ベッドサイド嚥下評価とは
ベッドサイド嚥下評価(BSE:Bedside Swallow Evaluation)は、X線や内視鏡などの機器を使わずにベッドサイドで実施できる嚥下(えんげ)スクリーニング・評価法です。日本では急性期病院・回復期病院・特養(特別養護老人ホーム)・老健(介護老人保健施設)・在宅介護の現場で、看護師・介護士・言語聴覚士(ST)が担当します。
BSEは、嚥下造影(VF)や嚥下内視鏡(FEES)などの機器検査の「前段階」として位置づけられ、誤嚥(ごえん)リスクをスクリーニングする役割を担います(ASHA, 2023)。
誰がBSEを実施するか
日本では、嚥下スクリーニングの実施者は職種によって役割が異なります:
| 職種 | 実施内容 |
|---|---|
| 看護師 | 初期スクリーニング(水飲みテスト・RSST等) |
| 介護士 | 食事観察・摂取状況記録・STへの報告 |
| 言語聴覚士(ST) | 詳細なBSE・評価報告書作成・食形態の決定 |
| 管理栄養士 | 栄養評価・食形態の実施管理 |
BSEの主要コンポーネント
1. 病歴・情報収集
- 基礎疾患(脳卒中・神経疾患・認知症など)
- 嚥下に影響する薬剤(抗コリン薬・向精神薬など)
- 過去の誤嚥性肺炎・入院歴
- 食事に関する本人・家族の訴え
2. 口腔・咽頭の観察
- 口腔内の状態(歯牙・義歯・口腔乾燥・粘液貯留)
- 口唇・舌・軟口蓋(なんこうがい)の運動
- 発声(「アー」発声の持続時間・質・嗄声の有無)
- 咽頭反射(刺激への反応)
3. 姿勢・認知機能の確認
- 意識レベル(JCS・GCS)
- 指示に従える程度
- 座位保持能力(自立・介助の度合い)
- 注意力・集中力の評価
4. 嚥下スクリーニングテスト
反復唾液嚥下テスト(RSST)
30秒間に唾液(だえき)を繰り返し嚥下させ、喉頭(こうとう)挙上(きょじょう)の回数を数えます。
- 正常:3回以上
- 要注意:2回以下 → STへの紹介を推奨
詳細はRSST専門ガイドを参照してください。
改訂水飲みテスト(MWST:Modified Water Swallowing Test)
3mLの冷水を口腔内に含ませて嚥下させ、以下を評価します:
- 嚥下できたか
- むせ・咳嗽の有無
- 嚥下後の声質変化(濡れた声)
スコア(1〜5点):
- 1点:嚥下なし、またはむせ・著明な喉頭挙上不全
- 2点:嚥下あり、むせなし、湿性嗄声/呼吸変化
- 3点:嚥下あり、むせなし、呼吸良好、湿性嗄声なし
- 4点:3点に加え、追加嚥下が2回以内に可能
- 5点:4点に加え、30秒以内に5回の嚥下が可能
スコア3点以下はSTへの紹介を推奨します。
フードテスト(Food Test)
ゼリー(IDDSIレベル4相当・JDS-C 2021コード2相当)4gを使用し、口腔内での処理・嚥下・残留を評価します。スコア・判定基準はMWSTに準じます。
BSEの限界
BSEはスクリーニングであり、以下の限界があります:
- サイレント誤嚥は検出できない可能性:神経疾患(脳卒中・認知症)では咳反射が低下し、誤嚥しても咳が出ないことがあります。BSEで問題がなくてもVFやFEESでサイレント誤嚥が発見される場合があります(ASHA, 2023)。
- 咽頭・食道期の詳細評価はできない
- 評価者のトレーニングが必要
サイレント誤嚥が疑われる場合はSTへの紹介と機器検査を検討してください。
BSEの結果に基づく食形態の選択
BSEの結果をもとに、STと管理栄養士が協働して食形態を決定します。IDDSIとJDS-C 2021対照表:
| IDDSI レベル | JDS-C 2021コード | BSEスコアの目安 |
|---|---|---|
| レベル3〜4 | コード1〜2 | RSST 1回以下、MWST 2点以下 |
| レベル5 | コード3 | MWST 3〜4点 |
| レベル6 | コード4 | MWST 4〜5点 |
| レベル7 | 通常食 | MWST 5点 |
詳細はIDDSIフレームワークを参照してください。
介護職・看護師が日常で注意すべきサイン
食事介助中に以下を観察し記録することが重要です:
- 食事中・食後のむせ・咳
- 声のかすれ(特に食後の「濡れた声」)
- 食事に時間がかかりすぎる(30分以上)
- 食事中に眠る・疲労が強い
- 食後の口腔内残留(ほほや歯茎に食物が残る)
- 食後の発熱
これらが観察された場合は速やかにSTへ報告し、紹介の判断基準を参照してください。
食事介助の実践については安全な食事介助ガイドを参照してください。
参考文献・引用
- ASHA(米国言語聴覚士協会). Adult Dysphagia. https://www.asha.org/practice-portal/clinical-topics/adult-dysphagia/
- IDDSI(国際嚥下調整食分類). The IDDSI Framework. https://www.iddsi.org/framework
- Logemann JA, et al. (1998). PubMed PMID: 26315994
- 日本嚥下医学会. https://www.jsdr.or.jp/
- 日本嚥下調整食学会. 嚥下調整食学会分類2021. 2021.
本記事は医療・介護専門職および家族介護者への情報提供を目的としています。個々の治療方針は担当医・言語聴覚士にご相談ください。