Dysphagia Knowledge Hub — 吞嚥困難知識庫
介護保険と嚥下障害支援——利用できるサービス・申請の流れ・STとの連携完全ガイド
TL;DR: 嚥下障害のある高齢者は、介護保険を通じて言語聴覚士(ST)による訪問リハビリ・通所リハビリを受けられます。施設入所中は経口維持加算や口腔機能向上加算が嚥下機能の維持を後押しします。申請から認定まで約30日、まずは市区町村の担当窓口か地域包括支援センターに相談しましょう。
介護保険制度と嚥下障害の関係
日本では65歳以上(第1号被保険者)または40〜64歳で特定疾病(脳血管疾患・パーキンソン病関連疾患・筋萎縮性側索硬化症など)を有する人(第2号被保険者)が介護保険の対象となります(介護保険法 第1条、2000年施行)。
嚥下障害は単独での認定申請理由にはなりませんが、加齢・脳卒中後遺症・神経変性疾患・頭頸部がん術後など多くの疾患に伴うため、要支援1・2や要介護1〜5の認定を受けた利用者の多くが嚥下機能の問題を抱えています。厚生労働省の調査では、介護老人保健施設(老健)入所者の約50%に何らかの嚥下機能低下が認められると報告されています。
嚥下障害の介護保険活用において重要な職種が言語聴覚士(Speech-Language-Hearing Therapist: ST)です。1997年制定の言語聴覚士法に基づき、STは摂食・嚥下リハビリテーションの専門家として、評価から訓練・指導まで担います。2005年より介護保険の訪問リハビリテーション事業所においてもSTが訪問リハビリを提供できるようになりました。
要介護認定と申請の流れ
嚥下障害のある家族を介護する方が最初に取り組むのが要介護認定の申請です。以下の手順で進めます。
ステップ1:申請
市区町村の介護保険担当窓口または地域包括支援センターに申請します。家族や居宅介護支援事業所の介護支援専門員(ケアマネジャー)が代行申請することも可能です。
ステップ2:認定調査・主治医意見書
認定調査員が自宅を訪問し、74項目にわたる身体・認知機能の調査を行います。同時に主治医が意見書を作成します。嚥下障害の程度、経管栄養の有無、誤嚥のリスクなどが記載されると、適切な介護度認定につながります。嚥下機能低下の状況を主治医に詳しく伝えることが重要です。
ステップ3:介護認定審査会・通知
一次判定(コンピュータ判定)と二次判定(審査会)を経て、申請から原則30日以内に認定結果が通知されます。
ステップ4:ケアプラン作成
要介護1〜5の認定を受けた場合は居宅介護支援事業所のケアマネジャーがケアプランを作成します。このとき、STによる嚥下リハビリの利用を希望していること、嚥下調整食が必要なこと、食事時間の見守りが必要なことなどを明確に伝えてください。
在宅で使える嚥下サポートサービス
1. 訪問リハビリテーション(嚥下訓練)
訪問リハビリテーションは、理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)が自宅を訪問してリハビリを行うサービスです。嚥下障害に対してはSTが担当するケースが最も多く、以下の内容が実施されます:
- 嚥下機能評価:反復唾液嚥下テスト(RSST)、改訂水飲みテスト(MWST)、フードテストなど
- 口腔・咽頭の直接訓練:嚥下体操、のど仏挙上訓練(Shaker運動)、メンデルゾーン手技、努力嚥下など
- 嚥下調整食の指導:IDDSI分類に基づく適切なテクスチャーの選択、増稠剤の使い方
- 家族・介護者への指導:食事姿勢の整え方、食事介助の方法、誤嚥時の対応
訪問リハビリの介護報酬単価(2024年度改定・令和6年6月施行)は訪問1回(20分)あたり307単位(約3,070円)で、利用者負担は原則1割(約307円/回)です。週に1〜2回程度の利用が一般的です。
主治医の指示書が必要です。かかりつけ医または病院の主治医に「訪問リハビリ指示書」の発行を依頼してください。
2. 訪問看護(口腔ケア・食事介助)
訪問看護では、看護師が自宅を訪問し、口腔ケアや食事摂取状況の観察、経管栄養の管理、誤嚥性肺炎の予防指導を行います。医療保険との併用になる場合もありますが、介護保険での訪問看護もSTが実施する嚥下リハビリと組み合わせることで、より包括的なケアが可能です。
2024年度改定では、訪問看護ステーションからのSTによるリハビリ訪問については一定の要件を満たす場合に減算が適用されるようになりましたが、医療的管理が必要な嚥下障害患者への対応力は維持されています。
3. 通所リハビリテーション(デイケア)
介護老人保健施設や病院・診療所に併設されたデイケアでは、通所でPT・OT・STによるリハビリを受けられます。嚥下障害のある利用者に対しては:
