介護食レシピ 完全ガイド

**介護食(かいごしょく)**は、高齢・疾患・障害などにより通常の食事が困難になった方が、安全においしく食べられるよう調整した食事の総称です。やわらかく煮た食事から、ミキサーにかけたペースト食、とろみをつけた飲み物まで、幅広いバリエーションがあります。

在宅介護における食事作りは、毎日の継続が必要なため家族介護者の負担になりやすい部分です。本ガイドでは、嚥下調整食のコード別レシピ・調理テクニック・栄養管理の工夫・時短のコツを体系的に解説します。

介護食作りの基礎となる嚥下機能については高齢者の栄養管理も合わせてお読みください。


介護食の基本的な考え方

介護食を作る際に最初に考えるべきことは、「誰が」「どのような状態で」食べるのかです。介護食のニーズは大きく2つに分かれます。

  1. 咀嚼(かむ)機能の低下: 義歯不適合・歯の欠損・顎力低下により、硬い食品が食べられない
  2. 嚥下(飲み込む)機能の低下: 脳卒中・パーキンソン病・認知症・サルコペニアなどにより、飲み込む動作が困難または誤嚥リスクが高い

嚥下機能に問題がある場合は、食形態の調整だけでなくとろみ・均質性・離水の管理が加わります。これが「嚥下調整食」であり、言語聴覚士による評価に基づいた対応が必要です。

日本では65歳以上の高齢者の低栄養有病率が施設居住者で約50%に達するという報告があり(PMID: 26028178)、安全においしく食べ続けることが栄養維持の根本となります。


コード別:介護食レシピの基本

コード2:ペースト食・ミキサー食

嚥下機能が著しく低下した方に対応するミキサー食です。均質・なめらか・べたつかないことが必須条件です。

基本的な作り方の流れ:

  1. 食材を十分に加熱・軟化する(圧力鍋推奨)
  2. 骨・皮・筋・繊維を取り除く
  3. ミキサーに少量のだし汁・豆乳・牛乳を加えてなめらかにする
  4. 目の細かい裏ごし器を通す
  5. 必要に応じてゼラチン・寒天・増粘剤を加えてまとまりをつける
  6. 型や器に流し込んで成形(もとの食材の形に成形すると食欲が上がる)

コード2向けレシピ例:

魚のすり流しゼリー

かぼちゃのポタージュゼリー

茶碗蒸し(介護食版)


コード3:ソフト食(みじん切り・ムース状)

舌と上顎でつぶせる軟らかさで、4mm角以下のサイズが目安です(IDDSI Level 5)。食形態の幅が広がり、食事のバリエーションが増やせる段階です。

調理のポイント:

コード3向けレシピ例:

鶏そぼろと豆腐の丼(ソフト食版)

大根と鶏肉のやわらか煮

洋風ミネストローネ(ソフト食版)


コード4:軟菜食(やわらかい通常食に近い形態)

咀嚼機能がある程度残っており、食の楽しみをより広げられる段階です。

調理のポイント:

コード4向けレシピ例:

豚の角煮(軟菜食版)

白身魚の蒸し煮


とろみ飲料の作り方

介護食と並んで重要なのが飲み物のとろみ管理です。とろみの濃度が薄すぎると誤嚥リスクが高まり、濃すぎると摂取量が減り脱水につながります(PMID: 25853181)。

基本的なとろみの作り方

  1. 計量: とろみ剤のパッケージ表示に従い、飲み物の量に応じた量を計る
  2. 混合: 飲み物にとろみ剤を加え、素早くよく混ぜる
  3. 待機: 製品によって異なるが、1〜2分待って粘度が安定してから提供
  4. 確認: スプーンで掬い上げ、ゆっくり流れ落ちることを確認

とろみの目安

濃度使い方確認方法
薄いとろみ嚥下機能が比較的保たれている場合スプーンを傾けると流れるが、水より明らかに遅い
中間のとろみ標準的なとろみ管理スプーンに山盛りに残り、ゆっくり崩れる
濃いとろみ重度の嚥下機能低下スプーンを傾けても崩れにくい

詳細な比較と製品選びの考え方についてはとろみ剤の選び方(日本語)を参照してください。


介護食の栄養管理:よくある落とし穴と対策

形態調整食では以下の栄養リスクに注意が必要です(PMID: 26028178; PMID: 30005900)。

タンパク質不足

要介護高齢者のサルコペニア予防には1日あたり体重1kgあたり1.2〜1.5gのタンパク質が推奨されています。ミキサー食では食品量が視覚的に少なく見えるため、タンパク質が不足しがちです。

