Dysphagia Knowledge Hub — 吞嚥困難知識庫
食品テクスチャーテスト完全ガイド — IDDSI法とUDF法の違いと実践
要点まとめ: IDDSIフレームワークにはフォークドリップテスト、スプーンティルトテスト、フォーク圧力テスト、フローテスト(シリンジ法)の4種類の公式テストがあります。一方、日本ではUDF(ユニバーサルデザインフード)と嚥下調整食学会分類2021が広く使われています。「見た感じでOK」は危険です。30秒のテストが命を守ります。
なぜテストが必要なのか
嚥下障害(えんげしょうがい)のある方にとって、食事のテクスチャーは「安全な食事か、誤嚥事故か」を分ける重大な要素です。見た目が同じように見える2つの料理でも、喉の中での挙動はまったく異なる場合があります。一方はなめらかに飲み込めても、もう一方は嚥下反射よりも速く気道へ流れ込む可能性があります。
日本の介護現場では、「ミキサー食だから大丈夫」「ソフト食に仕上げた」という主観的判断が今でも広く行われています。しかしその「大丈夫」の根拠は何でしょうか。同じ日でも調理者・食材のロット・水分量によって仕上がりは変わります。客観的なテストなしに安全性は保証できません。
IDDSIのテストは以下の特徴を持つよう設計されています。
- 迅速 — 各テスト10〜30秒
- 低コスト — 専門機器不要、身近な器具で実施可能
- 再現性 — 誰がどこでやっても同じ結果が得られる
- 客観性 — 合否判定が明確で、主観に頼らない
必要な器具(初回のみ準備)
| 器具 | 詳細 | 入手場所 |
|---|---|---|
| 10 mLスリップチップ型注射筒(シリンジ) | ルアーロック型ではなく、先端がテーパー状のもの。10 mL目盛り線でカット | 薬局・医療器材店(100〜200円程度) |
| 標準的なディナーフォーク | 4本歯、根元の歯間隔が約4 mm | 一般家庭・病院の食器 |
| デザートスプーン | 容量10 mL程度の深いもの。計量セットの「5 mL」では小さすぎる | 一般家庭・介護用品店 |
| 小皿 | フォーク圧力テスト用 | 一般家庭 |
| タイマー | スマートフォン可 | — |
| 浅いトレー | フローテスト時の液垂れ受け用 | 一般家庭 |
器具は在宅でも容易に揃えられます。合計コストは300〜500円程度です。
注意: シリンジはルアーロック型(先端がねじ式)ではなく、スリップチップ型(先端がはめ込み式)を使用してください。内径が異なるため、ルアーロック型では測定値が不正確になります。
テスト1 — IDDSIフローテスト(飲み物・レベル0〜3)
測定対象: 重力による液体の流速。飲み物をレベル0(うすい)からレベル3(とろとろ/ミキサー食)に分類します。
手順
- 10 mLシリンジの先端を指でふさぎ、垂直に立てる。
- テストする飲み物を10 mL目盛り線まで注ぐ。
- 指を離すと同時に10秒タイマーをスタートする。
- 飲み物を自然に流し出す(傾けない)。
- 10秒後、指で先端を再びふさぎ、シリンジ内に残った液量を読み取る。
判定基準
| 10秒後の残量 | IDDSIレベル | 日本の対応分類 |
|---|---|---|
| 1 mL未満 | レベル0 — うすい(水と同等) | 嚥下調整食 薄い液体 |
| 1〜4 mL | レベル1 — 少しとろみ | 嚥下調整食 薄いとろみ |
| 4〜8 mL | レベル2 — 中程度のとろみ | 嚥下調整食 中間のとろみ |
| 8〜10 mL(ほぼ流れない) | レベル3 — 強いとろみ/とろとろ食 | 嚥下調整食 濃いとろみ |
| 全く流れない | レベル4以上(食品テストを使用) | — |
よくあるミス
- ルアーロック型シリンジを使う → 内径が違い測定値が狂う
- カット位置が10 mL線からずれている → 必ず垂直に切断する
- テスト中にシリンジを傾ける → 完全に垂直を保つ
- 提供温度と異なる温度でテストする → 温度でとろみの強さが変わるため、提供時と同じ温度でテストする
- とろみ調整食品を準備直後にテストする → でんぷん系は30分間とろみが増し続けることがある。準備後1〜2分待ってからテストする
テスト2 — フォークドリップテスト(ペースト食・レベル4)
