嚥下困難(嚥下障害)とは?

嚥下困難(えんげこんなん)、または**嚥下障害(えんげしょうがい)**とは、食物や飲料を口から胃に送り込む「嚥下(飲み込み)」のプロセスに何らかの問題が生じた状態を指します。医学的には「嚥下機能障害」とも呼ばれます。

嚥下は一見単純な動作に見えますが、実際には口唇・舌・咽頭・食道などの筋肉群と、それらを制御する神経系が協調して働く、非常に精巧なメカニズムです。この連携が崩れると、食物が気道(気管)に誤って入り込む**誤嚥(ごえん)**が生じ、重篤な合併症につながることがあります。


嚥下の正常なプロセス

嚥下は大きく4段階に分けられます。

  1. 先行期(認知期):食物を見て、匂いを嗅ぎ、食べることを意識する段階。認知症ではここから障害されることがある。
  2. 準備期(口腔準備期):口の中で食物を噛み砕き、唾液と混ぜて嚥下しやすい形(食塊)にする段階。
  3. 口腔期:舌が食塊を喉の奥(咽頭)へ送り込む段階。
  4. 咽頭期・食道期:反射的な嚥下運動が起こり、食塊が食道を通って胃に届く段階。気道は喉頭蓋で閉じられる。

原因

嚥下困難は特定の疾患に限らず、さまざまな原因で生じます。

神経・筋疾患

加齢による変化(老嚥・サルコペニア嚥下障害)

加齢に伴い、嚥下関連筋の筋力・柔軟性・反応速度が低下します。これを老嚥(ろうえん)、またはサルコペニア嚥下障害と呼びます。明確な疾患がなくても75歳以上で嚥下困難が生じることは珍しくありません。

その他の原因


症状・危険サイン

以下の症状が見られる場合、嚥下困難が疑われます。早めに専門家に相談してください。

食事中・食後の症状

全身的な変化

サイレント誤嚥(不顕性誤嚥)に注意:誤嚥していても咳が出ない「サイレント誤嚥」は、特に高齢者・脳卒中後患者に多く見られます。咳がないからといって誤嚥がないとは限りません。食後の発熱や湿性嗄声にも注意が必要です。


合併症:誤嚥性肺炎

**誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)**は、嚥下困難に伴う最も深刻な合併症のひとつです。食物・唾液・胃液などが気道に誤嚥されることで肺に炎症が起きます。


日本の嚥下困難をめぐる状況

項目数値・情報
嚥下困難を有する脳卒中患者の割合約50〜70%(急性期)、約10〜30%(退院時)
施設入居高齢者における嚥下困難の割合約50〜80%
在宅高齢者における軽度嚥下困難の推定割合約30〜40%
嚥下困難に関わる主な専門職言語聴覚士(ST)、管理栄養士、歯科衛生士、看護師

嚥下評価:受診・相談の流れ

嚥下困難が疑われる場合、以下のような専門的評価が行われます。

スクリーニング検査(介護現場でも実施可能)

精密検査(医療機関)

相談窓口


嚥下困難の管理:基本的な考え方

嚥下困難の管理は、以下の4つのアプローチを組み合わせて行います。

1. 食形態の調整

食物のテクスチャーと飲料のとろみを、その方の嚥下能力に合ったレベルに調整します。国際基準であるIDDSIと、日本の嚥下調整食学会分類2021に基づいて行います。

IDDSIガイドを見る →

2. 嚥下リハビリテーション

言語聴覚士による個別の嚥下訓練(間接訓練・直接訓練)。舌の筋力トレーニング、姿勢調整、代償嚥下法(横向き嚥下、複数回嚥下等)。

3. 姿勢・食事環境の調整

食事時の体幹・頸部の姿勢、食器・食具の選択、食事環境(照明、静粛性、一人あたりの時間)の最適化。

4. 口腔ケア

口腔内の細菌数を減らし、誤嚥性肺炎のリスクを低下させる。専門的口腔ケア(歯科衛生士・看護師)と日常的口腔清潔維持の両輪が必要。


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最終更新:2026年5月13日

免責事項:このページは一般的な教育情報の提供を目的としており、個別の医療診断・治療の代替となるものではありません。嚥下困難が疑われる場合は、医師または言語聴覚士にご相談ください。