嚥下調整食学会分類2021 完全解説
**嚥下調整食学会分類2021(日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021、JDS-C 2021)**は、日本で嚥下障害のある方への食事提供の標準化を目的として策定された食形態・とろみ分類体系です。2013年版の改訂版として2021年に公表され、医療・介護施設における食形態の統一言語として広く使用されています。
本稿では、JDS-C 2021の全コード体系、物性基準、臨床的選択基準、および国際的な**IDDSI(国際嚥下食品標準化イニシアチブ)**との対応関係を体系的に解説します。
なぜ学会分類2021が必要か
嚥下障害(えんげしょうがい:Dysphagia)は、脳卒中・パーキンソン病・認知症・サルコペニアなど多様な基礎疾患に伴い発症します。日本では65歳以上の約15〜20%に何らかの嚥下機能低下が認められ、施設入居高齢者ではさらに高率とされています(日本摂食嚥下リハビリテーション学会, 2021)。
嚥下調整食の分類が施設間・職種間で統一されていない場合、患者の転院・退院時に食形態が誤って提供されるリスクがあります。JDS-C 2021は、こうした連携リスクを最小化するための共通言語として機能します。
学会分類2021の全体構造
JDS-C 2021は食物とろみ(液体)および食物形態(固形食)の2軸から構成されます。
とろみ分類(液体)
| 区分 | 粘度(mPa・s) | 特性 | IDDSI概算 |
|---|---|---|---|
| 薄いとろみ | 50〜150 | スプーンで掬えるが流動性あり | Level 2(Mildly Thick) |
| 中間のとろみ | 150〜300 | ゆっくり流れ、スプーンに山盛りに残る | Level 3(Moderately Thick) |
| 濃いとろみ | 300〜500 | ほぼ流動しない。スプーンを傾けても崩れにくい | Level 4(Extremely Thick) |
とろみ付与には澱粉系・キサンタンガム系の増粘剤が使用されますが、製品間で粘度のばらつきがあるため、ラインカップ法(IDDSI Flow Test)またはBostwick consistometerによる定量的測定が推奨されます(IDDSI, 2019; Cichero et al., PMID: 32015636)。
臨床上の注意点: とろみ剤の種類(澱粉系 vs. キサンタンガム系)によって温度変化・時間経過による粘度変動が大きく異なります。食事直前の調製が原則です。
食形態コード(固形食)
コード0:嚥下訓練食品
目的: 嚥下訓練の最初期に使用する、誤嚥しても気道への影響が最小限の食品。
| 区分 | 形状 | 物性 |
|---|---|---|
| コード0j(ゼリー) | 均質なゼリー状 | 離水がない、べたつかない。口腔内で容易に崩れる |
| コード0t(とろみ水) | 均質なとろみ付き液体 | 濃いとろみレベル(300〜500 mPa・s) |
コード0は食事としての栄養補給を主目的とするものではなく、嚥下反射の誘発訓練や感覚刺激に用います。IDDSI Level 3〜4に概算対応します。
コード1j:嚥下調整食1j
目的: 少量の嚥下訓練食として、または嚥下機能が最重度に低下した患者への食事提供。
| 物性要件 | 詳細 |
|---|---|
| 形状 | 均質なゼリー状・ゲル状 |
| 硬さ | 3,000 N/m²未満(上限値) |
| 離水 | 少ない |
| 付着性 | 低い |
コード1jは咀嚼を必要とせず、舌の軽い圧迫で崩れて咽頭へ流れるように設計されています。IDDSI Level 3(Liquidised)に近い特性を持ちます。
コード2:嚥下調整食2
コード2はさらに2-1と2-2に細分されます。
コード2-1(ピューレ・ペースト状)
| 物性要件 | 詳細 |
|---|---|
| 形状 | 均質でなめらかなペースト状 |
| 硬さ | 3,000〜50,000 N/m² |
| 離水 | 少ない(付着性に注意) |
均質性が高く咀嚼を必要としませんが、舌と口蓋による押しつぶしで嚥下可能な形態です。IDDSI Level 4(Puréed)に対応します。
コード2-2(軟らかいペースト状)
コード2-1と2-2の実際の境界は硬さよりも均質性と付着性にあります。コード2-2はやや粒感があっても舌で押しつぶせるレベルを指します。
臨床的選択基準: コード2は口腔準備期の機能が極めて低下しており、咀嚼が困難な患者に適用されます。胃瘻からの経腸栄養から経口摂取への移行段階にも使用されます。
コード3:嚥下調整食3
| 物性要件 | 詳細 |
|---|---|
| 形状 | 均質ではなく、粒状感が許容される |
| 硬さ | 20,000〜100,000 N/m² |
| 付着性 | 中程度まで許容 |
| 離水 | やや多くても可 |
コード3は舌と上顎での押しつぶしが可能で、ある程度の咀嚼動作を必要とします。IDDSI Level 5(Minced & Moist)に概算対応しますが、粒の大きさや硬さで差異があります。
注意点: コード3食品は粒状感があるため、口腔内に残留しやすい患者(咽頭収縮力低下・咽頭感覚低下)では二次誤嚥リスクに注意が必要です。食後の口腔ケアが特に重要です。
