夜間誤嚥とは
夜間誤嚥(やかんごえん)とは、睡眠中に口腔内の唾液(だえき)・口腔内細菌・胃食道逆流物が気道(きどう)に流入する現象です。昼間の食事による誤嚥とは異なり、気づかれにくいため「隠れた誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)リスク」として注目されています。
嚥下(えんげ)障害のある方では、以下の理由で夜間誤嚥リスクが高まります(日本嚥下医学会、www.jsdr.or.jp;ASHA, 2023):
- 睡眠中の嚥下反射の低下:覚醒時より嚥下反射の頻度・反応速度が低下
- 唾液分泌の減少:夜間は唾液が少なく、口腔内細菌が増殖しやすい
- 体位(たいい)による影響:水平臥位(すいへいがい)では胃食道逆流が起こりやすい
- 口腔内残留物:食後・就寝前の口腔ケアが不十分な場合
夜間誤嚥の主要リスク因子
| リスク因子 | 詳細 |
|---|---|
| 嚥下反射の低下 | 脳卒中・認知症・神経疾患 |
| GERD(胃食道逆流症) | 夜間の逆流物誤嚥 |
| 義歯を就寝中に装着 | 細菌繁殖の温床となる |
| 口腔乾燥 | 細菌増殖・粘液貯留 |
| 長期臥床 | 胃排出遅延・逆流促進 |
| 鎮静剤・睡眠薬 | 嚥下反射をさらに低下させる |
夜間誤嚥予防の実践策
1. 就寝前の口腔ケア(最重要)
就寝前の丁寧な口腔ケアは、夜間誤嚥に伴う肺炎リスクを最も効果的に低下させます。
- 歯ブラシで歯・歯茎を清掃
- 舌の清掃(舌苔(ぜったい)の除去)
- 義歯(ぎし)を外し、水に浸しておく
- 保湿ジェルで口腔内を潤す
2. 夕食・就寝時間の管理
- 夕食(ゆうしょく)は就寝3時間前までに終える
- 夕食後〜就寝まで、軽い飲み物は控える(特に高リスクの方)
- 就寝直前のとろみ水や補食も誤嚥リスクになり得る
3. 就寝時の頭部挙上
水平臥位(スピン゜オフ)は胃食道逆流を促進します。以下の方法で頭部を挙上します:
| 方法 | 目安の角度 | 適応 |
|---|---|---|
| ウェッジ型枕 | 15〜30度 | 在宅・施設 |
| ベッドのヘッドアップ | 15〜30度 | 病院・特養 |
| 通常の枕を高く積む | 15〜20度程度 | 在宅(簡易) |
注意:頭部挙上の角度はASHA・日本嚥下医学会のガイドラインでは15〜30度が標準です。30度以上の高い角度では頸部前屈ができなくなる場合があるため、STに確認します。
4. 側臥位(そくがい)の活用
完全な仰臥位(ぎょうがい)より側臥位(横向き寝)の方が逆流物の誤嚥リスクが低い場合があります。脳卒中後片麻痺の方では、健側(けんそく)を下にした側臥位が推奨されることがあります。
5. GERD管理
胃食道逆流症(GERD)がある方は、夜間の逆流を最小限にするために:
- PPIまたはH2ブロッカーを医師の処方に従って内服(夕食前が効果的なことが多い)
- 高脂肪食・チョコレート・柑橘類・炭酸飲料を夕食では避ける
- 夕食の量を少なめにする
施設での夜間モニタリング
特養・老健での夜間ケアでは:
- 夜間巡視(じゅんし):臥位でのポジショニングを確認(滑り落ちてベッドフラットになっていないか)
- 発熱・呼吸音の確認:夜間に発熱・呼吸促拍(そっぱく)があれば誤嚥性肺炎を疑い看護師に報告
- 朝の口腔ケア前の観察:口腔内の状態(唾液・残留物の量)を確認
夜間誤嚥を示唆するサイン
以下が継続する場合は、STへの相談を検討してください:
- 毎朝、痰(たん)・咳(せき)が多い
- 夜間に咳き込みで目が覚める
- 朝起きると声がかすれている
- 繰り返す微熱(37〜38℃)
- 繰り返す肺炎(年1回以上)
STへの紹介タイミングと安全な食事介助ガイドも参照してください。
参考文献・引用
- ASHA(米国言語聴覚士協会). Adult Dysphagia. https://www.asha.org/practice-portal/clinical-topics/adult-dysphagia/
- IDDSI(国際嚥下調整食分類). The IDDSI Framework. https://www.iddsi.org/framework
- Logemann JA, et al. (1998). PubMed PMID: 26315994
- 日本嚥下医学会. https://www.jsdr.or.jp/
- 日本嚥下調整食学会. 嚥下調整食学会分類2021. 2021.
本記事は医療・介護専門職および家族介護者への情報提供を目的としています。夜間誤嚥リスクの評価と管理は担当医・言語聴覚士にご相談ください。