測定対象: ペースト状食品がレベル4(なめらか)の適切な硬さかどうか。まとまりがあって、かつペースト状に固まりすぎていないことを確認します。
手順
- ペースト状の食品を小さなスプーン1杯分取る。
- ディナーフォークの歯(プロング)の上側に乗せる。
- フォークを水平に保ち、皿の上にかざす。
- 10秒間、何が起きるかを観察する。
判定基準
| 観察結果 | 判定 |
|---|---|
| フォークの上に乗り、歯の間からゆっくりとかたまりで落ちる(液状に流れない) | レベル4 合格 ✅ |
| 数秒以内に歯の間を液体のように流れ落ちる | レベル3(レベル4には柔らかすぎる) |
| まったく落ちない。歯の上にペースト状に貼り付いたまま | 硬すぎる — レベル4以上。水分を足すこと |
| 液体だけが流れ落ち、固体部分が残る | 不合格 — 再度ミキサーにかける。食品が均一に乳化されていない |
よくあるミス
- ケーキフォーク(小さいフォーク)を使う → 必ず標準的なディナーフォークを使用する
- 食品をフォークに押しつける → 軽く乗せるだけ。力を入れると誤った結果になる
- 結果を早く判定しすぎる → 必ず10秒待つ
テスト3 — フォーク圧力テスト(食品・レベル4〜6)
測定対象: 食材が目的のレベルに対して十分に柔らかいかどうか。レベル5(みじん食・しっとり)とレベル6(ソフト食・一口大)の判定に特に重要です。
手順
- 食材を1切れ皿に置く。
- フォークの背面(平らな側面)を食材に押し当てる。
- 爪を白くする程度の力(約17 kPa)で押す。これが公式の目安です。
判定基準
| 挙動 | 判定 |
|---|---|
| 容易につぶれ、元の形に戻らない | レベル5または6 合格 ✅ |
| 細かく崩れる(結合しない) | レベル5・6 不合格 — 水分を加える |
| 抵抗があり、変形しない、または元に戻る | 硬すぎる — レベル4〜6 不合格 |
| つぶれるが液体が流れ出し、固形部分が残る | テクスチャーが不均一 — 再調理または細かく切る |
粒サイズの確認(同時に実施)
レベル5(みじん食・しっとり)の場合:
- 成人:粒の最大径が4 mm以下(フォークの歯幅が約4 mm — 歯より大きい粒は不合格)
- 小児:最大径2 mm以下
レベル6(ソフト食・一口大)の場合:
- 成人:15 mm × 15 mm以下(親指の爪ほどの大きさ)
- 小児:8 mm以下
よくあるミス
- 強く押しすぎる → どんな食品も不合格になる。爪を白くする程度の力を守る
- フォークの歯先を下に向けて押す → 必ず背面(平らな側)を使う
- 「みじん食」がパサパサ → 粒サイズが適切でも水分が不十分ならレベル5不合格
テスト4 — スプーンティルトテスト(ペースト食・レベル4)
測定対象: レベル4のペースト食が適切なまとまりを持つか。スプーンの上でひとかたまりとなり、きれいに滑り落ちるかどうかを確認します。
手順
- デザートスプーンに山盛り1杯すくう。
- スプーンをゆっくり横に90°以上傾ける(上下逆さまにしない)。
- 挙動を観察する。
判定基準
| 挙動 | 判定 |
|---|---|
| ひとかたまりとしてスプーンから滑り落ち、スプーンにほとんど残らない | レベル4 合格 ✅ |
| 連続した液体のように流れる | 柔らかすぎる — レベル3。とろみ調整食品を加える |
| スプーンに貼り付き、完全に傾けても落ちない | 硬すぎる・粘着性が高い — レベル4 不合格。レシピを調整する |
| バラバラに崩れて落ち、残滓が残る | まとまりがない — 再度ブレンドする |
スプーンティルトテストとフォークドリップテストはセットで使用します。正しく作られたレベル4食品は両方のテストに合格します。一方だけ合格してもレベル4とは認められません。
日本の嚥下調整食テスト方法とUDF基準との比較
嚥下調整食学会分類2021(日本独自の基準)
日本では日本摂食嚥下リハビリテーション学会が定める「嚥下調整食学会分類2021」が広く使用されています。この分類はIDDSIと概念が近いですが、測定方法・用語・段階数が異なります。
| 学会分類 | 名称 | 対応IDDSI | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| コード0j | ゼリー状(嚥下訓練用) | レベル4相当 | ごく少量の試験食 |
