医療・介護専門家向け情報
このページは、嚥下困難への対応に携わる医療・介護専門家向けに、実践的な情報をまとめています。
対象読者:言語聴覚士(ST)、管理栄養士(RD)、介護福祉士(CW)、看護師、歯科衛生士、リハビリテーション科医、老年科医など。
嚥下評価ツール
嚥下評価は大きく「スクリーニング」と「精密検査」に分かれます。スクリーニングは介護施設や在宅でも実施可能で、精密検査は医療機関で行われます。
スクリーニングツール
EAT-10(Eating Assessment Tool-10)
概要:10項目の自記式質問票。嚥下困難の主観的症状を定量化するスクリーニングツール。Beladinfan et al. (2008) により開発され、日本語版の信頼性・妥当性が検証されている。
評価方法:各項目を0(問題なし)〜4(ひどい問題あり)の5段階で評価。合計スコアが3点以上で嚥下困難の可能性があり、精査が推奨される。
特徴:短時間(2〜3分)で実施可能。主観的指標であり、認知機能低下のある方には補助者の回答が必要。
用途:外来・入院・施設入所時のスクリーニング。縦断的評価(治療効果のモニタリング)。
反復唾液嚥下テスト(RSST: Repetitive Saliva Swallowing Test)
概要:小野木らにより開発された日本発のスクリーニング法。嚥下の随意的開始能力と反復能力を評価する。
評価方法:
- 検者は対象者の喉頭(喉ぼとけ)と舌骨に指を当てる
- 「唾液を飲み込んでください」と指示し、30秒間で何回空嚥下できるかを計測
- 喉頭の挙上(ごっくんと動く)を触診で確認しながら計測
判定基準:
| 30秒間の回数 | 判定 |
|---|---|
| 3回以上 | 正常(スクリーニング陰性) |
| 2回以下 | 嚥下困難の疑い(精査が推奨される) |
特徴:道具不要。口腔内に何も入れないため安全。随意的嚥下機能の評価には有効だが、誤嚥の有無は評価できない。
改訂水飲みテスト(MWST: Modified Water Swallowing Test)
概要:才藤らが開発した水飲みテストの改訂版。少量の冷水を用いて嚥下機能をスクリーニングする。
評価方法:
- 3mlの冷水をシリンジ(または計量スプーン)で舌の上に注ぐ
- 嚥下を指示し、嚥下後の以下を観察・評価する
判定基準(5段階):
| スコア | 所見 |
|---|---|
| 1 | 嚥下できない、または嚥下の試みが見られない |
| 2 | 嚥下できるが、呼吸切迫・喘鳴・湿性嗄声・口腔残留のいずれかあり |
| 3 | 嚥下できるが、呼吸変化あり(スコア2の所見なし) |
| 4 | 嚥下でき、呼吸変化・湿性嗄声なし |
| 5 | スコア4に加え、追加2回の嚥下が良好 |
スコア4以上かつ2回の追加嚥下が良好であれば「正常」。スコア3以下で嚥下困難の疑い。
特徴:少量水を用いるため、完全な嚥下困難者にも安全に実施できる。ベッドサイドで実施可能。
フードテスト(FT: Food Test)
概要:茶さじ1杯(約4g)のプリンまたはゼリー状食品を用いたスクリーニング。水飲みテストでは評価困難な咀嚼・食塊形成機能もあわせて評価できる。
評価方法:改訂水飲みテストと同様の5段階評価。追加で、口腔内残留・嚥下後の咳・声質変化を観察。
精密検査(医療機関)
嚥下造影検査(VF / Videofluoroscopy)
嚥下評価の「ゴールドスタンダード」。硫酸バリウムを混合した造影剤入り食物をX線透視下で嚥下させ、嚥下の全プロセスを動画評価する。
評価可能な項目:
- 誤嚥の有無・部位(声門上・声門下)
- 喉頭侵入(penetration)の有無
- 咽頭残留の部位と量
- 食道入口部の開大・通過
- 嚥下反射惹起の遅延
- 代償姿勢・代償嚥下法の効果確認
実施場所:放射線科設備のある病院(回復期リハビリ病院、大学病院等)
嚥下内視鏡検査(VE / Videoendoscopy、FEES)
鼻腔から経鼻的に軟性内視鏡を挿入し、咽頭・喉頭部を直接観察しながら嚥下を評価する。
評価可能な項目:
- 咽頭・喉頭の解剖学的異常
- 咽頭残留の部位と量(色付き食物を使用)
- 喉頭侵入・誤嚥の有無(VFより鮮明な場合も)
- 声帯運動・喉頭閉鎖機能
VFとの比較:
| 項目 | VF(造影) | VE(内視鏡) |
|---|---|---|
| 被曝 | あり | なし |
| 実施場所 | 放射線室 | ベッドサイド可能 |
| 嚥下全過程の評価 | 可 | 咽頭・喉頭期のみ |
| 色付き食物での残留評価 | 困難 | 容易 |
| コスト | 高い | 中程度 |
IDDSIの臨床実践
食形態処方の書き方
食形態の処方・記録には、IDDSIレベルと嚥下調整食学会分類2021を併記することが推奨されます。
記載例:
