嚥下障害と脱水:見落とされやすいリスク
嚥下(えんげ)障害のある方は、水分摂取が困難になるため脱水(だっすい)のリスクが高くなります。とろみをつけた水分は飲みにくい・おいしくないと感じる方も多く、自発的な水分摂取が減少します。
高齢者の脱水は:
- 認知機能のさらなる低下
- 誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)のリスク増大
- 便秘・尿路感染症
- 腎機能低下
- 転倒リスクの増大
につながります(日本嚥下医学会、www.jsdr.or.jp)。
必要水分量の目安
高齢者の1日の推奨水分量(食品からの水分を除く飲み物として):
| 体重 | 推奨水分量(飲み物として) |
|---|---|
| 50kg | 約1,000〜1,250mL/日 |
| 60kg | 約1,200〜1,500mL/日 |
| 70kg | 約1,400〜1,750mL/日 |
これはあくまで目安であり、発熱・下痢・暑い環境では増量が必要です。腎疾患・心不全などの疾患がある方は医師に確認してください。
とろみ水による水分確保の課題
IDDSIおよびJDS-C 2021(嚥下調整食学会分類2021)に基づくとろみ水を使用する場合の課題:
| 課題 | 対策 |
|---|---|
| とろみ水が飲みにくい(不快感) | 味・温度の工夫(後述) |
| とろみのレベルが不適切 | STによる処方と定期確認 |
| 提供回数が少ない | 時間を決めて定期的に提供 |
| 自力摂取が困難 | 適切な自助具・ストローの使用 |
とろみ水のIDDSIレベルはSTの処方に基づきます:
| IDDSI レベル | JDS-C 2021 | 対象患者 |
|---|---|---|
| レベル2(薄いとろみ) | とろみ(薄) | 軽度の液体誤嚥リスク |
| レベル3(中間のとろみ) | とろみ(中) | 中等度の液体誤嚥リスク |
| レベル4(濃いとろみ) | とろみ(濃) | 重度の液体誤嚥リスク |
詳細はIDDSIフレームワークを参照してください。
おいしく飲めるとろみ水の工夫
温度の工夫
- 温かいとろみ茶・スープ:ほうじ茶・緑茶・コーヒー・コンソメスープなどをとろみ調整
- 冷たいとろみジュース:果汁入り飲料でとろみをつける(ただし酸性飲料はとろみがつきにくい場合あり)
味の工夫
- とろみ茶(お好みのお茶)を使用する
- 薄めの味噌汁(みそしる)にとろみをつける
- ゼリー飲料(市販の嚥下調整食ゼリーまたは自作ゼリー)を活用する
ゼリー飲料の活用
IDDSI レベル4(ピューレ状)のゼリーは、水分補給と食形態調整を同時に達成できます。卵豆腐・ゼリー・プリン状の食品は「食事」と「水分」の二つの目的を果たします。
水分摂取の記録方法
施設での記録
特養・老健では、水分摂取量を介護記録に残します。推奨記録項目:
| 時間 | 提供量(mL) | 実摂取量(mL) | とろみレベル | 観察事項 |
|---|---|---|---|---|
| 朝食時 | 200 | 180 | レベル3 | むせなし |
| 10時 | 150 | 100 | レベル3 | 少し残した |
| 昼食時 | 200 | 190 | レベル3 | むせなし |
目標量と実際の摂取量を比較し、目標の75%未満が続く場合は管理栄養士・STに報告します。
在宅での簡易記録
家庭では以下のような簡易記録で十分です:
- 飲んだ量を冷蔵庫にメモ
- 1日の目標を紙コップ(150mL)○杯と決める
- スマートフォンのアプリで記録
脱水の早期発見サイン
以下のサインが現れた場合は、脱水を疑ってSTまたは医師に報告してください:
- 口腔乾燥が著しい(口唇・舌が乾燥)
- 尿の色が濃い(濃黄色・茶色)
- 排尿回数が減った
- 眼窩(がんか)が凹んで見える
- 倦怠感・意識混濁が強まった
- 皮膚の張りがなくなった(ツルゴール低下)
経管栄養との水分管理
胃瘻(いろう)や経鼻胃管(NG管)がある方では、経管栄養(けいかんえいよう)での水分補給が可能です。経口摂取と経管栄養を組み合わせて必要量を確保します。水分量は医師・管理栄養士が設定します。
安全な食事介助の実践ガイドとSTへの紹介タイミングも参照してください。
参考文献・引用
- ASHA(米国言語聴覚士協会). Adult Dysphagia. https://www.asha.org/practice-portal/clinical-topics/adult-dysphagia/
- IDDSI(国際嚥下調整食分類). The IDDSI Framework. https://www.iddsi.org/framework
- Logemann JA, et al. (1998). PubMed PMID: 26315994
- 日本嚥下医学会. https://www.jsdr.or.jp/
- 日本嚥下調整食学会. 嚥下調整食学会分類2021. 2021.
本記事は医療・介護専門職および家族介護者への情報提供を目的としています。水分管理の詳細は担当医師・管理栄養士にご相談ください。