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日本の嚥下調整食分類(JSDR)vs IDDSI — 完全対応マッピングガイド

TL;DR

JSDR 2021 コード 名称 対応 IDDSI レベル
0j 嚥下訓練食品(ゼリー状) IDDSI 0(薄い液体)〜 IDDSI 3(液状食)
0t 嚥下訓練食品(とろみ状) IDDSI 2(ネクター状)〜 IDDSI 3(ハニー状)
1j 嚥下調整食1j IDDSI 3(液状食)
2-1 嚥下調整食2-1 IDDSI 4(ピューレ状)
2-2 嚥下調整食2-2 IDDSI 4(ピューレ状) 上位
3 嚥下調整食3 IDDSI 5(みじん切り・湿潤食)
4 嚥下調整食4 IDDSI 6(軟らかく一口サイズ) 〜 IDDSI 7(普通食)
UDF 区分1 容易にかめる IDDSI 6〜7
UDF 区分2 歯ぐきでつぶせる IDDSI 5〜6
UDF 区分3 舌でつぶせる IDDSI 4〜5
UDF 区分4 かまなくてよい IDDSI 3〜4

日本では「JSDR分類」と「UDF」が実務の主流だが、海外・多職種連携ではIDDSIとの対応を把握しておくことが不可欠。本ガイドではすべてのコードを詳細に解説し、よくある混乱ポイントも整理する。


1. なぜ日本は独自の分類を使っているのか

IDDSI(International Dysphagia Diet Standardisation Initiative)が2019年に国際標準として本格稼働する以前から、日本には独自の嚥下食基準が複数存在していた。その背景には次のような事情がある。

歴史的経緯
日本摂食嚥下リハビリテーション学会(以下JSDR)は2013年に初版の「嚥下調整食分類」を公表した。これはそれまで病院・施設ごとにバラバラだった嚥下食の呼称を統一するための国内標準化プロジェクトであり、2021年に改訂版(現行版)がリリースされた。同学会は世界最大規模の摂食嚥下専門学会のひとつであり、その分類は日本全国の病院・老健・特養に深く浸透している。

UDFとの二重構造
消費者向けレトルト・介護食市場では、日本介護食品協議会が定める「ユニバーサルデザインフード(UDF)」が事実上の流通標準として機能してきた。スーパーや薬局で売られる介護食品のパッケージには現在もUDF区分が表示されており、家族介護者にとっての可読性が高い。

IDDSIの普及状況
IDDSIは欧米・オーストラリアを中心に急速に普及し、現在40カ国以上が採用している。日本でも急性期病院や大学病院、国際患者対応施設を中心に認知度が高まっているが、2026年時点で「IDDSI単独運用」に移行した施設は少数派である。多くの施設は「JSDR分類を主軸にIDDSI対応表を補助資料として使う」という折衷運用をとっている。


2. JSDR 嚥下調整食分類2021 — 全コード詳解

コード 0j:嚥下訓練食品(ゼリー状)

嚥下機能が著しく低下した患者への訓練目的で提供されるゼリー製品。経口摂取の再開を目指す最初の一歩として位置づけられる。

コード 0t:嚥下訓練食品(とろみ状)

0jと同じく訓練目的だが、液体にとろみをつけた形態。

コード 1j:嚥下調整食1j

訓練食から食事への移行段階。少量ずつ口から食べる練習が本格化する時期に導入する。

コード 2-1:嚥下調整食2-1

咀嚼機能が極めて低いが、舌と口蓋による押しつぶし(舌圧)がある程度使える段階。

コード 2-2:嚥下調整食2-2

2-1よりわずかに固く、口腔内での操作性がやや向上した段階。舌圧でつぶせる柔らかさを要する。

コード 3:嚥下調整食3

舌と歯ぐきで押しつぶせる軟らかい食形態。咀嚼が不要または最小限でよい。

コード 4:嚥下調整食4

咀嚼能力が低下しているが一定の口腔機能がある段階。最も「普通食に近い」嚥下調整食。


3. UDF(ユニバーサルデザインフード)4区分とIDDSI対応

UDFは日本介護食品協議会が定める自主基準であり、かたさ(N/cm²)と粘度(mPa·s)の数値基準に基づいて4区分に分類される。市販介護食品のほぼすべてにこのマークが付いている。

