口腔ケアと誤嚥性肺炎予防
口腔ケアは、嚥下(えんげ)障害のある方の誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)予防において最も重要な介入の一つです。研究によれば、適切な口腔ケアは施設入所高齢者の誤嚥性肺炎発症率を約40%低下させることが示されています(日本嚥下医学会、www.jsdr.or.jp)。
嚥下障害のある方は、唾液(だえき)や食物残渣(しょくもつざんさ)とともに口腔内細菌を誤嚥しやすく、この細菌が肺炎の原因となります。口腔内を清潔に保つことで、万一誤嚥しても肺炎になるリスクを下げられます。
口腔ケアの基本3原則
- 毎食後に行う:食後の食物残渣を放置しない
- 就寝前に行う:夜間の唾液分泌減少中に細菌が増殖するため、就寝前が特に重要
- 専門職(歯科衛生士・ST)の指導を受ける:自己流では見逃しが生じる
口腔ケアの実施手順
準備
- ヘッドをやや前に下げた姿勢(チンタック位)、または側臥位(そくがい)で実施
- ケア中に飲み込む場合は姿勢に注意:水分の誤嚥を防ぐため
- 使用物品:歯ブラシ・スポンジブラシ・吸引付き歯ブラシ(必要に応じて)・歯磨き粉・マウスウォッシュ
手順
ステップ1:義歯(ぎし)の取り外し 義歯がある場合はまず取り外し、義歯専用ブラシで流水下で洗浄します。
ステップ2:歯・歯茎の清掃
- 含み水で口腔内を湿らせる(乾燥がひどい場合はスポンジブラシで湿らせる)
- 歯ブラシで歯・歯茎・頬粘膜を清掃(力は入れすぎない)
- ブラッシングは奥歯から前歯へ、各部位を10〜20回往復
ステップ3:舌の清掃 舌ブラシまたはスポンジブラシで舌の表面(ぜつ)を前から奥に向けてやさしく清掃します。舌苔(ぜったい、白いコーティング)を除去します。
ステップ4:口腔内の吸引(必要な場合) 嚥下障害が重度の場合や吸引が必要な施設では、ブラッシング後に口腔内の水分・分泌物を吸引します。
ステップ5:保湿 口腔乾燥(ドライマウス)がある場合は、保湿ジェルや口腔湿潤剤(口腔保湿スプレー)を使用します。
嚥下障害がある場合の特別な注意点
口腔乾燥(ドライマウス)への対応
嚥下障害のある方には口腔乾燥が多く見られます(抗コリン薬・抗うつ薬などの薬剤の影響・口呼吸のため)。
- 保湿ジェルを口腔内に塗布する
- 人工唾液スプレーを使用する
- 必要に応じて加湿器を使用する
嚥下できない方への配慮
口腔ケア中に誤嚥が心配される場合:
- 泡立つ歯磨き粉は使用しない:ノンフォーミング(泡立たない)タイプを選択
- 少量の水で清掃:水が気管に入らないよう注意
- 吸引歯ブラシの使用:ブラッシングしながら同時に吸引できる器具
義歯の管理
義歯の不適合は咀嚼(そしゃく)・嚥下に悪影響を与えます。以下を確認します:
- 義歯が合っているか(ガタツキ・痛みの有無)
- 義歯表面の汚れ(義歯性歯周炎の原因)
- 就寝時は義歯を外して水に浸す
施設・在宅での組み込み方
特養・老健での実施
- 口腔ケアを介護記録の必須項目とする
- 週1回以上、歯科衛生士または専門訓練を受けた介護士が詳細チェックを実施
- 口腔機能維持管理加算の算定のもと、歯科衛生士が月4回以上の専門的口腔ケアを実施
在宅での実施
- 毎食後・就寝前の口腔ケアを習慣化する
- かかりつけ歯科医との連携(訪問歯科の活用)
- 口腔ケア困難な場合はケアマネジャーに相談して訪問歯科衛生士を手配
口腔ケアと嚥下訓練の連携
口腔ケアは嚥下訓練の準備としても重要です。STによる嚥下訓練の前に口腔ケアを実施することで:
- 口腔内の細菌を減らした状態で訓練できる
- 口腔内の乾燥を解消して運動がしやすくなる
- 口腔感覚が賦活(ふかつ)されて嚥下反射が改善する場合がある
安全な食事介助の実践ガイドとSTへの紹介タイミングも参照してください。
参考文献・引用
- ASHA(米国言語聴覚士協会). Adult Dysphagia. https://www.asha.org/practice-portal/clinical-topics/adult-dysphagia/
- IDDSI(国際嚥下調整食分類). The IDDSI Framework. https://www.iddsi.org/framework
- Logemann JA, et al. (1998). PubMed PMID: 26315994
- 日本嚥下医学会. https://www.jsdr.or.jp/
- 日本嚥下調整食学会. 嚥下調整食学会分類2021. 2021.
本記事は医療・介護専門職および家族介護者への情報提供を目的としています。口腔ケアの詳細は担当歯科医・歯科衛生士・言語聴覚士にご相談ください。