安全な食事介助の重要性

嚥下(えんげ)障害のある方への食事介助は、適切に行えば誤嚥(ごえん)性肺炎・窒息(ちっそく)・低栄養を予防し、生活の質(QOL)を維持できます。一方、誤った介助方法は安全なはずの食事を危険にします。

ASHAの報告では、適切な食事介助訓練を受けた介護者による介助は、未訓練の場合と比較して誤嚥リスクが約40%低下するとされています(ASHA, 2023)。本記事では、証拠に基づいた安全な食事介助の実践的な方法を解説します。


食事前の準備

環境の整備

本人の状態確認

姿勢の設定

食事前に正しい姿勢を整えます:

姿勢の詳細はこちらを参照してください。


食事介助の基本技術

介護者の位置

スプーンの使い方

項目推奨禁忌
スプーンの大きさティースプーン〜デザートスプーン大きなスプーン
一口量5mL以下(小さじ1杯以内)が基本大量を一度に入れない
スプーンの角度舌の前方に水平に置く上から口に押し込まない
次の一口飲み込みを確認してから飲み込む前に次を入れない

飲み込みの確認

一口食べるごとに、以下で飲み込みを確認します:

  1. 喉頭(こうとう)挙上(のど仏が上がる)を視覚的に確認
  2. 必要に応じて触診(喉に指を当てて挙上を確認)
  3. 声をかけて「飲み込んだ?」と確認(認知機能が保たれている場合)

代償的嚥下技術の実施

STが処方した嚥下技術を正しく実施します:

チンタック(頸部前屈)法

「あごを引いてから飲み込んでください」と声をかけます。食前にも姿勢を確認します。

交互嚥下法(2回嚥下法)

固形物を食べた後に少量の水分(またはとろみ水)で流し込む方法。咽頭残留を減らします。

「食べたら、もう一度飲み込んでみてください」「次はお水(とろみ水)を飲んでください」と声かけします。

複数回嚥下法

1口につき2〜3回飲み込むよう促します。1回目で咽頭に残った食物を2回目・3回目で除去します。


食形態・水分形態の確認

食事介助前に必ず確認します:

IDDSIとJDS-C 2021の対照:

IDDSIJDS-C 2021見た目の目安
レベル4(ピューレ)コード2スプーンで形作れるペースト
レベル5(ミンチ)コード3細かいひき肉状でまとまりあり
レベル6(ソフト一口)コード4軟らかく15mm以下の一口サイズ
レベル2(薄いとろみ)とろみ(薄)水よりわずかに粘い
レベル3(中間のとろみ)とろみ(中)スプーンでゆっくり流れる

詳細はIDDSIフレームワークを参照してください。


緊急時の対応:むせ・窒息時

むせ(咳嗽)の場合

窒息(完全気道閉塞)の疑いがある場合

無声(しゃべれない・咳ができない)・顔面蒼白・チアノーゼがあれば窒息を疑います:

  1. 口の中を確認して取り除ける食物があれば取り除く
  2. **ハイムリック法(腹部突き上げ法)**を実施(施設では定期的な訓練が必要)
  3. 119番通報

施設では窒息時の緊急対応プロトコルを整備し、全スタッフが実施できるようにします。


食後のケア

STへの紹介タイミングも参照してください。


参考文献・引用

  1. ASHA(米国言語聴覚士協会). Adult Dysphagia. https://www.asha.org/practice-portal/clinical-topics/adult-dysphagia/
  2. IDDSI(国際嚥下調整食分類). The IDDSI Framework. https://www.iddsi.org/framework
  3. Logemann JA, et al. (1998). PubMed PMID: 26315994
  4. 日本嚥下医学会. https://www.jsdr.or.jp/
  5. 日本嚥下調整食学会. 嚥下調整食学会分類2021. 2021.

本記事は医療・介護専門職および家族介護者への情報提供を目的としています。食事介助の方法は担当言語聴覚士の指示に従ってください。