UDF区分 かたさ(N/cm²) 粘度目安 最近似 IDDSI 最近似 JSDR
区分1:容易にかめる 2.0×10⁵ 以下 IDDSI 6〜7 JSDR 4
区分2:歯ぐきでつぶせる 5.0×10⁴ 以下 IDDSI 5〜6 JSDR 3〜4
区分3:舌でつぶせる 2.0×10⁴ 以下 IDDSI 4〜5 JSDR 2-2〜3
区分4:かまなくてよい 1.0×10³ 以下 1,500以上 IDDSI 3〜4 JSDR 2-1〜2-2

UDFとJSDRの重要な違い:UDFは「かたさ」の上限値のみで区切るため、物性の幅が広い。たとえばUDF区分4の中でも、かたさが1,000 N/m²に近いものとその10分の1のものでは患者への負荷が大きく異なる。JSDR分類のほうが物性の上下限を細かく規定しており、臨床応用に向いている。

えん下困難者用食品(厚生労働省許可基準)

食品表示法に基づく特別用途食品のひとつ「えん下困難者用食品」は、厚生労働省が定める許可基準(かたさ・付着性・凝集性の数値範囲)を満たすことで、保険適用や介護給付のコンテキストで特別表示が認められる。

許可基準 かたさ(N/m²) 付着性(J/m³) 凝集性
基準I(最重度) 2,500 以下 400 以下 0.2〜0.6
基準II 1×10⁴ 以下 1,000 以下 0.2〜0.9
基準III 1.5×10⁴ 以下 1,500 以下 規定なし

IDDSI対応としては、基準IがIDDSI 3〜4、基準IIがIDDSI 4〜5、基準IIIがIDDSI 5に近い。ただしIDDSIはフローテスト(流動性)で規定するのに対し、MHLW基準はレオメーターによる機械的物性値で規定するため、直接換算には専門的な測定が必要になる。


4. JSDR × IDDSI 詳細対応表

以下は臨床・現場で参照しやすいよう整理した総合対応表。「完全一致」ではなく「最も重なりが大きい範囲」として読むこと。

JSDR 2021 IDDSI レベル 対応の確かさ 主な不一致・注意点
0j(ゼリー訓練食) 3 液状食 △(製品依存) 離水・崩壊性でIDDSI 0〜1になる製品もある
0t(とろみ訓練食) 2〜3 ネクター〜ハニー 粘度測定法(ライン拡散 vs シリンジ)で結果が異なる
1j(ゼリー食) 3 液状食 最も対応が明確。均質ゼリーがIDDSI 3の典型例
2-1(ペースト食) 4 ピューレ状 付着性の規定がJSDRのほうが厳格
2-2(ソフト食下位) 4〜5 ピューレ〜みじん切り 硬さの上限域でIDDSI 5に入ることがある
3(ソフト食) 5 みじん切り・湿潤食 「軟らか刻み」の概念が最も近い
4(普通軟食) 6〜7 軟らか一口〜普通食 施設による「4」の定義幅が広い
UDF 区分4 3〜4 かたさ上限のみの規定で幅が広い
UDF 区分3 4〜5 同上
UDF 区分2 5〜6 液状性の評価なし
UDF 区分1 6〜7 嚥下より咀嚼を主眼とした区分

凡例:◎ 対応が高精度、○ 概ね対応、△ 製品・施設定義による


5. 実務上のよくある混乱と対処法

混乱1:「ゼリー=IDDSI 3」と思い込む

JSDR 0j・1jはゼリー状だが、IDDSIのゼリーテスト(フォークドレインテスト)に通るかどうかは製品によって異なる。シリンジフローテストで10 mLが10秒以内に流れるかどうかが IDDSI 3 の基準だが、凝集性の高い寒天ゼリーはテストを通過しない場合がある。臨床現場では使用する製品の公式IDDSIテスト結果を確認するのが最も確実。

混乱2:とろみの「濃さ」の呼称が異なる

日本では「薄いとろみ・中間のとろみ・濃いとろみ」(日本摂食嚥下リハビリテーション学会とろみ付き液体の分類)が使われるが、IDDSIでは「稀薄(Level 1)・ネクター状(Level 2)・ハニー状(Level 3)・プディング状(Level 4)」に分類される。