対策:

エネルギー不足

低栄養は免疫低下・褥瘡(床ずれ)・筋肉喪失に直結します。ミキサー食は水分量が多くなりやすく、エネルギー密度が下がりがちです。

対策:

水分不足

とろみ飲料は摂取しにくく、1日の水分摂取量が不足しがちです。脱水は意識障害・便秘・感染症リスク上昇につながります。

対策:


食欲を引き出すための工夫

介護食は見た目や香りへの工夫も重要です。食欲が落ちると摂取量が減り、栄養不足が加速するからです。

盛り付けの工夫

香りの工夫

食事環境の工夫


時短・まとめ調理のコツ

毎日介護食を作ることは大きな負担です。週に1〜2回のまとめ調理が継続のカギになります。

冷凍ストックの作り方

冷凍可能な食品: かぼちゃペースト・魚のすり流し・鶏そぼろ・根菜煮・全粥

冷凍に不向きな食品: ゼラチン系ゼリー(離水が起きやすい)・卵豆腐(食感が変わる)

市販の介護食・嚥下調整食品の活用

近年、コード別に対応した市販の介護食品が充実しています。全てを手作りする必要はなく、市販品と手作りを組み合わせることで負担を減らせます。


介護食のよくある疑問

Q: 介護食に向いている食材・向いていない食材は?

向いている食材向いていない食材
絹ごし豆腐・卵・白身魚・鶏ひき肉繊維の多い根菜(ごぼう・れんこん)
かぼちゃ・じゃがいも・にんじん(加熱後)皮のある食品(トマト・ナス・ぶどう)
バナナ・アボカド硬い肉(牛ステーキ・豚ロース)
全粥・リゾット・うどん(やわらかく煮た)酢の物・酸味の強い食品(むせやすい)
ヨーグルト・プリン・ムース口腔内で粘着する食品(餅・海苔・ウエハース)

Q: 介護食をおいしく作るための味付けは?

塩分制限がある場合でも、だし(昆布・かつお)をしっかりとることでうまみが増し満足感が上がります。糖尿病がある場合は砂糖・みりんの代わりにラカントS・エリスリトール系の甘味料を活用します。


専門職への相談・レシピ相談窓口

介護食の作り方に迷った場合は、以下の専門職に相談することが推奨されます。

嚥下機能の詳細な段階別情報についてはIDDSI Level 5(ミンチ&モイスト)の詳細も参照してください。

また、在宅での食事調理器具の整え方は自宅での食事調理環境にまとめています。


参考文献・エビデンス

  1. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会. 嚥下調整食分類2021(ver.1.0). https://www.jsdr.or.jp/
  2. IDDSI Framework (2019). International Dysphagia Diet Standardisation Initiative. https://www.iddsi.org/framework
  3. Cichero JAY et al. (2017). Development of International Terminology and Definitions for Texture-Modified Foods and Thickened Fluids Used in Dysphagia Management. Dysphagia, 32(2), 293–314. PMID: 28083635
  4. Steele CM et al. (2015). The influence of food texture and liquid consistency modification on swallowing physiology and function. Dysphagia, 30(3), 245–251. PMID: 25853181
  5. Keller H et al. (2015). Prevalence and mechanisms of malnutrition in older adults. Applied Physiology, Nutrition, and Metabolism, 40(5), 448–452. PMID: 26028178
  6. Volkert D et al. (2019). ESPEN guideline on clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clinical Nutrition, 38(1), 10–47. PMID: 30005900
  7. Wirth R et al. (2016). Oropharyngeal Dysphagia in Older Persons – from Pathophysiology to Adequate Intervention. Clinical Interventions in Aging, 11, 189–208. PMID: 26966356
  8. Cruz-Jentoft AJ et al. (2019). Sarcopenia: revised European consensus on definition and diagnosis. Age and Ageing, 48(1), 16–31. PMID: 30312372
  9. 日本栄養士会. 高齢者の栄養管理ガイドライン(2023年版). https://www.dietitian.or.jp/
  10. Martino R et al. (2005). Dysphagia after stroke: incidence, diagnosis, and pulmonary complications. Stroke, 36(12), 2756–2763. PMID: 16269630