脳卒中と嚥下障害の関係
脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)は、日本の嚥下障害の最も一般的な原因の一つです。脳卒中発症後の急性期には、約50〜70%の患者に何らかの嚥下障害が生じると報告されています。
嚥下は脳の複数の部位が関与する複雑な神経機能であり、損傷部位によって障害のパターンが異なります。
- 大脳皮質(一側性病変):口腔期の随意的な動きが障害されやすい
- 脳幹(延髄)病変:咽頭・喉頭の反射に関わる嚥下中枢が障害され、重篤な嚥下障害となりやすい
- 両側大脳半球病変:重篤な球麻痺様症状
急性期(発症〜2週間)の対応
急性期病院では、脳卒中発症後できるだけ早期に嚥下スクリーニングを行うことが標準的です。
嚥下スクリーニング
- 反復唾液嚥下テスト(RSST):30秒間の唾液嚥下回数を評価
- 水飲みテスト(30ml):むせや声の変化を確認
- 改訂水飲みテスト(MWST):3mlの冷水を用いたより安全なテスト
スクリーニングで問題が疑われる場合は、言語聴覚士(ST)による精査(VFSS:嚥下造影検査、VESS:嚥下内視鏡検査)が行われます。
急性期の食事管理
- 誤嚥リスクが高い場合は絶食・経管栄養(経鼻チューブ)からスタート
- 全身状態が安定したら、STの評価に基づき安全な食形態から経口摂取を開始
- 急性期は変化が速く、数日〜1週間で食形態を段階的に上げることも
回復期(入院リハビリテーション)
日本では「回復期リハビリテーション病棟」制度があり、脳卒中後は通常60〜150日程度(重症度・年齢により異なる)の入院リハビリが可能です。
回復期における嚥下リハビリの特徴
- STによる毎日または週複数回の直接嚥下訓練と間接訓練
- VFSS・VESSによる客観的評価と食形態の適切な設定
- 管理栄養士・看護師・医師・STによる多職種チームアプローチ
- 離床・ADL向上と連動した嚥下機能の改善
IDDSI段階別の食事進展
回復期では、患者の回復に合わせてIDDSIレベルを段階的に上げていきます。
| IDDSI レベル | 日本の嚥下調整食(学会分類2021) | 適応の目安 |
|---|---|---|
| レベル3(中間のとろみ) | 0j(ゼリー) | 嚥下障害重度、誤嚥リスク高 |
| レベル4(ピューレ) | 1j・2-1 | 経管から経口への移行期 |
| レベル5(ミンチ) | 2-2 | 嚥下機能が中等度 |
| レベル6(ソフト) | 3(ソフト食) | 回復が進んだ段階 |
| レベル7(通常食) | 4(通常食) | 嚥下機能ほぼ正常 |
在宅への移行と継続管理
退院時には、ST・管理栄養士・ソーシャルワーカーが連携して在宅での食事管理計画を作成します。
退院時に確認すべき事項
- 退院時の推奨IDDSIレベル(食事・とろみ飲料それぞれ)
- 禁忌食品(例:粒が残りやすい食品、ばらけやすい食品)
- 食事姿勢の指示(リクライニング角度など)
- 誤嚥・窒息時の対応方法
- 在宅でのとろみ調整食品の入手方法
在宅での継続サポート
- 訪問ST:介護保険の訪問リハビリテーションとして、自宅での嚥下訓練・食事指導が受けられます。
- 訪問看護:食事介助・服薬管理・吸引指導に対応。
- 通所リハ(デイケア):STによる嚥下訓練・食事評価を定期的に受けられます。
- かかりつけ医・外来ST:定期的なフォローアップ。
脳卒中後嚥下障害の回復予後
脳卒中後の嚥下障害は、適切なリハビリテーションにより多くの場合で改善が期待できます。
- 急性期に嚥下障害があっても、6か月後には80〜90%の患者で経口摂取が可能になるとされています。
- 脳幹梗塞・両側病変・高齢者では回復が遅れる場合があります。
- VFSS・VESSによる定期的な再評価が重要です。
誤嚥性肺炎のリスク管理
脳卒中後の嚥下障害では、誤嚥性肺炎が最大の合併症の一つです。以下の予防策が重要です。
- 食後すぐに横にならない(食後30分は座位を保つ)
- 口腔ケアを毎食後実施する
- 安全な食形態と適切なとろみレベルを守る
- 倦怠感・発熱・呼吸困難の早期発見と受診
まとめ
脳卒中後の嚥下障害は、急性期の早期スクリーニングから始まり、回復期リハビリ病棟でのSTによる集中訓練、そして在宅での継続ケアが重要です。日本の回復期リハビリ医療体制と介護保険サービスを活用し、安全な食形態での経口摂取の維持・改善を目指しましょう。