食事形態:IDDSI Level 5(Minced & Moist)/学会分類2021 嚥下調整食2-2
飲料:IDDSI Level 3(Moderately Thick)/学会分類2021 中間のとろみ
根拠:VE(2025年12月実施)にて軽度咽頭残留あり。誤嚥は認めない。
見直し時期:3か月後(2026年3月)または状態変化時随時
フォークテスト・シリンジテストの臨床活用
- 病棟・施設の調理スタッフと共有する食形態確認ツールとして活用
- スタッフ研修での実技演習素材として有効
- 転院・転所時の食形態情報共有の共通言語として機能
代償嚥下法
言語聴覚士が指導する代表的な代償嚥下法:
| 方法 | 適応 | 内容 |
|---|---|---|
| 頸部前屈嚥下 | 喉頭侵入・誤嚥リスクの軽減 | あごを引いた姿勢で嚥下。気道入口を相対的に狭める。 |
| 一側嚥下 | 一側性咽頭麻痺 | 健側を下にして頭部を回旋させて嚥下。 |
| 複数回嚥下 | 咽頭残留の軽減 | 1回の食物に対して2回以上嚥下を行う。 |
| 努力嚥下 | 咽頭収縮力低下 | 意識的に強く飲み込む動作を行う。 |
| バルサルバ嚥下 | 声門下・梨状窩残留 | 息をこらえながら力んで嚥下する。 |
嚥下リハビリテーション:間接訓練と直接訓練
間接訓練(食物を用いない訓練)
| 訓練名 | 目的 | 方法 |
|---|---|---|
| 口腔顔面マッサージ | 口唇・舌・頬の感覚改善、筋の準備 | 口腔周囲の筋を温める、ストレッチ |
| 舌圧訓練(舌挙上訓練) | 舌押し潰し力の向上 | Iowst Oral Pressure Instrument(IOPI)等使用 |
| 嚥下おでこ体操(頭部挙上訓練) | 舌骨挙上・喉頭挙上筋力向上 | 仰臥位で頭部のみ挙上し足先を見る |
| シャキア運動 | 食道入口部開大改善(輪状咽頭筋弛緩促進) | 仰臥位で繰り返し頭部挙上 |
| 呼吸訓練 | 咳嗽力の向上(誤嚥物の排出能力) | 腹式呼吸、ハフィング訓練 |
| 口腔ケア | 口腔内細菌の減少、誤嚥性肺炎予防 | 歯ブラシ・スポンジブラシによる清拭 |
直接訓練(食物を用いた訓練)
直接訓練はリスク管理のもとで行います。VE/VFによる誤嚥の有無の確認、覚醒状態・呼吸状態の安定が前提です。
- 食形態はIDDSI Level 4〜5から開始し、評価に基づいてレベルアップ
- 一口量は少量(ティースプーン1杯)から開始
- 食事前・中・後の観察(咳・声質・SpO2・疲労度)
- 食後の口腔ケアを徹底する
多職種連携(MDT)の枠組み
嚥下困難の管理は多職種チームアプローチが不可欠です。
| 職種 | 主な役割 |
|---|---|
| 言語聴覚士(ST) | 嚥下評価(スクリーニング・VF/VE)、直接訓練・間接訓練の立案・実施、食形態の推奨 |
| 管理栄養士(RD) | 食形態に応じた栄養計画、とろみ剤・補助食品の選定、体重・栄養状態のモニタリング |
| 看護師 | 日常の食事観察、口腔ケアの実施、医師・STへの報告 |
| 介護福祉士 | 食事介助の実施、食事中の観察と記録、姿勢管理 |
| 歯科衛生士 | 専門的口腔ケア、義歯管理、口腔機能評価 |
| 医師(老年科・リハ科等) | 嚥下困難の医学的診断、経口摂取可否の総合判断、経管栄養の導入・中止の意思決定 |
経管栄養との関係
嚥下困難が重度な場合、一時的または長期的に経管栄養(経鼻胃管・胃ろう)が行われることがあります。
- 経管栄養中でも嚥下リハビリを継続することが推奨される(廃用を防ぐため)
- 経口摂取の再開は、VE/VF評価・全身状態・本人・家族の意思を総合して判断
- 日本では介護保険制度において、看護師・介護福祉士による胃ろう管理(一定の研修修了者)が認められている
参考資料・ガイドライン
| リソース | 種別 | 入手先 |
|---|---|---|
| 嚥下調整食学会分類2021 | 日本の公式ガイドライン | 日本摂食嚥下リハビリテーション学会(JSDR)公式サイト |
| IDDSI Framework(日本語版) | 国際標準フレームワーク | www.iddsi.org(日本語版あり) |
| 摂食嚥下障害の評価2019 | 評価法の詳細解説 | JSDR 嚥下機能評価標準化委員会 |
| 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」 | 薬剤の嚥下影響 | 日本老年医学会サイト |
| 厚生労働省「栄養ケア・マネジメントの基準」 | 介護保険加算要件 | 厚生労働省ウェブサイト |
関連ページ
最終更新:2026年5月13日
免責事項:このページは専門家向けの教育的情報の提供を目的としています。臨床的判断は個々の患者・利用者の状態、施設の基準、最新のエビデンスに基づいて行ってください。