嚥下障害者向け経口栄養補助食品(ONS)の選び方:製品選択ガイド
経口栄養補助食品(Oral Nutritional Supplements:ONS)は、嚥下障害者が通常の食事だけでは不足するエネルギー・タンパク質・微量栄養素を補うための重要な手段です。しかし、嚥下障害者は粘度・食感・口腔内での挙動に厳格な条件があるため、全ての ONS が安全に使用できるわけではありません。
本稿では、嚥下障害者に ONS を選択・処方する際の評価基準と、日本で入手可能な主要製品の特徴を解説します。
1. ONS が必要になる状況
嚥下障害のメカニズムについては 嚥下障害のメカニズム を参照してください。以下の状況で ONS の導入を検討します。
- 低栄養スクリーニング陽性:MNA-SF ≤ 11点または1か月で2%以上の体重減少
- 食事摂取量が目標量の75%未満が3日以上続く
- 嚥下調整食のエネルギー密度が低すぎる:ミキサー食・ゼリー食だけでは十分なカロリーが取れない
- 食事回数の制限:疲労・嚥下時間の延長により食事回数を減らさざるを得ない
- 退院後・術後の回復期:栄養需要が増大している時期
ASHA も成人嚥下障害管理において、適切な栄養補充の重要性を強調しています (ASHA Adult Dysphagia Practice Portal)。
2. 嚥下障害者の ONS 選択基準
2-1. 粘度・形状(最重要)
IDDSI フレームワーク(https://www.iddsi.org/framework)に基づいて、患者の嚥下レベルに適合した粘度の製品を選択します。
| IDDSI レベル | 粘度 | 対象嚥下障害 | 代表的な形態 |
|---|---|---|---|
| Level 0 (薄い液体) | 水と同等 | 嚥下機能が正常または軽度のみ低下 | 一般的な液体 ONS |
| Level 1〜2 | 薄い〜中間のとろみ | 液体誤嚥リスクあり | とろみ液状 ONS |
| Level 3 | 濃いとろみ | 誤嚥リスクが高い | とろみゼリー状 ONS |
| Level 4 | ピューレ状 | 高度の嚥下障害 | ペースト・プリン状 ONS |
薄い液体 ONS(Level 0)は最も多くの製品に該当しますが、液体誤嚥リスクのある患者には増粘剤を添加するか、初めからとろみ付き製品を選択する必要があります。
2-2. エネルギー密度
- 標準密度:1 mL あたり約1 kcal(1本200 mL で200 kcal)
- 高エネルギー密度:1 mL あたり1.5〜2.0 kcal(1本200 mL で300〜400 kcal)
- 摂取量が少ない患者には高エネルギー密度製品が有利
2-3. タンパク質含量
サルコペニア性嚥下障害の患者では、タンパク質含量の高い製品(1本あたり15〜20 g 以上)を優先します。BCAA(分岐鎖アミノ酸)を強化した製品は筋肉合成促進に有利です。
2-4. 味・嗜好性
毎日継続するためには、患者が「飲みたい・食べたい」と感じる風味が重要です。複数の味・形態を試し、本人の嗜好を尊重した選択が継続率を高めます。
3. 製品カテゴリーと特徴
3-1. 液状 ONS(Level 0〜1)
特徴:多品種・入手容易、栄養バランスが充実している。嚥下障害者には増粘剤添加が必要なことが多い。
代表的な製品例(学術的に言及される代表カテゴリー):
- 牛乳ベースの栄養剤(カロリーメイト系、アイソカル系)
- 植物性ベースの栄養剤(乳糖不耐症・乳アレルギー対応)
- 疾患特異的製品(糖尿病用・腎臓病用・肝臓病用)
3-2. 半固形状・ゼリー状 ONS(Level 3〜4)
特徴:嚥下障害者に適した粘度、胃食道逆流予防にも有効、食事としての满足感がある。
- ゼリー飲料(IDDSI Level 3 相当)
- プリン・ムース状(IDDSI Level 4 相当)
- エンシュア・プリン系製品
日本嚥下医学会の基準に基づく学会分類2021対応製品も増えており、パッケージにコードが記載されているものを選択すると安全性の確認が容易です (日本嚥下医学会)。
3-3. 粉末 ONS
特徴:水・牛乳・ミキサー食に溶かして使用、食事への添加が可能。調製後の粘度調整が必要。
- タンパク質強化パウダー(WPI・WPC・大豆タンパク)
- 総合栄養粉末
4. 增粘剤との組み合わせ
液状 ONS に増粘剤を添加する際の注意点:
- デンプン系増粘剤:温度変化で粘度が変わりやすく、冷却後に粘度が変動することがある
- キサンタンガム系増粘剤:温度変化に安定、唾液アミラーゼで分解されにくい
増粘剤添加後は必ず IDDSI フォークドリップテスト・スプーンテストで粘度を確認してから提供します。
5. コスト・継続性の考慮
ONS は長期にわたる継続使用が多く、コストが課題になることがあります。
- 介護保険の「経口維持加算」は ONS を用いた経口維持計画と連動させることができます
- 在宅では医師の指示のもとで「特別食加算」対応製品として保険適用されるケースもあります
- 市販の食品(豆乳・ヨーグルト・牛乳など)をベースにした自家製栄養補給食を補完として活用することも有効です
6. モニタリングと効果評価
ONS 導入後は以下を定期的に評価します。
- 体重変化:2〜4週ごとに測定
- 食事摂取量:ONS によって通常食の摂取量が減っていないか確認(「ONS が食事の代わり」にならないよう注意)
- 消化器症状:下痢・便秘・腹部膨満の有無
- 血液検査:アルブミン・プレアルブミンの改善をフォロー
安全な嚥下のための代償戦略・STへの紹介のタイミング と組み合わせて総合的に管理します。
7. まとめ
嚥下障害者向け ONS の選択では、IDDSI 粘度レベルへの適合・エネルギー密度・タンパク質含量・嗜好性という4つの軸が重要です。管理栄養士がスクリーニング結果をもとに個別の製品を選択・評価し、ST が嚥下安全性を確認する多職種連携が、ONS の有効で安全な活用を支えます。
参考資料
- ASHA Adult Dysphagia Practice Portal — https://www.asha.org/practice-portal/clinical-topics/adult-dysphagia/
- IDDSI Framework — https://www.iddsi.org/framework
- Logemann JA et al. (2015). PubMed PMID: 26315994 — https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26315994/
- 日本嚥下医学会 — https://www.jsdr.or.jp/