介護施設における嚥下食の提供と管理
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設(老健)、介護付き有料老人ホームなどの介護施設では、入居者の多くが何らかの嚥下困難を抱えています。安全で栄養的に適切な食事を継続的に提供するためには、多職種連携・標準化された手順・定期的な評価が不可欠です。
厚生労働省の栄養管理基準(介護保険制度)
介護保険法に基づく施設サービスでは、厚生労働省が栄養管理に関する運営基準を定めています。
栄養マネジメント加算(2021年度改定)
2021年4月の介護報酬改定以降、栄養マネジメント強化加算として以下が求められています:
- 管理栄養士が入居者の栄養ケア計画を作成・定期更新(低栄養リスクのある方は週1回以上の評価)
- 食形態の定期的な確認と記録
- 多職種カンファレンス:医師・看護師・言語聴覚士・介護福祉士・管理栄養士の連携
- 低栄養リスク評価:MNA(Mini Nutritional Assessment)や MUST などのスクリーニングツールの活用
経口維持加算
経口摂取が困難な入居者に対して、多職種が連携して経口摂取維持・改善に取り組んだ場合に算定できます。
- 言語聴覚士(ST)または歯科医師によるミールラウンド(食事観察)の実施が要件に含まれます
- 食形態の調整・嚥下訓練計画の立案が対象となります
口腔衛生管理加算
歯科医師または歯科衛生士が訪問し、口腔ケア計画を作成・実施した場合に算定できます。口腔機能の維持は嚥下機能の保持と直結します。
食形態の記録と評価
統一表記の重要性
施設内での食形態の表記が統一されていないと、シフト交代・転棟・新入職者などの場面で危険が生じます。
推奨する表記方法(2021年学会分類またはIDDSIとの併記):
| 表記例 | 意味 |
|---|---|
| 学会分類2-1 / IDDSI L4 | ピューレ状、均一なとろとろ食 |
| 学会分類2-2 / IDDSI L5 | 粒があるが変形しやすい、しっとりみじん食 |
| 学会分類3 / IDDSI L6 | やわらかく、舌で潰せる一口大食 |
| 飲み物:中間のとろみ / IDDSI L2 | ネクター状のとろみ液体 |
ケアプランへの記載
嚥下食の形態・とろみ濃度は介護ケアプランに明記し、以下の項目を記録します:
- 現在の食形態(IDDSI レベルまたは学会分類コード)
- とろみの濃度(IDDSIレベル0〜4)
- 食事姿勢(ベッド角度・車椅子の種類)
- 一口量の目安・ペースの指示
- 最終評価日と次回評価予定日
スマイルケア食の認証制度
農林水産省が推進するスマイルケア食は、介護食品の品質・機能を分かりやすく示すための自主認証制度です(2013年より導入)。
マークの意味
| マーク | 対象 | IDDSI相当目安 |
|---|---|---|
| 青マーク0 | 飲み込みが気になる方向け(飲み物) | IDDSIレベル1〜3 |
| 赤マーク(0〜3) | 噛む力が弱い方向け(食品) | IDDSIレベル3〜6 |
| 黄マーク | 食欲の低下している方向け | 一般食・栄養補助食品 |
施設での食品調達の際、スマイルケア食マークを確認することで適合レベルの目安を得ることができます。ただし、IDDSIテスト(フォーク圧迫・注射器テスト)による実測確認を組み合わせることが推奨されます。
栄養士・言語聴覚士の役割分担
介護施設における嚥下食管理は多職種の協働が基本です。
管理栄養士の役割
- 栄養ケア計画の立案・評価:入居者の栄養状態(体重変化・血液検査等)を定期モニタリング
- 食形態の決定への参加:ST のアセスメント結果を受けて、実際の食事メニューへ反映
- 調理スタッフへの指導:食形態基準の教育・定期チェック
- 市販嚥下食品の選定:施設使用製品の評価・調達管理
言語聴覚士(ST)の役割
- 嚥下機能評価:反復唾液嚥下テスト(RSST)・改訂水飲みテスト(MWST)などのベッドサイド評価
- 嚥下造影(VF)・嚥下内視鏡(VE)の実施または依頼
- 食形態の推奨レベル決定:評価に基づき適切な IDDSI レベルを提案
- 嚥下訓練の立案・実施:直接訓練・間接訓練の計画
- ミールラウンド:実際の食事場面を観察し、姿勢・ペース・一口量を確認・指導
介護福祉士・介護職員の役割
- 日常の食事介助:適切な姿勢・ペース・一口量の実施
- 食事中の観察:むせ・残留・食事時間・摂取量の記録
- 異変の早期報告:湿性嗄声・発熱・食欲低下などをケアプランに記録し専門職に伝達
歯科医師・歯科衛生士の役割
- 口腔ケア計画の立案と実施:義歯の管理・口腔内清潔の維持
- 口腔機能評価:舌圧測定・咀嚼能力の評価
施設でのIDDSI導入ステップ
施設全体でIDDSIを導入・定着させるための段階的アプローチを紹介します。
ステップ1:現状の棚卸し
- 現在使用している食形態の名称と基準を一覧化する
- 施設内で複数の表記が使われていないか確認する
ステップ2:スタッフ研修
- IDDSI公式ウェブサイト(iddsi.org/日本語版)の研修動画を活用
- フォーク圧迫テスト・注射器テストを実際に体験する研修を実施
- 「IDDSI フレームワーク説明カード」を食堂・ナースステーションに掲示
ステップ3:食形態一覧の更新
- 既存の食形態呼称にIDDSIレベルを対応付ける
- ケアプランのテンプレートにIDDSIレベル欄を追加
ステップ4:定期的な質確認
- 月1回、実際に提供している食品のフォーク圧迫テスト・注射器テストを実施
- 結果を記録し、調理担当者にフィードバック
誤嚥性肺炎予防のための施設環境整備
- 食事姿勢の統一:車椅子・ベッド・椅子ごとの適切な角度を標準化する
- 食事時の環境:テレビを消す・会話を控えるなど、集中できる環境を作る
- 食後の対応:食後30分は臥床を避ける(逆流予防)
- 口腔ケアの徹底:食前・食後の口腔ケアを介護ルーティンに組み込む
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最終更新:2026年5月13日