介護施設へのIDDSI全面導入:計画から実施までのステップバイステップガイド
IDDSI(International Dysphagia Diet Standardisation Initiative:国際嚥下食品標準化委員会)フレームワークは、嚥下調整食の食形態・水分粘度を国際的に統一するための分類体系です。日本では学会分類2021(嚥下調整食学会分類)が標準とされていますが、国際標準である IDDSI の採用は、インバウンド対応・外国人スタッフへの指導・国際共同研究への参加などの観点から、日本の介護施設でも注目が高まっています。
本稿では、特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)における IDDSI 導入を段階的に実現するための実践ガイドを提供します。
1. IDDSI とは何か、学会分類2021との違い
IDDSI フレームワーク(https://www.iddsi.org/framework)は2013年から開発が始まり、2017年に世界的に採用された嚥下調整食の統一分類です。食品は Level 0〜7、水分は Level 0〜4 で表されます。
| IDDSI レベル | 日本語名 | 学会分類2021 相当コード | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Level 0 | 薄い液体 | — | 水と同じ粘度 |
| Level 1 | やや薄いとろみ | とろみ(薄い)相当 | 非常に軽微なとろみ |
| Level 2 | 薄いとろみ | とろみ(薄い〜中間)相当 | スプーンからゆっくり流れる |
| Level 3 | 中間のとろみ | とろみ(濃い)相当 | スプーンで形が崩れる |
| Level 4 | なめらかペースト | コード2-1〜2-2相当 | スプーンで押しつぶし可能 |
| Level 5 | やわらかいミンチ | コード3相当 | フォークで押しつぶし可能 |
| Level 6 | 軟らかい一口サイズ | コード4相当 | 舌と上顎で押しつぶし可能 |
| Level 7 | 通常食 | 一般食 | 特別な制限なし |
ASHA も嚥下障害の食形態標準化として IDDSI の活用を推奨しています (ASHA Adult Dysphagia Practice Portal)。
2. 導入前の準備(0〜3か月目)
2-1. 現状アセスメント
- 現在の施設内食形態分類(独自名称・学会分類)を整理する
- 入所者全員の嚥下機能・食形態・水分粘度レベルをSTが評価する
- 厨房設備(ブレンダー・ゼラチン型・計量器具)の整備状況を確認する
- スタッフの知識レベルをアンケートで確認する
2-2. 多職種準備チームの結成
IDDSI 導入は多職種連携なしには成功しません。
| 職種 | 役割 |
|---|---|
| 施設管理者 | 予算確保・外部研修費の承認・管理体制の整備 |
| ST(言語聴覚士) | 嚥下評価・食形態適合性の確認・スタッフ教育 |
| 管理栄養士 | 食形態ごとのメニュー開発・エネルギー密度計算 |
| 看護師 | バイタル管理・誤嚥発生時の対応 |
| 介護士リーダー | 食事介助研修の実施・日常的なモニタリング |
| 厨房責任者 | 調理手順書の改訂・食品保管の管理 |
2-3. 導入方針の決定
- IDDSI 単独で使用するか、学会分類2021との対照表形式で併記するかを決める
- 介護保険書類(ケアプラン・通所計画書など)への記載方法を統一する
3. パイロット実施(3〜6か月目)
3-1. 一ユニットでの試行
全施設に一度に導入するのではなく、1つのユニット(30〜40名)からパイロット実施します。
- 対象ユニットのスタッフ全員に IDDSI 研修を実施する(詳細は スタッフ研修記事 を参照)
- 厨房に IDDSI レベル別の調理手順書を配備する
- 入所者ごとのケアプランに IDDSI レベルを明記する
- 週次でパイロットチームが課題を集約する
3-2. IDDSI テストの実施
導入前後で実際の食品・水分の IDDSI テストを実施します。
- フォークドリップテスト(Level 1〜4の液体確認)
- スプーンテスト(Level 3〜5 の固形物確認)
- フォーク圧テスト(Level 5〜6 の固形物確認)
テスト実施手順の詳細は日本嚥下医学会のガイドラインおよびIDDSI 公式サイトを参照してください (日本嚥下医学会)。
4. 全施設展開(6〜12か月目)
4-1. 段階的な展開
パイロット結果を反映して、施設全体への展開計画を策定します。
- 月2ユニット程度のペースで展開する
- 各ユニット展開前に、STと管理栄養士が集中研修を実施する
- 厨房の調理手順書を順次更新する
4-2. 書類・記録の整備
介護保険の各種書類に IDDSI レベルを反映させます。
- ケアプランの「食事形態」欄に IDDSI レベルを追記
- サービス担当者会議での共有
- 施設内外への申し送り書への記載
5. 介護保険制度との関係
IDDSI 導入は以下の介護保険加算の取得要件に関連します。
- 口腔機能向上加算:STが関与した嚥下機能評価の記録
- 栄養マネジメント強化加算:管理栄養士による定期的な栄養評価
- 経口維持加算(I・II):多職種による経口摂取維持計画
これらの加算は介護保険法・特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準(省令第40号)の要件と連動しています。IDDSI の記録は、これらの加算算定の証拠書類としても機能します。
6. 定期監査と継続的改善
IDDSI 導入後は定期的な監査を行います。詳細は 監査チェックリスト記事 を参照してください。
- 月次:食形態テストの実施・スタッフアンケート
- 四半期:入所者全員の嚥下機能再評価(STによる)
- 年次:外部評価者による IDDSI 適合性評価
7. まとめ
介護施設への IDDSI 全面導入は、事前準備・パイロット実施・段階的展開・継続的監査という4段階を経て実現できます。学会分類2021との対照表を活用して既存の日本式食形態分類との連続性を確保しながら、国際標準に対応した嚥下安全管理体制を構築しましょう。多職種連携と介護保険制度の加算活用が、持続可能な IDDSI 実践の基盤となります。
参考資料
- ASHA Adult Dysphagia Practice Portal — https://www.asha.org/practice-portal/clinical-topics/adult-dysphagia/
- IDDSI Framework — https://www.iddsi.org/framework
- Logemann JA et al. (2015). PubMed PMID: 26315994 — https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26315994/
- 日本嚥下医学会 — https://www.jsdr.or.jp/