介護食の国際標準化とは
嚥下障害のある方への食事提供は、国・医療機関・施設によって基準が異なると、患者の移動時(例:病院から在宅、施設から施設)に食形態の誤解が生じ、誤嚥・栄養不足のリスクが高まります。
こうした課題を解決するために、国際的な食形態分類の統一が進んでいます。現在、世界的に普及しているのがIDDSI(国際嚥下食品標準化イニシアチブ)フレームワークです。また、日本では独自の嚥下調整食学会分類2021が広く使用されています。
IDDSI(国際嚥下食品標準化イニシアチブ)フレームワーク
IDDSIは2013年に設立された国際的な専門家グループで、2015年に初版、2019年に改訂版のフレームワークを発表しました。現在60か国以上で採用されています。
IDDSIの8段階(レベル0〜7)
液体(Drinks):
| レベル | 名称 | 特徴 |
|---|---|---|
| 0 | 薄い液体(Thin) | 水・お茶など通常の液体 |
| 1 | 極薄いとろみ(Slightly Thick) | わずかにとろみ。フォークを伝って流れる |
| 2 | 薄いとろみ(Mildly Thick) | スプーンに乗ってゆっくり流れる |
| 3 | 中等度のとろみ(Moderately Thick) | スプーンに山盛りになる程度 |
| 4 | 極濃のとろみ(Extremely Thick) | ほぼ固形。スプーンを傾けても動かない |
食物(Foods):
| レベル | 名称 | 特徴 |
|---|---|---|
| 3 | 液状化食(Liquidised) | 液体と固体の中間。スプーンで流れる |
| 4 | ピューレ食(Puréed) | 均質でなめらか。スプーンで形が崩れる |
| 5 | ミンチ食(Minced & Moist) | 4mm以下の粒。フォークで容易につぶれる |
| 6 | ソフト食(Soft & Bite-Sized) | 1.5cm以下。舌・顎でつぶせる |
| 7 | 通常食(Regular) | 制限なし |
日本の嚥下調整食学会分類2021
日本摂食嚥下リハビリテーション学会が策定する「嚥下調整食分類2021」は、日本の医療・介護現場で広く採用されています。
嚥下調整食分類2021の段階
食物:
| コード | 名称 | 特徴 |
|---|---|---|
| 0j | 嚥下訓練食品0j | ゼリー状・均質・付着性低 |
| 1j | 嚥下調整食1j | ゼリー・プリン・ムース状 |
| 2-1 | 嚥下調整食2-1 | ピューレ・ペースト状・均質 |
| 2-2 | 嚥下調整食2-2 | ミキサー食・均質でなめらか |
| 3 | 嚥下調整食3 | 舌でつぶせる・形があっても軟らかい |
| 4 | 嚥下調整食4 | 箸やスプーンで切れる軟らかさ |
液体(とろみ):
| 段階 | 名称 | LST値(測定標準) |
|---|---|---|
| 薄いとろみ | Mildly Thick | 36〜43mm |
| 中間のとろみ | Moderately Thick | 32〜36mm |
| 濃いとろみ | Extremely Thick | 0〜32mm |
IDDSIと学会分類2021の詳細対照表
| 学会分類2021 | IDDSI 食物レベル | 特記事項 |
|---|---|---|
| 0j | レベル4(ピューレ)に近い | 学会分類は嚥下訓練目的。IDDSIはより幅広い |
| 1j | レベル4(ピューレ)〜3 | 均質性の要件が近似 |
| 2-1 | レベル4(ピューレ) | ほぼ同等 |
| 2-2 | レベル5(ミンチ)〜4 | IDDSIは粒径(4mm)を明示する |
| 3 | レベル5〜6 | IDDSIは粒径(1.5cm)を明示する |
| 4 | レベル6〜7 | 施設によって解釈の幅がある |
| 学会分類2021(とろみ) | IDDSI 液体レベル |
|---|---|
| 薄いとろみ | レベル2(Mildly Thick) |
| 中間のとろみ | レベル3(Moderately Thick) |
| 濃いとろみ | レベル4(Extremely Thick) |
大湾区標準 T/SATA 084-2025
香港・マカオ・広東省を含む大湾区(GBA)では、2025年に**T/SATA 084-2025「大湾区介護食品の食形態分類および品質評価基準」**が策定されました。
この標準は:
- IDDSIの8段階フレームワークを基盤とし、大湾区市場の実情に対応
- 中国語(繁体字・簡体字)での用語を統一
- 品質評価基準(テスト方法・許容範囲)を明示
- 日本の学会分類2021との参照対照表を含む
日本の食品メーカーが香港・中国市場で嚥下調整食を輸出・販売する際、T/SATA 084-2025への対応が求められる場面が増えています。
国際比較:各国の食形態分類と相互参照
| 国・地域 | 主要分類基準 | IDDSIとの関係 |
|---|---|---|
| 日本 | 嚥下調整食学会分類2021 | 対照表あり(ほぼ整合) |
| 日本 | UDF区分(日本介護食品協議会) | 部分的に対応 |
| 香港・GBA | T/SATA 084-2025 | IDDSIベース |
| オーストラリア | IDDSI(採用) | 完全採用 |
| 欧米 | IDDSI(採用) | 60か国以上 |
| 韓国 | 独自分類+IDDSI参照 | 対照表作成中 |
日本の施設・医療機関での実務的な対応
日本の医療・介護現場では、IDDSI と学会分類2021の両方を使う「デュアル表記」が実用的です。
推奨する食事カードの記載例:
食事形態:ソフト食(学会分類3 / IDDSI レベル5〜6)
液体とろみ:中間のとろみ(学会分類 / IDDSI レベル3)
禁忌:口の中でばらける食品、薄い液体
このような統一された表記により、院内・施設内の全スタッフ(STでない介護士も含む)が安全な食事管理を実施できます。
まとめ
IDDSIは世界標準の食形態分類として60か国以上で採用されており、日本の嚥下調整食学会分類2021とは詳細な対照表で相互参照できます。大湾区標準T/SATA 084-2025を含む国際動向も踏まえながら、日本の医療・介護現場での食形態管理に国際的な視点を取り入れることが、グローバルな連携と食の安全に貢献します。