ST嚥下評価報告書とは
言語聴覚士(ST)による嚥下(えんげ)評価が終わると、評価結果をまとめた「嚥下評価報告書」が作成されます。この報告書は、介護スタッフ・看護師・管理栄養士・家族が日々の食事介助に活用する重要な指示書です。
しかし、専門用語が多く「何を意味するのかわからない」という声も少なくありません。この記事では、報告書に記載される主要な項目と用語を、介護職・家族がわかりやすく理解できるよう解説します。
報告書の主要セクション
1. 評価日・評価方法
- ベッドサイド嚥下評価(BSE)のみ:機器を使わない臨床評価
- 嚥下造影(VF):X線と造影剤を使って嚥下をビデオで評価
- 嚥下内視鏡(FEES):鼻から内視鏡を入れて喉の動きを直接見る
2. 主な所見
口腔期(こうくうき)の所見
| 記載内容 | 意味 |
|---|---|
| 「舌運動障害あり」 | 舌をうまく動かせず食物をまとめにくい |
| 「口腔内残留」 | 飲み込んだ後も口の中に食物が残る |
| 「食塊形成不良」 | 食物をひとまとめにする能力が低い |
咽頭期(いんとうき)の所見
| 記載内容 | 意味 |
|---|---|
| 「嚥下反射遅延」 | 飲み込む反射が遅い |
| 「喉頭挙上不全」 | のど仏が十分に上がらない |
| 「咽頭残留」 | 飲み込んだ後もノドに食物が残る |
| 「梨状陥凹残留」 | ノドの両側のくぼみに食物が残る |
誤嚥(ごえん)の記載
| 記載内容 | 意味 |
|---|---|
| 「嚥下前誤嚥」 | 飲み込む前に食物が気管に落ちる |
| 「嚥下中誤嚥」 | 飲み込む瞬間に誤嚥する |
| 「嚥下後誤嚥」 | 飲み込んだ後に残留物が気管に落ちる |
| 「サイレント誤嚥」 | 誤嚥しているのにむせない(危険!) |
3. PASスコア(侵入・誤嚥スケール)
Penetration-Aspiration Scale(PAS)は1〜8点のスケール:
| スコア | 意味 | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 1〜2 | 正常または軽微な侵入 | 通常の食事継続 |
| 3〜5 | 声門上侵入 | 食形態・量の調整 |
| 6〜7 | 気管への誤嚥・排除あり | 嚥下調整食が必要 |
| 8 | サイレント誤嚥 | 経口摂取の安全性を要検討 |
推奨食形態の読み方
IDDSIレベル表記
| 記載例 | 意味 |
|---|---|
| 「IDDSI Level 4推奨」 | ピューレ・ムース状の食品が安全 |
| 「IDDSI Level 5推奨」 | ミンチ状・ひき肉状が安全 |
| 「IDDSI Level 6推奨」 | 軟らかい一口サイズが安全 |
| 「IDDSI Level 2水分」 | 薄いとろみをつけた水分が安全 |
詳細はIDDSIフレームワークを参照してください。
JDS-C 2021コード表記
| 記載例 | 意味 |
|---|---|
| 「コード2推奨」 | ペースト・スクランブルエッグ状の食品 |
| 「コード3推奨」 | まとまりのある軟らかい食品(軟菜) |
| 「コード4推奨」 | 軟菜・全粥など |
| 「とろみ水(中)推奨」 | 中間のとろみをつけた水分 |
代償的嚥下技術の記載
報告書に「◯◯法を使用すること」と記載されている場合の意味:
| 記載内容 | 実践方法 |
|---|---|
| 「チンタック(頸部前屈)法」 | 食事中はあごを胸に近づける |
| 「一口量の制限(5mL以下)」 | スプーン1杯を少なめにする |
| 「交互嚥下法」 | 固形物と水分を交互に飲み込む |
| 「複数回嚥下」 | 1口ごとに2〜3回飲み込む |
| 「頸部回旋(患側へ)」 | 麻痺がある側に首を向けて飲み込む |
要注意事項の記載
報告書の最後や赤字部分には、特に注意が必要な事項が記載されます:
- 「水分のみとろみ必要」:食事はそのままでもよいが、お茶や水にはとろみが必須
- 「経口摂取禁止(NPO:Nothing Per Os)」:口から食べないよう医師の指示があるケース
- 「経管栄養との併用」:口からも食べるが経管栄養も必要なケース
- 「食後30分は座位保持」:食後すぐに横にならないよう注意
報告書を日常ケアに活かすために
- 報告書を食事介助担当者全員で共有する:シフトで変わる介護者も必ず内容を確認
- 食形態・水分形態は指示通りに守る:勝手に変えない(安全側に変えるのも原則NGで要ST確認)
- 観察したことを記録する:むせ・咳・摂取量・食事時間などを介護記録に残す
- 変化があればすぐにSTに報告:「最近よくむせる」「食事量が急に減った」などの変化は早急に報告
安全な食事介助の実践ガイドとSTへの紹介タイミングも参照してください。
参考文献・引用
- ASHA(米国言語聴覚士協会). Adult Dysphagia. https://www.asha.org/practice-portal/clinical-topics/adult-dysphagia/
- IDDSI(国際嚥下調整食分類). The IDDSI Framework. https://www.iddsi.org/framework
- Logemann JA, et al. (1998). PubMed PMID: 26315994
- 日本嚥下医学会. https://www.jsdr.or.jp/
- 日本嚥下調整食学会. 嚥下調整食学会分類2021. 2021.
本記事は医療・介護専門職および家族介護者への情報提供を目的としています。個々の治療方針は担当医・言語聴覚士にご相談ください。