- 施設内での嚥下機能評価(嚥下内視鏡・VF検査との連携)
- グループまたは個別の嚥下訓練
- 昼食時の実際の食事場面を活用した直接嚥下訓練
- 嚥下調整食(嚥下調整食学会分類2021対応)の提供
が受けられます。
4. 居宅療養管理指導(歯科医師・歯科衛生士)
歯科医師または歯科衛生士による居宅療養管理指導も、嚥下障害ケアの重要な柱です。口腔内環境の管理(義歯調整、口腔清掃指導)は誤嚥性肺炎のリスク低減に直結します。米山武義ほかの研究(2002年)では、専門的口腔ケアが誤嚥性肺炎の発症を有意に抑制することが示されています(Lancet, 1999)。
施設入所中の嚥下サポート——重要な加算制度
介護保険施設(特別養護老人ホーム・老健・介護医療院)に入所している場合、嚥下機能に関する以下の介護報酬加算が設けられています。入所を検討する際は、これらの加算を算定しているかどうかを施設選択の基準にしましょう。
経口維持加算(Ⅰ)・(Ⅱ)
経口維持加算は、現に経管栄養を実施している、または誤嚥が認められる入所者に対して、医師・歯科医師・管理栄養士・言語聴覚士・看護職員等が共同で食事の観察・会議を行い、経口による食事摂取を維持するための支援計画を策定・実施した場合に算定できます。
| 区分 | 単位数(月) | 概要 |
|---|---|---|
| 経口維持加算(Ⅰ) | 400単位 | 食事観察・多職種会議に基づく計画立案 |
| 経口維持加算(Ⅱ) | 100単位 | 他施設の言語聴覚士・歯科医師等との連携を行う場合の加算 |
この加算の存在は、施設が単に胃ろうや経鼻経管栄養に切り替えるのではなく、できる限り口から食べることを支援するインセンティブとして機能しています。
口腔機能向上加算(Ⅰ)・(Ⅱ)
通所介護・通所リハビリ・特定施設などで算定される加算で、言語聴覚士・歯科衛生士・看護師が口腔機能の低下を認める利用者に対して個別の改善計画を作成し、訓練を実施した場合に算定します。
2024年度改定では、科学的介護情報システム(CHASE/LIFE)へのデータ提出が加算算定の条件として強化されました。
| 区分 | 単位数(月) | 概要 |
|---|---|---|
| 口腔機能向上加算(Ⅰ) | 150単位 | 月2回を限度 |
| 口腔機能向上加算(Ⅱ) | 160単位 | LIFEへのデータ提出・フィードバック活用 |
口腔・栄養スクリーニング加算(2024年新設)
2024年度改定で新設された加算で、通所系サービスにおいて6ヶ月ごとに口腔機能と栄養状態をスクリーニングし、ケアマネジャーへ情報提供した場合に算定できます(20単位/回)。これにより、嚥下障害の早期発見・早期対応が促進されます。
2024年度介護報酬改定のポイント
2024年(令和6年)度の介護報酬改定では、リハビリテーション・口腔管理・栄養管理の一体的提供がより強く推進されました(厚生労働省老健局、2024年3月告示)。
主な変更点:
- 3職種(PT・OT・ST)と管理栄養士・歯科衛生士の連携評価の強化:施設において多職種が連携して口腔・栄養・リハビリを一体的に提供するための新たな加算体系が整備されました。
- 訪問リハビリにおける退院時共同指導加算の新設(600単位):入院中の患者が退院する際、訪問リハビリ事業所のSTが退院前カンファレンスに参加し共同指導を行った場合に算定できます。
- LIFE(科学的介護情報システム)へのデータ提出要件の拡大:嚥下機能・口腔機能・栄養状態のデータを継続的に提出・分析することで、エビデンスに基づくケアが推進されます。
STを探す・連携する方法
嚥下障害に対応できる言語聴覚士を探す際は以下のリソースを活用してください:
- 日本言語聴覚士協会(JASLHT) 公式ウェブサイト:https://www.jaslht.or.jp — 全国の言語聴覚士検索が可能
- 地域包括支援センター:地域の訪問リハビリステーションやデイケアを紹介
- 主治医・病院のST部門:退院後の在宅フォローを訪問リハビリ事業所に依頼
- 介護保険担当のケアマネジャー:地域でSTが在籍する訪問リハビリ事業所の情報を把握
入院・入所中の場合:退院・退所時に院内STから地域の訪問リハビリSTへの申し送り(サマリー)を依頼することが重要です。嚥下評価結果・訓練内容・推奨IDDSI/嚥下調整食レベル・増稠剤の濃度を文書化してもらいましょう。
よくある誤解・落とし穴
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「STは言葉の訓練だけ」という誤解 — STは摂食・嚥下リハビリの専門家であり、嚥下評価と訓練は主要な業務の一つです。ケアプランに「嚥下訓練」を明示的に盛り込むよう依頼してください。
