IDDSIレベルの移行とは
IDDSIレベルの移行(いどう)とは、嚥下(えんげ)機能の回復または低下に伴って、食形態・水分形態を変更することを指します。「レベルアップ(ステップアップ)」は機能回復に伴う通常食への移行、「レベルダウン(ステップダウン)」は機能低下に伴う嚥下調整食への移行です。
いずれの方向への変更も、必ず言語聴覚士(ST)による評価に基づいて行うことが安全管理上の原則です(ASHA, 2023)。
レベルアップの臨床指標
以下の基準がそろったときに、STはレベルアップを検討します:
身体・機能的指標
- 嚥下評価(VF/FEES)で誤嚥なし:次のレベルの食品・液体で誤嚥が確認されない
- RSSTPスコアの改善:30秒で3回以上(前回より改善)
- 食事時間の短縮:30分以内に完食できるようになった
- 咳・むせの改善:食事中・食後の咳嗽の頻度が低下した
- 声の変化なし:食後も声が清澄(湿性嗄声がない)
- 口腔内残留の減少:食後の口腔内の残留が少ない
全身状態の指標
- 体重が安定または増加:栄養状態が改善している
- 誤嚥性肺炎なし:3か月以上発症していない
- 活動量の増加:離床時間の増加、体幹筋力の向上
患者・家族の準備
- 本人が通常食に近い食事を希望している
- 家族が新しい食形態の準備を理解・実施できる
レベルアップの実施手順
ステップ1:STによる評価依頼
主治医またはケアマネジャーがSTに評価を依頼します。
ステップ2:評価の実施
STがベッドサイド評価(BSE)または機器評価(VF/FEES)を実施します。
ステップ3:段階的な移行
一度に複数レベルを上げるのは避け、1レベルずつ移行します:
液体の場合:
- レベル3(中間のとろみ)→ レベル2(薄いとろみ)→ レベル1(やや薄い)→ レベル0(水)
食品の場合:
- レベル4(ピューレ)→ レベル5(ミンチ)→ レベル6(ソフト一口)→ レベル7(通常食)
IDDSIとJDS-C 2021の対照:
| IDDSI | JDS-C 2021コード | 移行の方向 |
|---|---|---|
| レベル4(ピューレ) | コード2 | ↓ 悪化 |
| レベル5(ミンチ) | コード3 | ↑ 改善 |
| レベル6(ソフト) | コード4 | ↑ 改善 |
| レベル7(通常食) | — | ↑ 改善 |
詳細はIDDSIフレームワークを参照してください。
ステップ4:移行後の観察期間
移行後は2〜4週間、以下を観察します:
- 食事中・食後のむせ・咳の有無
- 食後の声の変化
- 体重の変化
- 発熱の有無
異常があればすぐにSTに報告し、元のレベルに戻すことを検討します。
レベルダウンの臨床指標
以下のサインが現れた場合は、STに相談してレベルダウンを検討します:
| サイン | 意味 |
|---|---|
| 食事中・食後のむせが増加した | 嚥下機能の低下の可能性 |
| 食後に声が変わる(濡れた声) | 誤嚥または残留の可能性 |
| 体重が急激に低下した | 摂取量不足または誤嚥による食欲低下 |
| 繰り返す発熱・肺炎 | 誤嚥性肺炎の可能性 |
| 食事を途中でやめる | 疲労・嚥下困難の増大 |
| 神経疾患の進行 | パーキンソン病・ALS等の進行による機能低下 |
重要:レベルダウンは安全のために必要な場合は「すぐに」行います。患者の意思に反する場合でも、安全性を最優先にSTと医師が協議します。
家族・介護職への移行時の指導
食形態が変わる際には、家族・介護職全員への周知と指導が必要です:
- 変更内容の文書での通知:口頭だけでなく書面で共有
- 調製方法の実習:新しいとろみの調製・フローテストの実施
- 調理法の指導:新しいレベルに適した調理方法の実際
- 観察ポイントの共有:移行後に何を観察すべきかを伝える
入院・入所・退院時の引き継ぎ
病院から施設・自宅への転居・転院時には、IDDSIレベルの引き継ぎが重要です。
引き継ぎ情報として必要な内容:
- 現在のIDDSIレベル(液体・固形食それぞれ)
- JDS-C 2021コード(日本の施設での参照用)
- とろみ剤の種類・ブランド・添加量
- 食事介助の方法・姿勢
- STへの紹介基準(どんな場合にSTに相談するか)
安全な食事介助の実践ガイドとSTへの紹介タイミングも参照してください。
参考文献・引用
- ASHA(米国言語聴覚士協会). Adult Dysphagia. https://www.asha.org/practice-portal/clinical-topics/adult-dysphagia/
- IDDSI(国際嚥下調整食分類). The IDDSI Framework. https://www.iddsi.org/framework
- Logemann JA, et al. (1998). PubMed PMID: 26315994
- 日本嚥下医学会. https://www.jsdr.or.jp/
- 日本嚥下調整食学会. 嚥下調整食学会分類2021. 2021.
本記事は医療・介護専門職および家族介護者への情報提供を目的としています。食形態の変更は担当言語聴覚士の指示に従ってください。