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EAT-10嚥下障害スクリーニングツール完全ガイド:実施方法・判定基準・臨床活用
EAT-10(Eating Assessment Tool-10)は、嚥下障害の自己記入式スクリーニングツールとして世界で最も広く使われているツールの一つです。10項目の質問に回答するだけで、嚥下に問題がある可能性を素早く把握できます。言語聴覚士(SLP/ST)への紹介判断の初期フィルターとして、在宅・施設・外来など幅広い場面で活用されています。
EAT-10とは
- 開発: Belafsky ら(2008年)、米国カリフォルニア大学
- 形式: 10項目の自己記入式質問票
- 各項目の採点: 0(問題なし)〜 4(ひどく問題あり)の5段階
- 合計点: 0〜40点
- カットオフ: 合計3点以上 = 嚥下障害の疑いあり → 専門家(言語聴覚士/医師)への紹介を推奨
- 所要時間: 2〜3分
EAT-10の10項目(印刷用)
以下の10の質問について、それぞれ0〜4の点数をつけてください。
0 = 問題なし 1 = 少し問題あり 2 = 問題あり 3 = かなり問題あり 4 = ひどく問題あり
| 番号 | 質問 | スコア(0〜4) |
|---|---|---|
| 1 | 飲み込むことで体重が落ちた | |
| 2 | 飲み込むことが外食の妨げになっている | |
| 3 | 液体を飲み込むのに努力がいる | |
| 4 | 固形物を飲み込むのに努力がいる | |
| 5 | 錠剤を飲み込むのに努力がいる | |
| 6 | 飲み込むことが辛い(痛みを伴う) | |
| 7 | 食べることの楽しみが飲み込みの問題で減っている | |
| 8 | 飲み込むとき、食べ物がのどに引っかかる感じがする | |
| 9 | 食事中に咳が出る | |
| 10 | 飲み込むことがストレスになっている |
合計点: _____ 点
合計3点以上の場合は、医師または言語聴覚士に相談してください。
判定基準と参照感度・特異度
Belafsky ら(2008年)の検証研究(n=700名)によるデータ:
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 感度(sensitivity) | 86%(嚥下障害を持つ人を正しく検出できる確率) |
| 特異度(specificity) | 73%(嚥下障害がない人を正しく除外できる確率) |
| カットオフ | ≥ 3点 |
| 内的一貫性(Cronbach α) | 0.90(高信頼性) |
| 再検査信頼性 | 0.72(良好) |
感度86%は「見逃しの少なさ」を意味し、スクリーニングツールとして適切な水準です。ただし特異度73%は「偽陽性がやや多い」ことも示しており、スコア≥3でも必ずしも嚥下障害とは限りません。精密検査(VF・FEES)による確定が推奨されます。
疾患別スコア分布(参考値)
| 疾患 | 典型的なEAT-10スコア範囲 |
|---|---|
| 健常高齢者 | 0〜2(大部分) |
| 脳卒中後(急性期) | 10〜25 |
| パーキンソン病(中等度) | 8〜20 |
| 頭頸部癌(治療後) | 15〜30 |
| COPD(重症) | 5〜15 |
| 認知症(中等度) | 評価困難(代理評価が必要) |
EAT-10の限界と注意点
- 認知機能が低下した患者には適用が難しい: 自己記入が前提のため、重度認知症や意識障害のある患者には使えません。この場合は介護者・家族による代理記入(proxy version)を検討しますが、主観的バイアスが入ります。
- 誤嚥の有無は判定できない: EAT-10は「嚥下の問題感覚」を測るもので、実際の誤嚥・気道侵入を直接評価するものではありません。
- 食事テクスチャーの影響: 既に軟食・ペースト食に移行済みの患者はスコアが低く出ることがあります。
他のスクリーニングツールとの比較
| ツール | 所要時間 | 必要なトレーニング | 感度 | 適した設定 |
|---|---|---|---|---|
| EAT-10 | 2〜3分 | なし(自己記入) | 86% | 外来・在宅・施設 |
| GUSS(Gugging Swallowing Screen) | 5〜10分 | 中程度(手順習熟) | 100%(急性期) | 急性期病院 |
| 3オンス水飲みテスト(3-OWT) | 2〜3分 | 最低限 | 73〜76% | 急性期・外来 |
| 反復唾液嚥下テスト(RSST) | 30秒 | 最低限 | 98%(高齢者) | 在宅・施設 |
| 改訂水飲みテスト(MWST) | 2〜3分 | 最低限 | 70% | 在宅・施設 |
使い分けの指針:
- 急性期入院(脳卒中直後など): GUSS が推奨
- 外来・在宅スクリーニング: EAT-10 + RSSTの組み合わせが実用的
- 精密評価が必要: EAT-10のスコアにかかわらず、VFまたはFEESへ
在宅介護者・施設看護師による実施ガイド
実施手順:
- 被評価者が自ら記入できる場合は、静かな環境でひとつずつ質問を読み上げながら記入を補助
- 自己記入が困難な場合は、直近1週間の観察をもとに介護者が代理記入
- 合計3点以上の場合は、かかりつけ医または担当看護師に報告し、言語聴覚士への相談を依頼
施設での定期スクリーニング活用:
- 新規入居時の初回評価に組み込む
- 肺炎・発熱後、体重減少時、食事量減少時にフォローアップとして実施
- 年1回の定期評価に組み込み、経時的な変化を記録
いつ直接STに紹介すべきか
以下の状況ではEAT-10を介さず、直接言語聴覚士または医師へ紹介してください:
- 食事中・食後に毎回むせる
- 食後に発熱が繰り返される(誤嚥性肺炎の疑い)
- 急激な体重減少
- 意識変容・嚥下反射の明らかな消失
- 脳卒中急性期(48時間以内)
本記事は情報提供を目的としており、医療診断・治療の代替となるものではありません。スクリーニングで異常が疑われた場合は、必ず専門家にご相談ください。
ライセンス: CC BY 4.0 — Editorial Team