嚥下障害と低栄養 — 気づき・評価・対応
嚥下障害のある方は、食事量の減少・食形態の制限・食欲低下などによって低栄養(malnutrition)に陥るリスクが非常に高い状況にあります。低栄養は筋力低下(サルコペニア)・免疫機能低下・創傷治癒の遅延・認知機能の悪化を招き、さらに嚥下機能を低下させるという悪循環を生じます。
低栄養を早期に発見し、適切な栄養補給と食支援を組み合わせることが、安全で豊かな食生活の維持につながります。
低栄養のリスクサインに気づく
以下のサインに注意してください。
食事面:
- 食事量が以前の半分以下になっている
- 食事時間が著しく長くなった(1食30分以上)
- 食形態を下げたことで品数・量が減った
- 食欲がない日が3日以上続く
身体面:
- 体重減少:1ヶ月で2〜3%以上、6ヶ月で5〜10%以上の体重減少
- ふくらはぎの周径が30cm未満(下肢筋肉量の低下の目安)
- 握力低下(男性28kg未満・女性18kg未満がサルコペニアの目安:AWGS2019基準)
- 皮膚の乾燥・髪のつや低下
- 傷の治りが悪い・感染症を繰り返す
MNA-SF:栄養スクリーニング
**MNA-SF(Mini Nutritional Assessment Short Form)**は高齢者の栄養状態を6項目で評価する簡便なスクリーニングツールです。在宅・施設・外来どの設定でも使用できます。
評価項目(各0〜2点)
| 質問 | 点数 |
|---|---|
| 1. 食事量の変化(減少なし→2点) | 0〜2 |
| 2. 3ヶ月での体重減少(なし→3点) | 0〜3 |
| 3. 移動能力(自立→2点) | 0〜2 |
| 4. 急性疾患・心理的ストレス(なし→2点) | 0〜2 |
| 5. 神経・精神的問題(なし→2点) | 0〜2 |
| 6. BMI または下腿周囲長(高いほど高得点) | 0〜3 |
判定
| 合計点数 | 判定 |
|---|---|
| 12〜14点 | 正常栄養状態 |
| 8〜11点 | 低栄養リスクあり(管理栄養士への相談を推奨) |
| 0〜7点 | 低栄養 (管理栄養士・医師への相談が必要) |
体重変化のモニタリング
体重は最もシンプルで信頼性の高い栄養指標です。
推奨モニタリング頻度:
- 在宅介護:週1回以上(毎朝、排尿後・食前に同じ条件で計測)
- 施設入居者:月2回以上(リスク高い方は週1回)
体重変化の評価基準(臨床的に有意な体重減少):
| 期間 | 有意な減少の目安 |
|---|---|
| 1週間 | 1〜2%以上 |
| 1ヶ月 | 2〜3%以上 |
| 3ヶ月 | 5%以上 |
| 6ヶ月 | 10%以上 |
体重が有意に減少した場合は、速やかに管理栄養士・医師に相談してください。
高エネルギー食品の工夫
嚥下食は食材の軟化・ブレンドの工程で水分量が増え、体積当たりのエネルギー密度が下がりやすいという問題があります。少ない量でエネルギーとタンパク質を確保するための工夫を紹介します。
エネルギーを増やす食材の工夫
| 食材 | 特徴 | 使い方 |
|---|---|---|
| 良質な植物油(オリーブオイル・えごま油) | 1g=9kcal(糖質・タンパク質の2倍)。味への影響が少ない | スープ・ピューレに少量(5〜10mL)混ぜる |
| バター・マーガリン | 風味を加えながらエネルギー補給 | 温かい軟飯・野菜ピューレに溶かす |
| 砂糖・はちみつ | 甘みも加わり食欲を引き出す | 飲み物・デザート系ピューレに |
| 粉飴(マルトデキストリン) | 無味無臭のエネルギー補給粉 | 飲み物・スープ・ピューレに混ぜる |
| きな粉・黒ごまペースト | エネルギー+タンパク質+カルシウム | 軟飯・豆腐ピューレに混ぜる |
タンパク質を増やす食材の工夫
| 食材 | 特徴 | 使い方 |
|---|---|---|
| 絹ごし豆腐 | 軟らかく嚥下食に混ぜやすい | ピューレ・スープに加える |
| 卵(ポーチドエッグ・蒸し卵) | 完全タンパク質。嚥下食に加工しやすい | 茶碗蒸し・ピューレの材料に |
| スキムミルク(脱脂粉乳) | 牛乳同様の栄養をかさ増しせず添加 | スープ・全粥・飲み物に混ぜる |
| プロテインパウダー(大豆・ホエイ) | タンパク質を集中補給 | 飲み物・スープに混ぜる(味の選択注意) |
経腸栄養補助食品(ONS)の選択
**経口栄養補助食品(ONS:Oral Nutritional Supplements)**は、通常の食事だけでは不足するエネルギー・タンパク質を補うための流動食・栄養剤です。嚥下障害のある方には、液体の粘度(IDDSI レベル)にも注意して選択します。
主要製品の種類
| 製品名 | メーカー | 特徴 |
|---|---|---|
| エンシュア・リキッド | アボット ニュートリション | 1缶250mL・250kcal。病院処方多い |
| メイバランス Mini | 明治 | 125mL・200kcal。飲みやすい小容量 |
| アイソカルゼリー HC | ネスレ日本 | ゼリー状(IDDSI L3〜4相当)。嚥下困難者向け |
| テルミール ミニ | テルモ | 125mL・200kcal。多様なフレーバー |
| プロッカ Znα | ニュートリー | タンパク質強化・小容量 |
選択のポイント
- エネルギー密度:1mLあたり1〜2kcalの高エネルギー品を選ぶと少量で補給できる
- テクスチャー(IDDSI レベル):液体タイプはとろみ剤で調整が必要。ゼリータイプはそのまま使用できることが多い
- タンパク質量:低栄養リスクのある方は100mLあたり5g以上を目安に
- アレルギー:牛乳アレルギーのある方は大豆ベースまたはアレルギー対応製品を選択
NST(栄養サポートチーム)への相談
**NST(Nutrition Support Team)**は、医師・管理栄養士・看護師・薬剤師・言語聴覚士などの多職種で構成される栄養管理チームです。
NSTに相談すべきタイミング
- MNA-SF スコアが8点未満(低栄養リスク〜低栄養)
- 3ヶ月以内に体重が5%以上減少
- 食事のみでは必要栄養量を充足できない
- 経口から経管栄養への移行を検討している
- 経管栄養から経口摂取への移行を目指している
相談先・窓口
- 入院中:担当医師・病棟栄養士に「NST の相談をしたい」と申し出る
- 在宅:かかりつけ医またはケアマネジャー → 訪問管理栄養士または訪問看護ステーションのNST連携
- 地域包括支援センターでも管理栄養士への相談窓口を紹介してもらえることがあります
嚥下食と栄養管理の実践チェックリスト
月1回、以下の項目を確認することを推奨します。
- 体重に変化がないか(前月比)
- 1日の食事摂取量が適切か(主食・主菜・副菜が揃っているか)
- タンパク質食品(肉・魚・卵・豆腐)が毎日摂れているか
- 水分摂取量は十分か(目標量との比較)
- 現在の食形態で口から食べ続けられているか
- 補助栄養食品が必要かどうか(MNA-SF スクリーニング)
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最終更新:2026年5月13日