嚥下障害と低栄養 — 気づき・評価・対応

嚥下障害のある方は、食事量の減少・食形態の制限・食欲低下などによって低栄養(malnutrition)に陥るリスクが非常に高い状況にあります。低栄養は筋力低下(サルコペニア)・免疫機能低下・創傷治癒の遅延・認知機能の悪化を招き、さらに嚥下機能を低下させるという悪循環を生じます。

低栄養を早期に発見し、適切な栄養補給と食支援を組み合わせることが、安全で豊かな食生活の維持につながります。


低栄養のリスクサインに気づく

以下のサインに注意してください。

食事面:

身体面:


MNA-SF:栄養スクリーニング

**MNA-SF(Mini Nutritional Assessment Short Form)**は高齢者の栄養状態を6項目で評価する簡便なスクリーニングツールです。在宅・施設・外来どの設定でも使用できます。

評価項目(各0〜2点)

質問点数
1. 食事量の変化(減少なし→2点)0〜2
2. 3ヶ月での体重減少(なし→3点)0〜3
3. 移動能力(自立→2点)0〜2
4. 急性疾患・心理的ストレス(なし→2点)0〜2
5. 神経・精神的問題(なし→2点)0〜2
6. BMI または下腿周囲長(高いほど高得点)0〜3

判定

合計点数判定
12〜14点正常栄養状態
8〜11点低栄養リスクあり(管理栄養士への相談を推奨)
0〜7点低栄養 (管理栄養士・医師への相談が必要)

体重変化のモニタリング

体重は最もシンプルで信頼性の高い栄養指標です。

推奨モニタリング頻度:

体重変化の評価基準(臨床的に有意な体重減少):

期間有意な減少の目安
1週間1〜2%以上
1ヶ月2〜3%以上
3ヶ月5%以上
6ヶ月10%以上

体重が有意に減少した場合は、速やかに管理栄養士・医師に相談してください。


高エネルギー食品の工夫

嚥下食は食材の軟化・ブレンドの工程で水分量が増え、体積当たりのエネルギー密度が下がりやすいという問題があります。少ない量でエネルギーとタンパク質を確保するための工夫を紹介します。

エネルギーを増やす食材の工夫

食材特徴使い方
良質な植物油(オリーブオイル・えごま油)1g=9kcal(糖質・タンパク質の2倍)。味への影響が少ないスープ・ピューレに少量(5〜10mL)混ぜる
バター・マーガリン風味を加えながらエネルギー補給温かい軟飯・野菜ピューレに溶かす
砂糖・はちみつ甘みも加わり食欲を引き出す飲み物・デザート系ピューレに
粉飴(マルトデキストリン)無味無臭のエネルギー補給粉飲み物・スープ・ピューレに混ぜる
きな粉・黒ごまペーストエネルギー+タンパク質+カルシウム軟飯・豆腐ピューレに混ぜる

タンパク質を増やす食材の工夫

食材特徴使い方
絹ごし豆腐軟らかく嚥下食に混ぜやすいピューレ・スープに加える
卵(ポーチドエッグ・蒸し卵)完全タンパク質。嚥下食に加工しやすい茶碗蒸し・ピューレの材料に
スキムミルク(脱脂粉乳)牛乳同様の栄養をかさ増しせず添加スープ・全粥・飲み物に混ぜる
プロテインパウダー(大豆・ホエイ)タンパク質を集中補給飲み物・スープに混ぜる(味の選択注意)

経腸栄養補助食品(ONS)の選択

**経口栄養補助食品(ONS:Oral Nutritional Supplements)**は、通常の食事だけでは不足するエネルギー・タンパク質を補うための流動食・栄養剤です。嚥下障害のある方には、液体の粘度(IDDSI レベル)にも注意して選択します。

主要製品の種類

製品名メーカー特徴
エンシュア・リキッドアボット ニュートリション1缶250mL・250kcal。病院処方多い
メイバランス Mini明治125mL・200kcal。飲みやすい小容量
アイソカルゼリー HCネスレ日本ゼリー状(IDDSI L3〜4相当)。嚥下困難者向け
テルミール ミニテルモ125mL・200kcal。多様なフレーバー
プロッカ Znαニュートリータンパク質強化・小容量

選択のポイント

  1. エネルギー密度:1mLあたり1〜2kcalの高エネルギー品を選ぶと少量で補給できる
  2. テクスチャー(IDDSI レベル):液体タイプはとろみ剤で調整が必要。ゼリータイプはそのまま使用できることが多い
  3. タンパク質量:低栄養リスクのある方は100mLあたり5g以上を目安に
  4. アレルギー:牛乳アレルギーのある方は大豆ベースまたはアレルギー対応製品を選択

NST(栄養サポートチーム)への相談

**NST(Nutrition Support Team)**は、医師・管理栄養士・看護師・薬剤師・言語聴覚士などの多職種で構成される栄養管理チームです。

NSTに相談すべきタイミング

相談先・窓口


嚥下食と栄養管理の実践チェックリスト

月1回、以下の項目を確認することを推奨します。


関連ページ


最終更新:2026年5月13日