日本のとろみ表現 IDDSI 対応
薄いとろみ IDDSI 1〜2(稀薄〜ネクター状)
中間のとろみ IDDSI 2〜3(ネクター〜ハニー状)
濃いとろみ IDDSI 3(ハニー状)〜 IDDSI 4(プディング状)

混乱3:JSDR 4 を「普通食でよい」と解釈する

JSDR 4 は普通食の中でも軟らかく・一口サイズ以内というルールがある。施設によっては「4番 = 常食」として通常のご飯・おかずを提供しているケースがあるが、それは誤用。IDDSI 7(普通食)に相当する食事が必要な患者は、嚥下調整食の対象外として記録するのが正確。

混乱4:UDFと厚労省許可基準の混同

UDFは業界自主規格、えん下困難者用食品は国の許可制度であり、根拠と目的が異なる。UDF区分4であっても、MHLWの「基準I」を満たすかどうかは別途測定が必要。保険・給付請求に使う場合は後者の基準を参照すること。


6. 国際患者移送・多職種連携での対応コミュニケーション

外国からの転院患者を受け入れる場合、または日本から海外施設へ転院させる場合は、JSDR コードとIDDSIレベルの両方を退院サマリーに記載することが推奨される。

推奨記載例(退院サマリー)

食事形態:JSDR 嚥下調整食 2-2(相当 IDDSI Level 4 — Purée)
水分:濃いとろみ(相当 IDDSI Level 3 — Liquidised / Honey)
評価日:2026-04-17 / 評価者:言語聴覚士

海外からの患者を受け入れる際は、IDDSI レベルに加えて「その施設でどの測定法を使ったか(フォークドレイン・シリンジ・スプーン傾け)」を確認するとよい。国によってIDDSI適用の厳密さが異なる。


7. どの分類を優先すべきか:日本の病院・施設の実態

2023〜2025年に行われた複数の実態調査(日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌掲載)によると:

ST(言語聴覚士)・管理栄養士へのアドバイス

多職種チームや他施設との連携では、JSDR コードだけでなく、物性値の範囲(かたさ・付着性)あるいはIDDSIレベルを添えることで誤解を防げる。特に転院先の施設が同じ「JSDR 3」という用語を使っていても、実際の食事内容が大きく異なることがある。コードだけでなく具体的な物性値と測定方法を共有する習慣がベストプラクティスとして推奨されている。


引用・参考文献

  1. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」日摂食嚥下リハ会誌 25(2):135-149, 2021
  2. Cichero JAY, et al. “Development of International Terminology and Definitions for Texture-Modified Foods and Thickened Fluids Used in Dysphagia Management: The IDDSI Framework.” Dysphagia 32(2):293-314, 2017. DOI: 10.1007/s00455-016-9758-y
  3. IDDSI Framework — Complete IDDSI Framework Documents 2.0 (2019). https://iddsi.org/framework/
  4. 日本介護食品協議会「ユニバーサルデザインフード自主規格(第4版)」2019年
  5. 厚生労働省「特別用途食品の表示許可等について(えん下困難者用食品)」消食表第〇号, 最終改訂2021年
  6. 栢下淳「嚥下調整食の国際標準化とIDDSI」静脈経腸栄養 34(4):5-11, 2019
  7. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「嚥下食ピラミッド」(廃止・JSDR 2021 に統合)参照: https://jsdr.or.jp

免責事項

本ガイドは一般的な情報提供を目的としており、個々の患者に対する医療・栄養指導の代替ではありません。嚥下障害のある方の食形態・水分粘度は、必ず言語聴覚士(ST)・管理栄養士・医師等の専門職が個別評価のうえ決定してください。分類の境界域にある患者については、VF(嚥下造影)・VE(嚥下内視鏡)等による精密評価を推奨します。

本文書は CC BY 4.0 ライセンスのもとで公開されています。出典明記のうえ自由に複製・改変・再配布が可能です。
出典表記例:Editorial Team editorial team, “日本の嚥下調整食分類(JSDR)vs IDDSI — 完全対応マッピングガイド”, softmeal.org, 2026-04-17, CC BY 4.0