言語聴覚士(ST)とは
言語聴覚士(げんごちょうかくし、ST:Speech-Language-Hearing Therapist)は、言語・聴覚・嚥下(えんげ)・認知・発声などのコミュニケーションおよび摂食嚥下機能に関する評価・訓練・支援を行う国家資格の専門職です。日本では「言語聴覚士法(1997年)」に基づき、STは医師の指示のもとで嚥下リハビリテーションを実施します。
日本全国に約3万6千人のSTが在籍(2023年現在)しており、急性期病院・回復期病院・介護老人保健施設(老健)・特別養護老人ホーム(特養)・在宅訪問などで活動しています(日本嚥下医学会、www.jsdr.or.jp)。
嚥下障害管理における主要な役割
1. 嚥下機能評価
STは嚥下障害の評価において中心的な役割を担います:
- ベッドサイド嚥下評価(BSE):病室・施設・自宅で実施できる臨床評価
- 嚥下造影検査(VF)への参加:医師とともにVFプロトコルを計画・実施
- 嚥下内視鏡(FEES)の実施または参加:STがFEESを直接実施する施設も増えています
- 反復唾液嚥下テスト(RSST)・改訂水飲みテスト(MWST)の実施
STによる評価の結果は、食形態の決定・栄養管理・嚥下訓練の計画に直結します(ASHA, 2023)。
2. 食形態・水分形態の決定
STは管理栄養士と協働して、IDDSIおよびJDS-C 2021(嚥下調整食学会分類2021)に基づいた食形態・水分形態を決定します:
| IDDSI レベル | JDS-C 2021コード | STが決定する状況例 |
|---|---|---|
| レベル2〜3(とろみ) | とろみ水 | 液体誤嚥リスクあり |
| レベル4(ピューレ) | コード2 | 重度の咽頭・口腔期障害 |
| レベル5(ミンチ) | コード3 | 中等度の障害 |
| レベル6(軟らかい一口) | コード4 | 軽度の障害・回復期 |
詳細はIDDSIフレームワークを参照してください。
3. 嚥下訓練の立案と実施
STは嚥下訓練を個別に計画・実施します:
間接訓練(食物を使わない訓練):
- 口腔体操(口唇・舌・頬の筋力訓練)
- 咽頭冷刺激(アイスマッサージ)
- Shaker運動(頭部挙上訓練)
- バルーン拡張法(食道入口部狭窄への対応)
直接訓練(食物を使った訓練):
- 段階的な食形態アップ
- 嚥下代償技術の指導(チンタック・頸部回旋・交互嚥下)
- 一口量・嚥下速度のコントロール
4. 患者・家族・介護職への指導
STの重要な役割の一つは、患者本人だけでなく家族・介護職員への教育です:
- 安全な食事介助技術の指導
- 食形態調整の方法(自宅での調理法)
- 緊急時の対応(むせ・窒息時の対処)
- 口腔ケアの方法
5. 多職種チームへの情報共有
STはカンファレンスやケアプランにおいて嚥下機能の情報を共有し、チームアプローチを主導します:
| 職種 | STとの連携内容 |
|---|---|
| 医師 | 嚥下評価依頼・検査実施・方針決定 |
| 看護師 | 食事観察記録・安全管理の共有 |
| 管理栄養士 | 食形態・栄養目標の協働決定 |
| 介護士 | 食事介助技術の共有・指導 |
| 理学療法士(PT) | 座位保持・体幹機能のリハビリ連携 |
| 作業療法士(OT) | 自助具・食器の選択・上肢機能 |
STによる嚥下訓練の効果
エビデンスに基づくSTの介入は以下の効果が報告されています(ASHA, 2023):
- 誤嚥性肺炎の発症率低下
- 経口摂取率の向上(経管栄養からの離脱)
- QOLの改善(食べる喜びの回復)
- 介護負担の軽減
STへのアクセス方法
急性期・回復期病院
入院中は担当医の指示でSTが病棟に来て評価・訓練を行います。
特養・老健
施設配置(常勤・非常勤)のSTが嚥下評価・訓練・スタッフ指導を行います。
在宅
訪問言語聴覚士が自宅を定期訪問します。以下のサービスで提供されます:
- 訪問リハビリテーション(介護保険):医療機関・老健からの訪問ST
- 訪問看護ステーション:STが所属する訪問看護ステーションからの訪問
- 外来ST:週1〜2回、病院・クリニックのリハビリ外来に通院
ST紹介の具体的なサインと手順、安全な食事介助の実践ガイドも参照してください。
参考文献・引用
- ASHA(米国言語聴覚士協会). Adult Dysphagia. https://www.asha.org/practice-portal/clinical-topics/adult-dysphagia/
- IDDSI(国際嚥下調整食分類). The IDDSI Framework. https://www.iddsi.org/framework
- Logemann JA, et al. (1998). PubMed PMID: 26315994
- 日本嚥下医学会. https://www.jsdr.or.jp/
- 日本嚥下調整食学会. 嚥下調整食学会分類2021. 2021.
本記事は医療・介護専門職および家族介護者への情報提供を目的としています。個々の治療方針は担当医・言語聴覚士にご相談ください。