嚥下内視鏡検査(FEES)とは
嚥下内視鏡検査(えんげないしきょうけんさ、FEES:Fiberoptic Endoscopic Evaluation of Swallowing)は、細い内視鏡(ファイバースコープ)を鼻腔(びくう)から咽頭(いんとう)に挿入し、嚥下の様子を直接観察する検査です。放射線を使わず、ベッドサイドでも実施でき、繰り返し行えることから日本の急性期病院・回復期病院・施設で広く活用されています。
日本嚥下医学会(www.jsdr.or.jp)は、嚥下造影検査(VF)と並んで、FEESを嚥下機能の客観的評価における中心的なツールとして位置づけています。
FEESの適応と利点
主な適応場面
- 急性期病院でのベッドサイド嚥下評価
- 気管切開(きかんせっかい)患者の嚥下評価
- VFが実施困難な場合(造影剤アレルギー・移動困難)
- 繰り返しの評価が必要なリハビリテーション経過観察
- 特養・老健などの施設での嚥下評価(移動型内視鏡使用)
FEESの利点
| 項目 | FEES | VF(嚥下造影) |
|---|---|---|
| 放射線被曝 | なし | あり |
| 実施場所 | ベッドサイド可 | X線透視室が必要 |
| 繰り返し実施 | 容易 | 被曝量の制限あり |
| 咽頭・喉頭の直接観察 | 可能(詳細) | 間接観察 |
| 嚥下中の「ホワイトアウト」 | あり(喉頭閉鎖中) | なし |
| コスト | 比較的低 | 高 |
ホワイトアウトとは、嚥下の瞬間に内視鏡が咽頭粘膜に当たり映像が白くなる現象です。喉頭(こうとう)が閉鎖している間は映像が得られないため、嚥下中の誤嚥は直接確認できません(嚥下前後の残留・侵入は観察可能)。
FEESで確認できること
- 嚥下前の咽頭・喉頭の状態(唾液の貯留・粘膜の発赤)
- 食塊(しょっかい)の咽頭通過と梨状陥凹(なしじょうかんおう)・喉頭蓋谷(こうとうがいこく)への残留
- 声門(せいもん)上・声門への侵入(penetration)
- 嚥下後の喉頭・咽頭への食物残留
- 声帯(せいたい)の可動域と閉鎖の程度
FEES実施の手順
検査前の準備
- 患者への説明と同意取得(検査の目的・手順・不快感について)
- 鼻腔麻酔(必要に応じてキシロカインスプレー)
- 嚥下評価に使用する食品・とろみ食の準備(通常は色素を添加して視認性を上げる)
内視鏡の挿入と観察
- 細径ファイバースコープ(直径2〜4mm)を鼻腔から挿入
- 鼻咽頭・咽頭・喉頭の静的観察(構造異常・粘膜所見)
- 唾液嚥下を指示して嚥下反射の有無を確認
- 食品(スプーン1杯〜5mL)を使った嚥下評価
- IDDSIレベルに沿った各食形態での評価
FEES評価に使用する食形態
FEESでは通常、以下の順序でIDDSIレベルに沿った食品を試します:
- IDDSIレベル3(中間のとろみ):JDS-C 2021とろみ(中)
- IDDSIレベル4(ピューレ状):JDS-C 2021コード2
- IDDSIレベル6(軟らかな一口サイズ):JDS-C 2021コード4
- IDDSIレベル0(液体):水(誤嚥リスクが低いと判断した場合のみ)
詳細はIDDSIフレームワークを参照してください。
FEES所見の読み取りと記録
主要所見の分類(Penetration-Aspiration Scale:PAS)
Rosenbek PASは、嚥下評価における誤嚥・侵入の程度を1〜8点で評価する標準的スケールです(ASHA, 2023):
| スコア | 所見 |
|---|---|
| 1 | 気道内への侵入なし |
| 2〜5 | 声門上への侵入(penetration)・除去の有無 |
| 6〜8 | 声門下への誤嚥(aspiration)・咳反応の有無 |
スコア8(誤嚥を認めても咳がない)は「サイレント誤嚥(silent aspiration)」であり、特にリスクが高い状態です。
残留(residue)の評価
食後の咽頭・喉頭残留は以下の部位別に記録します:
- 喉頭蓋谷(こうとうがいこく)
- 梨状陥凹(なしじょうかんおう)両側
- 咽頭後壁
残留が多いほど、続く嚥下での誤嚥リスクが高まります。
日本の医療制度における位置づけ
FEESは、日本の診療報酬において「嚥下機能検査」(D237)として算定できます(実施は耳鼻咽喉科医・リハビリテーション科医などが行います)。言語聴覚士が検査に参加・支援することが多く、ST主導のFEESプロトコルを採用している施設も増えています。
特養・老健では施設往診医が携帯型内視鏡(portable FEES)を持参して実施するケースもあります。
FEESの限界と注意点
- 嚥下中(ホワイトアウト中)の誤嚥は直接確認できない
- 食道期の評価はできない(食道病変の評価はVFまたは内視鏡が必要)
- 実施者のトレーニングが必要(誤った解釈を避けるため)
- 一部患者では鼻腔への内視鏡挿入が困難(鼻中隔弯曲・粘膜腫脹)
STへの紹介とFEES実施の判断基準
以下の場合は速やかにSTへの紹介とFEES評価を検討してください:
- 経口摂取開始前の嚥下機能確認
- ベッドサイド評価のみでは誤嚥の有無が不明確
- 繰り返す誤嚥性肺炎
- 食形態変更の根拠が必要な場合
- カニューレ抜去前の評価
食事介助の実践については安全な食事介助ガイドも参照してください。
参考文献・引用
- ASHA(米国言語聴覚士協会). Adult Dysphagia. https://www.asha.org/practice-portal/clinical-topics/adult-dysphagia/
- IDDSI(国際嚥下調整食分類). The IDDSI Framework. https://www.iddsi.org/framework
- Logemann JA, et al. (1998). PubMed PMID: 26315994
- 日本嚥下医学会. https://www.jsdr.or.jp/
- 日本嚥下調整食学会. 嚥下調整食学会分類2021. 2021.
本記事は医療・介護専門職および家族介護者への情報提供を目的としています。個々の治療方針は担当医・言語聴覚士にご相談ください。