介護施設での食形態管理の重要性
特別養護老人ホーム(特養)・介護老人保健施設(老健)・認知症対応型グループホームなどの介護施設では、入居者の多くが嚥下障害を抱えており、適切な食形態の管理が誤嚥性肺炎予防・栄養維持・QOL向上に直結します。
厚生労働省の調査では、特養入居者の約60〜70%に何らかの嚥下機能低下が認められるとされています。施設全体として統一された食形態基準の導入と、スタッフへの教育が急務です。
日本の嚥下調整食学会分類2021とIDDSIの対照
日本摂食嚥下リハビリテーション学会(日本摂食嚥下リハビリ学会)が策定した「嚥下調整食分類2021」は、日本の施設で広く使用されています。以下にIDDSIとの対照表を示します。
| 嚥下調整食分類2021 | 名称 | IDDSI相当レベル |
|---|---|---|
| 0j | ゼリー・プリン状 | レベル4(ピューレ) |
| 1j | ゼリー・均質 | レベル4(ピューレ) |
| 2-1 | ピューレ・ペースト状 | レベル4(ピューレ) |
| 2-2 | ミキサー食・なめらかおかず | レベル5(ミンチ)〜4 |
| 3 | ソフト食・舌でつぶせる | レベル5〜6 |
| 4 | 通常の介護食 | レベル6〜7 |
液体のとろみ:
- 薄いとろみ → IDDSI レベル1
- 中間のとろみ → IDDSI レベル2
- 濃いとろみ → IDDSI レベル3
施設によっては分類2021のコードとIDDSIの両方を食事カードに記載することで、異なる背景の医療スタッフ間での情報共有を円滑にしています。
施設でのIDDSI導入ステップ
ステップ1:現状評価
- 現在の施設の食形態分類の確認(独自基準・UDF区分・学会分類2021等)
- 入居者の嚥下評価状況の確認(ST評価の有無・最終評価日)
- とろみ剤の種類・管理方法の確認
ステップ2:基準の統一とマッピング
- 施設の既存食形態をIDDSI/学会分類2021にマッピング
- 食形態コードの統一:「食事カード」に食形態・とろみレベル・禁忌食品を明記
- 食事カードの様式を統一(STが承認・更新)
ステップ3:調理部門の対応
- 厨房スタッフへのIDDSI食形態基準の教育
- 各食形態のレシピ集・調理マニュアルの整備
- IDDSIテスト(フォーク・スプーンドリップテスト)の日常的な実施
ステップ4:介護スタッフの研修
- 食形態の視覚的識別(色分け食器・食器シール等の活用)
- 安全な食事介助技術(体位管理・一口量・ペース調整)
- 誤嚥・窒息時の初期対応(背部叩打法・ハイムリック法)
ステップ5:モニタリングと評価
- 月1回の食形態カンファレンス(ST・管理栄養士・看護師・介護士)
- 体重・摂食量の月次モニタリング
- 誤嚥性肺炎発生率・入院率の記録
献立作成のポイント
施設での嚥下調整食献立の基本原則
- 全入居者に同じ献立(主食・主菜・副菜の構成を統一し、食形態のみ変更)
- 彩りと季節感:ペースト食でも型を使って盛り付け、見た目に配慮する
- 栄養バランス:管理栄養士が各食形態での栄養量を計算(エネルギー・たんぱく質・水分)
- 食の楽しみ:行事食・選択食メニューを定期的に設ける
とろみ剤の標準化
- 施設全体で使用するとろみ剤の種類を統一(例:キサンタンガム系に統一)
- とろみの作り方マニュアルを作成し、全スタッフが同じ濃度で作れるよう標準化
- とろみ測定器(ビスコアナライザー等)や定期的なIDDSIテストで品質管理
食事介助スタッフの研修プログラム
基礎研修(全介護スタッフ対象)
- 嚥下障害の基礎知識(誤嚥のメカニズム・リスク因子)
- IDDSI/学会分類2021の食形態の説明と識別
- 食事介助の基本姿勢・体位管理
- 誤嚥・窒息時の緊急対応(実技訓練)
上級研修(食事介助リーダー向け)
- 嚥下評価の基礎(スクリーニングテストの実施)
- 食事カードの読み方・記録
- 食形態に関するSTへの情報提供の方法
- 家族への食形態説明の実践
研修の記録と更新
- 年1回以上の研修実施と記録
- 新入職スタッフへのオリエンテーションに組み込む
- 介護職員初任者研修・介護福祉士の継続教育との連携
介護保険制度との関連
経口維持加算
施設の管理栄養士とSTが連携して嚥下機能評価を行い、経口摂取の維持に向けた栄養管理計画を作成することで、介護報酬の「経口維持加算(I・II)」の算定が可能です。
- 経口維持加算I:多職種チームによる食事の観察・会議(月1回以上)
- 経口維持加算II:嚥下造影検査(VF)または嚥下内視鏡検査(VE)の実施
口腔衛生管理加算・口腔機能維持管理加算
歯科医師・歯科衛生士による口腔ケアの実施で算定可能。誤嚥性肺炎予防として推奨。
まとめ
特養・老健での食形態管理は、日本の嚥下調整食学会分類2021とIDDSIを対照させた統一基準の導入、STと管理栄養士によるチームアプローチ、そして全スタッフへの継続的な研修が基盤となります。介護保険の経口維持加算を活用しながら、入居者が安全においしく食事を楽しめる環境を施設全体で作り上げていきましょう。