Dysphagia Knowledge Hub — 吞嚥困難知識庫
FEES vs VF(嚥下造影)の比較ガイド:嚥下内視鏡検査と嚥下造影の使い分け
嚥下機能を精密に評価するための2大検査として、VF(嚥下造影検査、Videofluoroscopic Swallowing Study: VFS)とFEES(嚥下内視鏡検査、Flexible Endoscopic Evaluation of Swallowing)があります。どちらも「誤嚥が起きているかどうか」「どの嚥下相に問題があるか」を客観的に評価する検査ですが、原理・見えるもの・適応場面が大きく異なります。この比較ガイドでは、各検査の特徴と使い分けを詳しく解説します。
VF(嚥下造影検査)の概要
VFはX線透視下にバリウム造影剤を服用・摂取してもらいながら、嚥下の様子をリアルタイムで動画記録する検査です。Modified Barium Swallow Study(MBS)とも呼ばれます。
見えるもの:
- 口腔期(舌の動き・食塊の形成)
- 咽頭期(嚥下反射のタイミング・喉頭挙上・声門閉鎖)
- 食道期(食道入口部の開放・食道蠕動)
- 気道侵入(penetration)・誤嚥(aspiration)の有無と程度
嚥下造影での誤嚥評価ゴールドスタンダード: VFはPenetration-Aspiration Scale(PAS: 8段階)を用いた定量評価が可能で、嚥下機能評価の「ゴールドスタンダード」とされています。
FEES(嚥下内視鏡検査)の概要
FEESは鼻腔から細径の軟性内視鏡を挿入し、咽頭・喉頭を直接観察しながら嚥下を評価する検査です。放射線を使用せず、ベッドサイドでも実施できます。
見えるもの:
- 咽頭・喉頭の安静時・嚥下時の構造
- 嚥下前後の食物残留(vallecular residue, pyriform sinus residue)
- 気道侵入・誤嚥(嚥下後の声帯上・声帯下への食物流入)
- 実際の食事を使った評価が可能
FEES固有の「ホワイトアウト」: 嚥下瞬間は咽頭壁が内視鏡に密着して真っ白になり(white-out)、嚥下直後のみ観察可能です。嚥下瞬間そのものはVFのほうが明瞭に評価できます。
VF vs FEES:直接比較表
| 評価項目 | VF(嚥下造影) | FEES(嚥下内視鏡) |
|---|---|---|
| 口腔期の評価 | 詳細に評価可能 | 評価困難 |
| 咽頭期の評価 | 詳細に評価可能 | 嚥下直前・直後のみ |
| 食道期の評価 | 詳細に評価可能 | 評価不可 |
| 誤嚥の検出精度 | ゴールドスタンダード | VFと同等〜やや低(研究により差あり) |
| 放射線被曝 | あり(X線) | なし |
| 実施場所 | 放射線科・透視室 | ベッドサイド・外来・施設 |
| 実際の食物使用 | バリウム混合食のみ | 実際の食事が使用可能 |
| 繰り返し実施 | 被曝制限あり | 制限なし(繰り返し可能) |
| 患者負担 | バリウム服用、立位・座位保持が必要 | 鼻腔挿入の不快感あり |
| 費用 | 比較的高い(透視装置・バリウム) | 比較的安価(内視鏡のみ) |
| 必要なスタッフ | 放射線技師+ST | STのみ(医師立会が望ましい) |
どちらを選ぶべきか:適応の指針
VFが適している場合
- 嚥下障害の原因が不明で、口腔期から食道期まで全体を評価したい
- 食道逆流・食道通過障害が疑われる
- 姿勢変換・代償手技の効果を透視下で確認したい
- 精密な嚥下機構の分析が必要(例:研究目的、術前評価)
FEESが適している場合
- ICU・病室でのベッドサイド評価が必要
- 放射線被曝を避けたい(妊婦、小児、頻回評価)
- 実際の食物を使って評価したい(バリウムの味・食感が問題になる場合)
- 嚥下訓練の経過観察として繰り返し評価が必要
- 喉頭・咽頭の構造を直視したい(腫瘍・麻痺・浮腫の確認)
検査結果の読み方
Penetration-Aspiration Scale(PAS)— VF用
1〜8の8段階スケール:
- 1: 気道侵入なし(正常)
- 3〜5: 喉頭侵入(penetration)— 声門より上
- 6〜8: 誤嚥(aspiration)— 声門以下への侵入
- 8: 不顕性誤嚥(silent aspiration)— 咳反射なしの誤嚥
FEES残留評価(Yale Residue Scale等)
- Vallecular residue(喉頭蓋谷残留): 中程度以上で嚥下後追加の嚥下が必要
- Pyriform sinus residue(梨状窩残留): 高リスク — 食後体位管理が重要
検査後:食事形態変更への接続
VF/FEESの結果は、食事形態の決定に直結します:
| 検査所見 | 推奨される対応 |
|---|---|
| 液体の誤嚥あり | 増粘剤使用(ネクター状〜ハニー状) |
| 固形物の咽頭残留多い | 軟食・ミキサー食へのテクスチャー変更 |
| 姿勢代償で誤嚥消失 | 顎引き嚥下・頸部回旋など姿勢補助を日常化 |
| 不顕性誤嚥(全液体・固形) | 経口摂食の安全性を多職種で検討、経管栄養の適応評価 |
検査施設の探し方
日本
- 日本嚥下医学会(https://www.swallowing.jp/):会員施設名簿から嚥下専門外来を持つ病院を検索
- 大学病院・リハビリ病院の「嚥下外来」「摂食嚥下外来」に直接問い合わせ
- かかりつけ医から紹介状を取得してから予約するのが一般的
香港
- FEES: 香港病院管理局(HA)管轄の公立病院(例:Queen Mary Hospital, Tuen Mun Hospital)では音声療法部(Speech Therapy Department)が実施
- VF: 各公立病院の放射線科(Radiology Department)
- 私立病院(Canossa Hospital, Matilda International Hospital等)でも対応可
患者・家族が受診前に準備すること
- 現在の食事形態・摂食状況をメモ(どんな食品でむせるか、食事時間、体重変化)
- 常用薬のリスト(バリウムアレルギー・造影剤アレルギーの確認のため)
- 直近の嚥下スクリーニング結果(EAT-10スコア等)があれば持参
- 検査当日は検査前2〜3時間の絶食が必要な場合あり(施設の指示に従う)
本記事は情報提供を目的としており、医療診断・治療の代替となるものではありません。嚥下機能の精密検査が必要かどうかは、言語聴覚士または担当医にご相談ください。
ライセンス: CC BY 4.0 — Editorial Team