供するのが原則です。

口腔疲労・味覚倦怠への対策


モニタリング指標

ONS開始後は以下の指標を定期的に評価し、効果と安全性を確認します。

指標 評価頻度 目標
体重 週1回(急性期)/ 月1〜2回(維持期) 1か月で+0.5〜1 kg、または現体重維持
血清アルブミン / プレアルブミン 月1〜2回 Alb ≥3.5 g/dL(目安)
食事摂取量記録(%) 毎食 目標エネルギーの≥75%を達成
脱水・浮腫サイン 毎日(視診・問診) 口腔乾燥・皮膚ツルゴールの変化に注意
ONS飲用量 毎回記録 処方量の≥80%摂取

経管栄養へのエスカレーション判断基準

以下の状態が2週間以上継続する、または急速に悪化する場合は、経口摂取継続の安全性・実現可能性を多職種で再評価し、経管栄養(経鼻胃管・胃瘻)への移行を検討します。

移行判断は患者・家族の意向、疾患予後、QOLを十分考慮したうえで行い、可能であれば経口摂取との併用(補完的経管栄養) も選択肢に含めます。


まとめ

ONSは嚥下障害患者の栄養管理において有効な手段ですが、「処方して終わり」ではなく、粘度調整・提供タイミング・飲みやすさの工夫・継続的なモニタリングを組み合わせて初めて効果を発揮します。ST・管理栄養士・看護師・医師が連携し、患者個々の嚥下機能・疾患背景・QOLに合わせた選択と調整を続けることが重要です。