なぜ早期紹介が重要か
嚥下(えんげ)障害への早期介入は、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)・低栄養・脱水の予防に直結します。ASHAの報告によれば、嚥下障害が未治療のまま放置されると、誤嚥性肺炎のリスクが5〜9倍に上昇するとされています(ASHA, 2023)。
しかし、日本の急性期病院や施設では、嚥下障害のサインを見逃したり、「様子を見よう」と判断が遅れるケースが少なくありません。本記事では、言語聴覚士(ST)に紹介すべき具体的なサインと手順を解説します。
即時紹介が必要な緊急サイン
以下の場合は直ちに担当医・STに報告してください:
- 窒息(ちっそく)または激しいむせが食事中に繰り返し起きる
- 食事中に意識を失う・極度に疲弊する
- 食事中に急激な呼吸困難が起きる
- 誤嚥による緊急搬送歴がある
通常の紹介が必要なサイン
以下のサインが1つ以上あれば、1週間以内にSTへの紹介を手配してください:
食事中・食後の症状
- 食事中または食後に繰り返しむせる・咳をする
- 食後に声がかすれる・「濡れた声(wet voice)」になる
- 食事に30分以上かかる
- 食事中に疲れて途中でやめることが多い
- 食物が口からこぼれる
- 口腔内に食物が残る(ほほや歯茎の裏)
体重・栄養の変化
- 6か月以内に体重が5%以上減少した
- 食事摂取量が通常の75%以下に低下した
- MNA-SFスコアが8点以下(低栄養リスクあり)
全身状態の変化
- 繰り返す発熱(特に食後)
- 繰り返す誤嚥性肺炎(年1回以上)
- 新たな神経疾患(脳卒中・パーキンソン病など)の診断
- 頭頸部(とうけいぶ)手術・放射線治療後
- 気管切開(きかんせっかい)後の経口摂取再開
行動・認知の変化
- 食事を拒否するようになった
- 食事への関心がなくなった
- 食べ物を認識しなくなった(食物失認)
紹介の流れ
急性期病院・回復期病院の場合
- 担当医師に嚥下障害のサインを報告
- 医師がSTへの「嚥下評価依頼(指示)」を出す
- STがベッドサイド嚥下評価(BSE)を実施
- 必要に応じて嚥下造影(VF)または嚥下内視鏡(FEES)を実施
- STが食形態・水分形態・訓練方針を決定
- STが多職種チームに評価結果・指示を共有
特養・老健の場合
- 介護士・看護師が嚥下障害のサインを観察・記録
- 施設看護師または施設長に報告
- 施設嘱託医またはリハビリ担当者がSTに連絡
- 施設内STまたは外部ST(訪問)が評価を実施
在宅介護の場合
- 家族・ヘルパーがサインを観察
- ケアマネジャーに相談 → 訪問リハビリ(ST)を手配
- または、かかりつけ医に相談 → ST紹介状を発行
- 訪問言語聴覚士が自宅でBSEを実施
IDDSIと食形態の緊急調整
ST紹介待ちの間でも、以下の緊急の食形態調整は介護・看護スタッフが判断できます:
- むせが多い水分 → IDDSIレベル2〜3(とろみ水)に変更
- 固形食でのむせ → IDDSIレベル4〜5(ピューレ・ミンチ状)に変更
- 変更後もむせが続く場合 → 経口摂取を中止し医師に報告
詳細はIDDSIフレームワークを参照してください。
重要:食形態の変更は必ずSTによる正式評価に基づいて決定します。緊急時の暫定的な変更は「安全側」に向けた措置です。
家族介護者が気をつけること
在宅での家族介護者は、次のような変化に早く気づくことができます:
- 食事の様子の変化(速度・量・疲れ方)
- 食後の咳・声の変化
- 体重の変化
変化に気づいたらまずかかりつけ医かケアマネジャーに相談してください。「様子を見よう」ではなく、早期相談が結果的に入院・肺炎を防ぎます。
安全な食事介助の実践ガイドも合わせてお読みください。
参考文献・引用
- ASHA(米国言語聴覚士協会). Adult Dysphagia. https://www.asha.org/practice-portal/clinical-topics/adult-dysphagia/
- IDDSI(国際嚥下調整食分類). The IDDSI Framework. https://www.iddsi.org/framework
- Logemann JA, et al. (1998). PubMed PMID: 26315994
- 日本嚥下医学会. https://www.jsdr.or.jp/
- 日本嚥下調整食学会. 嚥下調整食学会分類2021. 2021.
本記事は医療・介護専門職および家族介護者への情報提供を目的としています。個々の治療方針は担当医・言語聴覚士にご相談ください。