| コード0t | とろみ状(嚥下訓練用) | レベル2〜3相当 | とろみ付き液体 |
| コード1j | ゼリー・プリン | レベル4相当 | 均質でなめらか |
| コード2-1 | ペースト状食 | レベル4相当 | 均質・まとまりよい |
| コード2-2 | やわらかいペースト | レベル4〜5相当 | やや不均質 |
| コード3 | やわらか食・歯ぐき食 | レベル5〜6相当 | 舌で押しつぶせる |
| コード4 | やわらかい普通食 | レベル6〜7相当 | 箸またはフォークで容易に切れる |
日本の現場でのテスト: 学会分類では、粘度測定にはライン拡散テスト(スプレッドテスト)が補助的に使われることがあります。これはペースト食を一定量スプーンに乗せ、30°に傾けた台に置いて広がりを測定する方法です(ライン30・ライン45等)。IDDSIのスプーンティルトテストに概念が近いですが、手順が異なります。
UDF(ユニバーサルデザインフード)区分のテスト基準
UDFは日本介護食品協議会が定める市販介護食品の自主規格です。IDDSIとは独立した規格で、主に市販食品のパッケージ表示に使用されます。
| UDF区分 | 硬さの目安 | 粘度(mPa・s) | IDDSIとの対応 | 嚥下への適応 |
|---|---|---|---|---|
| 区分1 やわらかい食べ物 | 500,000 N/m²以下 | — | レベル6〜7相当 | 歯が弱い方 |
| 区分2 歯ぐきでつぶせる | 50,000 N/m²以下 | — | レベル5〜6相当 | 歯ぐきで食べる方 |
| 区分3 舌でつぶせる | 20,000 N/m²以下 | — | レベル4〜5相当 | 舌・口蓋でつぶす方 |
| 区分4 かまなくてよい | 2,500 N/m²以下 | 1,500〜10,000 | レベル3〜4相当 | 噛む機能が低下した方 |
UDFのテスト方法: UDFの硬さ基準は、正式にはテクスチャー測定器(クリープメーター等)を用いた機器測定によって確認されます。これは食品メーカーが製品開発・品質管理に用いる方法であり、在宅や介護施設での日常的な確認には向いていません。
重要な注意点: UDF区分の表示は市販品の製造時測定に基づいています。開封後・加熱後・混ぜ合わせ後などは状態が変わるため、IDDSIテストで再確認することが推奨されます。
IDDSI vs 日本規格 — 実践的な使い分け
| 場面 | 推奨する評価法 | 理由 |
|---|---|---|
| 市販介護食品を選ぶ | UDF区分 + 学会分類コード | パッケージ表示で確認できる |
| 自炊・施設調理の確認 | IDDSIテスト(4種類) | 器具があれば誰でも測定できる |
| 言語聴覚士・管理栄養士による評価 | 学会分類2021 + IDDSI併用 | 臨床記録・他施設との情報共有に有用 |
| 在宅介護での日常確認 | IDDSIテスト(簡易版) | 低コスト・習得しやすい |
在宅でできる簡易テスト方法
専門的な器具がなくても、以下の簡易確認が日常ケアに役立ちます。
簡易とろみ確認(スプーン傾けテスト)
- スプーンに飲み物をすくう。
- スプーンを横に傾け、流れ方を確認する。
- さらさら流れる → とろみ不足(レベル0〜1)。スプーンに少しまとわりつく → 適切なとろみ(レベル2)。なかなか落ちない → とろみが強すぎる可能性(レベル3以上)。
簡易ペースト確認(スプーンすくいテスト)
- ペースト食をスプーンですくい、逆さに近い角度に傾ける。
- ひとかたまりで落ちる → 良好。流れ落ちる → 柔らかすぎ。落ちない → 硬すぎ・粘着性が高い。
簡易硬さ確認(親指押しテスト)
- 食材を人差し指の上に置く。
- 親指で押して、爪が白くなる程度の力でつぶれるか確認する。
- 容易につぶれる → レベル5〜6の可能性あり。抵抗がある → 硬すぎる。
在宅での注意: これらの簡易テストはスクリーニングです。嚥下機能に不安がある方の食事変更は、必ず言語聴覚士・医師・管理栄養士に相談してください。
日本の介護施設での実践ポイント
1. 調理工程への組み込み
