改訂水飲みテスト(MWST)完全解説
**改訂水飲みテスト(Modified Water Swallowing Test:MWST)**は、嚥下障害のスクリーニングに広く使用される簡便な床頭試験(Bedside Swallowing Evaluation)の一つです。日本において特に普及しており、言語聴覚士(ST)・医師・看護師・介護専門職が日常的な嚥下評価に活用しています。
1990年代に日本国内の臨床ニーズから開発されたMWSTは、3mLの冷水を用いた標準化されたプロトコルにより、嚥下反射の誘発・誤嚥サインの観察・嚥下後の呼吸変化を評価します。
MWSTの概要と位置づけ
嚥下機能の評価は大きく以下の2段階に分けられます。
- スクリーニング評価:MWSTや反復唾液嚥下テスト(RSST)などの床頭試験
- 精密評価:ビデオ嚥下造影検査(VF・VFSS)や嚥下内視鏡検査(VE・FEES)
MWSTは精密評価の適応判断のためのゲートキーパーとして機能します。MWSTで問題が確認された場合、次のステップとして言語聴覚士による正式評価やFEESの臨床活用を検討します。
実施手順
準備物
- 冷水(常温〜冷水、5℃前後が望ましい)
- 注射器またはスプーン(3mL計量)
- 聴診器(頸部聴診の場合)
- 記録用紙
実施環境
| 条件 | 詳細 |
|---|---|
| 体位 | 座位または30〜60度のリクライニング位 |
| 覚醒レベル | 呼びかけへの反応が確認できること |
| 口腔内 | 過度の分泌物・残留物を除去しておく |
| タイミング | 食事の直前を避け、疲労が少ない時間帯 |
手順ステップ
- 口腔内を確認:過剰な分泌物・口腔残留物を除去
- 体位を整える:可能な限り座位。困難な場合はリクライニング30度以上
- 3mLの冷水を口腔前庭(舌前部)に注入:シリンジまたはスプーンで静かに流す
- 嚥下を指示:「飲み込んでください」と明確に指示
- 観察:嚥下の有無・むせ・嚥下後の声質変化・呼吸変化を確認
- 3回繰り返す:合計3回施行し、最良スコアを記録する(評価基準によって異なる)
判定基準(5段階評価)
MWSTの結果は以下の5段階で評価します。
| スコア | 判定 | 所見 |
|---|---|---|
| 1 | 嚥下なし(嚥下反射が誘発されない) | 嚥下反射の誘発不全。嚥下障害重度 |
| 2 | 嚥下あり、むせあり、呼吸変化なし | 誤嚥の可能性が高い |
| 3 | 嚥下あり、むせなし、呼吸変化あり | 「湿性」または異常な呼吸変化。誤嚥の疑い |
| 4 | 嚥下あり、むせなし、呼吸変化なし(追加嚥下あり) | 正常範囲。咽頭残留への追加嚥下動作が認められる |
| 5 | 嚥下あり、むせなし、呼吸変化なし(追加嚥下なし) | 正常嚥下 |
臨床的カットオフ: スコア3以下は嚥下障害(誤嚥リスク高)として扱われ、食形態変更または精密評価の適応とされます。スコア4〜5は正常範囲とされますが、臨床状況に応じた判断が必要です(Suiter DM & Leder SB, PMID: 18758597)。
嚥下後の呼吸変化(スコア3の解釈)
スコア3の「呼吸変化」の解釈は臨床的に重要です。以下のような変化が観察された場合に陽性とします。
- 嚥下後の呼吸速迫(呼吸回数の増加)
- 嚥下後の呼吸パターンの乱れ
- 湿性嗄声(wet voice):「アー」と発声させ、水っぽい・ゴロゴロした声質が聴取される場合
湿性嗄声は咽頭または喉頭への液体侵入を示唆する重要なサインであり、不顕性誤嚥の臨床識別でも重視されます。
感度・特異度とエビデンス
MWSTの診断精度は、対象集団・評価者・参照基準によって異なりますが、複数の臨床研究から以下が示されています。
| 評価指標 | 値(範囲) | 参照研究 |
|---|---|---|
| 感度(誤嚥検出) | 70〜90% | Suiter & Leder, 2008 |
| 特異度 | 65〜80% | Trapl et al., 2007 |
| 陽性的中率 | 中程度 | 対象集団に依存 |
MWSTは不顕性誤嚥(silent aspiration)の検出に限界があります。咳嗽反射が低下した患者では、実際に誤嚥が起きていても「むせ」を示さないため、スコア4〜5であっても誤嚥を否定できない点に注意が必要です(Daniels SK et al., PMID: 9122872)。