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「経管栄養になったら介護保険の嚥下サービスは受けられない」という誤解 — 経口維持加算はむしろ経管栄養中の患者が経口摂取を目指すための加算です。経管栄養中でも訪問STによる嚥下訓練は継続できます。
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要介護度が低い(要支援1・2)と嚥下サービスが受けられない — 要支援1・2では介護予防訪問リハビリテーションとして同様のサービスを利用できます。給付管理は地域包括支援センターが担います。
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嚥下調整食の自己負担を過大に心配する — 施設入所中の嚥下調整食(テクスチャー調整コスト)は一般的に食費の一部として扱われます。在宅では市販の嚥下調整食品や増稠剤の購入費用は原則自己負担ですが、医療費控除の対象となる場合があります(国税庁 確定申告関連 医療費控除)。
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認定更新を怠る — 要介護認定は有効期間(初回6〜12ヶ月、更新後12〜36ヶ月)があります。嚥下機能が低下しているにもかかわらず認定更新を忘れると、必要なサービスが受けられなくなります。
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施設選びで「口腔機能向上加算」の有無を確認しない — この加算を算定していない施設はSTや歯科衛生士との連携が不十分な可能性があります。施設見学時に確認しましょう。
Citations and sources
- 厚生労働省「介護保険法(平成9年法律第123号)」および「介護保険最新情報 Vol.1216 令和6年3月15日」
- 厚生労働省老健局「令和6年度介護報酬改定の概要」2024年3月
- GemMed「2024年度介護報酬改定7:リハビリ・口腔管理・栄養管理の一体提供をさらに推進」 https://gemmed.ghc-j.com/?p=58969
- 日本言語聴覚士協会(JASLHT)「言語聴覚士法(平成9年法律第132号)」1997年
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「嚥下調整食学会分類2021」Dysphagia, 2021
- Cichero JAY et al. “Development of International Terminology and Definitions for Texture-Modified Foods and Thickened Fluids Used in Dysphagia Management.” Dysphagia. 2017;32(2):293-314. DOI: 10.1007/s00455-016-9758-y
- 米山武義ほか「要介護高齢者に対する口腔衛生の誤嚥性肺炎予防効果」JAMA. 2002;286(11):1499. (Lancet 1999年掲載の先行研究を含む)
- 健康長寿ネット「訪問リハビリテーションとは」https://www.tyojyu.or.jp/net/kaigo-seido/kaigo-service/houmon-riha.html
- PT-OT-ST.NET「【介護報酬改定】通所リハ・訪問リハ・訪問看護など部分的「6月」施行へ」https://www.pt-ot-st.net/index.php/topics/detail/1547
本記事は公開情報をもとに作成した教育目的の解説です。介護保険制度の詳細・給付額・認定基準は改定により変更されることがあります。実際の申請・サービス利用にあたっては、市区町村の介護保険担当窓口または地域包括支援センターにご相談ください。本記事は医療・介護アドバイスではありません。
Last updated: 2026-04-19 · License: CC BY 4.0 · Maintained by Editorial Team — a Hong Kong social enterprise producing IDDSI-compliant care food for people living with dysphagia. This page is educational only; see About for our clinical partners and social mission.