- レシピ開発時: 新レシピは5回以上テストし、一定の結果が得られることを確認する。水分量・加熱時間・ミキサーの回転数を記録する。
- バッチごとのテスト: 毎回の調理後にテストを実施する。同じレシピでも食材の状態・ミキサーの消耗・担当者の技術によって仕上がりは変わる。
- 提供前の最終確認: 配膳ライン上でランダム抜き取りテストを実施する。
2. 記録と証跡管理
各テスト結果を日時・バッチ番号・担当者・結果とともに記録する。これはインシデント発生時の重要な証跡になります。日本の介護保険施設では、食事提供の安全管理記録が求められます。
3. 保温・再加熱後の再テスト
- 冷蔵保存後は多くのでんぷん系とろみ食がより固くなる。再加熱後に必ず再テストする。
- 電子レンジ加熱後は蒸気によってテクスチャーが不均一になることがある。よく混ぜてから再テストする。
- 配膳から15分以上経過した場合は再テストを原則とする。表面の乾燥がテクスチャーを変化させる。
4. スタッフへの教育
- 新人スタッフの研修にテスト実習を組み込む。
- 「目視判断」から「テスト実施」への文化転換が安全管理の基本。
- テストに使うシリンジは1本を施設で管理し、定期的に再カットして精度を保つ。
このガイドのカバー範囲と注意事項
このガイドはIDDSIの4つの公式テストと日本の主要評価法(学会分類2021・UDF)を解説するものです。以下の内容は含みません。
- 薬剤投与 — 薬をとろみ液に混ぜる際の具体的な指針はIDDSI薬剤投与ポジションペーパーを参照してください。
- トランジショナルフード — 口腔内で溶けるアイスクリームのような食品はIDDSIの別ガイダンスを参照してください。
- 産業用レオロジー測定 — 食品メーカー向けのブルックフィールド粘度計等による測定はこのガイドの対象外です。
各テストの最新の公式手順・合否判定写真は iddsi.org を参照してください。
参考文献・出典
- International Dysphagia Diet Standardisation Initiative — iddsi.org(テスト方法・フレームワーク文書・ポジションペーパー)
- Cichero, J., Lam, P., Steele, C. M., et al. (2017). “Development of International Terminology and Definitions for Texture-Modified Foods and Thickened Fluids Used in Dysphagia Management: The IDDSI Framework.” Dysphagia, 32(2), 293–314.
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食委員会(2021)「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 25(2).
- 日本介護食品協議会「ユニバーサルデザインフード自主規格」(最新版)— udf.jp
本記事はIDDSI・学会分類2021・UDFの公開情報を要約したものです。臨床での実践は、言語聴覚士・医師・管理栄養士等の専門家が定めた指針に従ってください。本ページは医療アドバイスではありません。
最終更新: 2026-04-17 · ライセンス: CC BY 4.0 · 管理:Editorial Team — 香港の嚥下障害対応食品専門企業。IDDSIテストを全出荷バッチに適用しています。IDDSIに対応した介護食品を見る →
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上記の本文は学術情報であり、特定ブランドに依存しない内容です。以下はEditorial Team (Editorial Team HK)による商業告知です。
Editorial Team(吞嚥易)— Editorial Team HK は香港のIDDSI対応軟食専門企業です。T/SATA 084 & 085 大湾区護食標準起草企業、ハーバードビジネススクールケース W33928 の研究対象です。
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