不顕性誤嚥が疑われる場合は、頸部聴診や嚥下内視鏡検査(FEES)による精密評価が推奨されます。
反復唾液嚥下テスト(RSST)との使い分け
| 特性 | MWST | RSST |
|---|---|---|
| 刺激物 | 冷水3mL | 唾液のみ(刺激なし) |
| 評価内容 | 誤嚥サイン・嚥下の質 | 嚥下運動の反復回数(30秒) |
| 適応 | 液体嚥下機能の評価 | 嚥下運動機能全般の評価 |
| 誤嚥リスク | わずかにあり(3mL) | ほぼなし |
| 認知症患者 | 指示理解が必要 | 指示理解が比較的容易 |
両テストは相互に補完する関係にあります。反復唾液嚥下テスト(RSST)の解説も合わせて参照してください。
標準化された評価との組み合わせプロトコル
多くの嚥下評価プロトコルでは、MWSTを含む複数のスクリーニングツールを段階的に組み合わせることを推奨しています。
推奨スクリーニング順序(在宅・施設):
- 聖隷式嚥下質問紙(SFS):症状の問診・スコアリング → SFSの解説
- RSST:嚥下運動機能の確認(30秒3回未満で陽性)
- MWST:液体嚥下機能の確認(スコア3以下で陽性)
- スコア3以下またはSFS高スコア:ST評価またはFEES/VF検査へ
このフローに従うことで、不必要な精密検査を避けながら、高リスク患者を確実に専門評価につなぐことができます。
実施上の注意事項と禁忌
絶対禁忌
- 意識レベル低下(JCS 2以上:呼びかけで目を開けない)
- 体位保持が全く不可能
- 大量の口腔内分泌物・嘔吐リスクが高い状態
相対的注意事項
- 気管切開患者:カフ圧・発声弁の有無によって評価が大きく変わるため、STとの連携が必須
- 口腔乾燥が著しい患者:嚥下反射の誘発が不安定になる可能性がある
- 重度の咳嗽反射低下:スコアが過大評価(問題なし)になるリスクがある
食形態変更・とろみ導入への橋渡し
MWSTの結果を食形態選択に活用する場合、スコアのみで即座に決定するのではなく、以下の情報を総合して判断します。
- 基礎疾患・嚥下障害の原因
- 認知機能・覚醒レベル
- 栄養状態・水分摂取状況
- 家族・介護者のケア力
MWSTでスコア3以下が確認された場合、嚥下調整食学会分類2021に基づく食形態の選択(コード0〜2レベル)ととろみ剤の適切な使用を検討します。
参考文献
- Suiter DM & Leder SB (2008). Clinical utility of the 3-ounce water swallow test. Dysphagia, 23(3), 244–250. PMID: 18758597
- Trapl M et al. (2007). Dysphagia bedside screening for acute-stroke patients. Stroke, 38(11), 2948–2952. PMID: 17885261
- Daniels SK et al. (1997). Clinical predictors of dysphagia and aspiration risk. Arch Phys Med Rehabil, 78(2), 149–153. PMID: 9122872
- Cichero JAY et al. (2017). Development of International Terminology and Definitions for Texture-Modified Foods and Thickened Fluids Used in Dysphagia Management. Dysphagia, 32(2), 293–314. PMID: 28083635
- 日本嚥下医学会(JSDR)嚥下障害診療ガイドライン 2018 年版: https://www.jsdr.or.jp/guideline.html
- ASHA Adult Dysphagia Practice Portal: https://www.asha.org/practice-portal/clinical-topics/adult-dysphagia/