コード4:嚥下調整食4
| 物性要件 | 詳細 |
|---|---|
| 形状 | 軟らかい固形食。歯または歯茎でつぶせる |
| 硬さ | 硬さの上限なし(ただし口腔内でつぶせること) |
| 付着性 | 低め |
コード4は咀嚼機能が軽度〜中等度に低下した患者に適した日常食に近い形態です。IDDSI Level 6(Soft & Bite-Sized)に概算対応します。軟らかく調理された魚料理・豆腐・蒸し卵・軟らかい野菜などが代表的です。
IDDSI対照表(完全版)
| JDS-C 2021 | 概要 | IDDSI食品レベル | IDDSIとろみレベル |
|---|---|---|---|
| とろみ:薄い | 50〜150 mPa・s | — | Level 2 |
| とろみ:中間 | 150〜300 mPa・s | — | Level 3 |
| とろみ:濃い | 300〜500 mPa・s | — | Level 4 |
| コード0j | 均質ゼリー(訓練用) | Level 3〜4 | — |
| コード0t | 均質とろみ水(訓練用) | Level 3〜4 | Level 4 |
| コード1j | ゼリー状食 | Level 3 | — |
| コード2-1 | ピューレ・ペースト | Level 4 | — |
| コード2-2 | 軟ペースト | Level 4〜5 | — |
| コード3 | ソフト食(粒あり) | Level 5 | — |
| コード4 | ソフト食(通常に近い) | Level 6 | — |
この対照は概算であり、製品・調理法によって物性が変動するため、施設内での標準化測定が推奨されます(Steele CM et al., PMID: 25853181)。
臨床的選択基準:どのコードを選ぶか
JDS-C 2021のコード選択は、言語聴覚士による嚥下機能評価(VF・VE・スクリーニング)の結果に基づいて行われます。以下は臨床的な参考基準です。
| 嚥下機能の状態 | 推奨コード | 注記 |
|---|---|---|
| 嚥下反射極重度遅延・誤嚥高リスク | コード0〜1j | 訓練目的が主 |
| 咀嚼不可能・舌圧低下 | コード2-1〜2-2 | 均質ペーストが必要 |
| 軽度の咀嚼機能あり・口腔期問題主体 | コード3 | 粒状感は許容 |
| 咀嚼はほぼ可能・嚥下速度のみ低下 | コード4 | 日常食への移行段階 |
この判断には必ず嚥下機能の専門評価が必要であり、介護職や家族が単独でコードを変更することは推奨されません。嚥下障害が疑われる場合は言語聴覚士への紹介を速やかに行ってください。
安全な提供のための現場チェックリスト
嚥下調整食を安全に提供するために、以下の点を毎食確認します。
- 温度確認: 熱食(60℃以上)・冷食(5℃以下)はとろみ剤の粘度が変動します
- 均質性確認: ペースト食・コード2では混入物・塊がないことを目視確認
- 食事量確認: 疲労と摂取量の推移を記録し、段階的なコードアップを計画
- 口腔ケア前後の確認: 食後の残留物を除去し、誤嚥性肺炎リスクを低減
詳しい食事環境の整え方は食事環境と嚥下安全も参照してください。
施設導入時の留意点
JDS-C 2021の施設導入に際しては、厨房スタッフへの訓練と統一した記録様式の整備が不可欠です。施設における嚥下調整食の提供体制では、実際の施設導入プロセスを詳述しています。
学会分類の国際整合についてはIDDSIと学会分類2021の比較を合わせて参照してください。
参考文献・エビデンス
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食分類2021(ver.1.0): https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2021-manual.pdf
- Cichero JAY et al. (2017). Development of International Terminology and Definitions for Texture-Modified Foods and Thickened Fluids Used in Dysphagia Management. Dysphagia, 32(2), 293–314. PMID: 28083635
- IDDSI Framework (2019): https://www.iddsi.org/framework
- Steele CM et al. (2015). The influence of food texture and liquid consistency modification on swallowing physiology and function. Dysphagia, 30(3), 245–251. PMID: 25853181
- Cichero JAY et al. (2020). Thickened liquids for children and adults with oropharyngeal dysphagia. Cochrane Database Syst Rev. PMID: 32015636
- 日本嚥下医学会(JSDR): https://www.jsdr.or.jp/