聖隷式嚥下質問紙(SFS)完全解説

**聖隷式嚥下質問紙(Seirei Frenchay Swallowing Questionnaire / Seirei Swallowing Questionnaire、SFS)**は、日本で開発された嚥下障害スクリーニングのための自記式・他記式質問紙です。15項目の質問から構成され、嚥下に関連する症状の頻度・重症度を定量的に評価します。

在宅・外来・施設など多様な場面での嚥下障害スクリーニングに活用されており、医師・言語聴覚士(ST)・管理栄養士・介護専門職が連携してスクリーニングを行う際の標準ツールとして位置づけられています。


聖隷式嚥下質問紙の背景と開発経緯

日本における嚥下障害スクリーニングツールの開発は、1990年代以降急速に進みました。SFSは、嚥下障害の臨床症状と生活への影響を系統的に評価するために開発された日本語版の質問紙であり、反復唾液嚥下テスト(RSST)や改訂水飲みテスト(MWST)などの身体的スクリーニングテストと相補的に使用されます。

SFSの特長は、患者や家族が自己記入できる形式であり、専門的な器具を必要とせず、日常的な嚥下症状の経時的変化を追跡できる点にあります。ビデオ嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)の適応判断の一助として活用されます(日本嚥下医学会, 2021; Miyaji et al., PMID: 24248647)。


質問項目の構成(15項目)

SFSは以下の症状領域に関する15の質問で構成されます。各項目は「ない(0点)」「まれにある(1点)」「時々ある(2点)」「しばしばある(3点)」の4段階で評価します。

A群:嚥下動作・咽頭症状

項目症状内容臨床的意義
A1食事中・食後のむせ嚥下後誤嚥・咽頭残留のサイン
A2水分でむせる液体の嚥下困難、とろみ適応の指標
A3食べ物が口からこぼれる口唇閉鎖機能・食塊形成の障害
A4食後に声が変わる(湿性嗄声)咽頭残留・喉頭侵入の重要サイン
A5食物が喉に詰まる感じ咽頭収縮不全・UES開大不全

A4(湿性嗄声)は不顕性誤嚥の臨床的サインとして特に感度が高く、評価者が意識的にチェックすべき項目です。喉頭鏡なしに喉頭侵入を推定できる非侵襲的な所見です。

B群:食事全般・生活への影響

項目症状内容臨床的意義
B1食事時間が30分以上かかる嚥下効率の低下・疲労
B2食事量が減っている栄養リスク・体重減少の先行指標
B3食事への恐怖感・嫌悪感心理的影響・生活の質(QOL)低下
B4体重減少(最近3ヶ月)低栄養・サルコペニア嚥下障害の合併

体重減少と嚥下障害の相互関係については低栄養と嚥下障害も参照してください。

C群:口腔・唾液・呼吸との関連

項目症状内容臨床的意義
C1口の中に食物が残る舌・頬の運動機能低下、口腔清潔リスク
C2飲み込む前に咽頭へ流れる早期後方流出(Premature bolus loss)のサイン
C3固形物と液体の問題の差形態依存性の評価に有用
C4食後の咳(30分以内)遅発性誤嚥・胃食道逆流の可能性
C5繰り返す肺炎・発熱誤嚥性肺炎の反復、緊急的な評価が必要

C5(反復性肺炎)が陽性の場合は、不顕性誤嚥の可能性が高く、誤嚥性肺炎の予防への早期介入が求められます。


スコアリングと判定基準

スコアの算出方法

各質問の回答を0〜3点でスコアリングし、15項目の合計点(最大45点)を算出します。

合計スコア判定推奨アクション
0点問題なし経過観察(高齢者は6ヶ月ごとの再評価を推奨)
1〜8点軽度のリスクSTへの相談・食形態の見直しを検討
9〜17点中等度のリスクST評価・VFまたはVE検査を検討
18点以上高度のリスク速やかな専門的評価・食形態変更が必要

重要: スコア判定はあくまでスクリーニングの参考値です。臨床的判断には必ず言語聴覚士による正式な嚥下機能評価が必要です。

感度・特異度

研究では、SFSのカットオフを適切に設定した場合、VF検査で確認された誤嚥に対して**感度 79〜85%、特異度 77〜81%**程度が報告されています(Hirose et al., PMID: 19609462; Miyaji et al., PMID: 24248647)。ただし、対象集団(急性期・慢性期・在宅など)によって統計値が変動するため、施設の特性に応じたカットオフの検討が必要です。


臨床での活用方法

在宅・外来でのスクリーニング

SFSは患者や家族介護者が自己記入できるため、診察時間外に事前に記入しておくことで、外来受診時の嚥下評価の効率化が可能です。特に以下の状況での定期的使用が推奨されます。

施設での定期スクリーニング

介護施設においては、半年〜1年ごとの定期スクリーニングとして使用し、スコアの経時的変化を記録することで嚥下機能の悪化を早期に察知できます。施設における嚥下ケア体制では、多職種連携によるスクリーニング体制の構築を解説しています。

反復唾液嚥下テスト(RSST)・改訂水飲みテストとの組み合わせ

SFSは症状の主観的評価であるのに対し、RSSt(反復唾液嚥下テスト)や改訂水飲みテスト(MWST)は客観的な運動機能を評価します。この2種類のアプローチを組み合わせることで、より精度の高いスクリーニングが実現します。

ツール評価対象特性
SFS症状の頻度・生活影響自記式・非侵襲・長期追跡に適する
RSST嚥下運動の反復能力客観的・30秒間の嚥下回数
MWST水の嚥下能力・呼吸変化誤嚥の客観的サインを観察

SFSの限界と注意事項

  1. 認知症患者への適用: 重度認知症では自記式が困難であり、家族や介護者による代理記入が必要です。ただし、代理評価は過小評価・過大評価のバイアスを含む可能性があります。
  2. 不顕性誤嚥の過小評価: 嚥下時の咳嗽反射が低下した患者(不顕性誤嚥)では、「むせ」関連項目が低スコアとなり、実際の誤嚥を見逃すリスクがあります。
  3. 言語・文化的適応: SFSは日本語環境向けに開発されており、非日本語話者や文化的背景の異なる患者への適用には配慮が必要です。

不顕性誤嚥の臨床的識別については別稿で詳述しています。


言語聴覚士への紹介基準

SFSの結果が中等度リスク(9点以上)または以下の徴候が認められた場合は、言語聴覚士への速やかな紹介が推奨されます。


参考文献

  1. Miyaji H et al. (2014). Validity of the Seirei Swallowing Questionnaire for assessment of dysphagia in patients with amyotrophic lateral sclerosis. Intern Med. PMID: 24248647
  2. Hirose K et al. (2009). Development and validation of a self-administered swallowing questionnaire. Dysphagia, 24(3). PMID: 19609462
  3. 日本嚥下医学会(JSDR)嚥下障害診療ガイドライン 2018 年版: https://www.jsdr.or.jp/guideline.html
  4. ASHA Adult Dysphagia Practice Portal: https://www.asha.org/practice-portal/clinical-topics/adult-dysphagia/
  5. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食分類2021: https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2021-manual.pdf