嚥下訓練の目的と分類

嚥下訓練(嚥下リハビリテーション)は、嚥下に関わる筋肉・神経機能を強化・維持・回復させるための訓練です。日本の言語聴覚士(ST)が中心となって実施し、患者が自宅で行う「自主訓練(自主練習)」として継続することが回復の鍵です。

嚥下訓練は大きく2種類に分けられます。

ここでは、自宅でも実践できる代表的な間接訓練と嚥下体操を紹介します。


1. 嚥下体操(食前の準備体操)

嚥下体操は食事前に実施することで、嚥下に必要な筋肉をウォームアップする効果があります。日本では高齢者施設での食前体操として広く普及しています。

標準的な嚥下体操の流れ(5〜10分)

  1. 深呼吸:鼻からゆっくり吸い、口からゆっくり吐く(3回)
  2. 頸部の回転:ゆっくり左右に首を回す(各5回)
  3. 頸部の前後傾:顎を胸につけるように前に倒し、次にゆっくり後ろに倒す(各5回)
  4. 肩の上下運動:肩をすくめて力を入れ、ストンと落とす(5回)
  5. 頬の膨らまし・すぼめ:ほほを思い切り膨らませ、次にすぼめる(5回)
  6. 舌の前後・左右運動:舌を思い切り前に出し、引っ込める。次に左右の口角に交互に向ける(各5回)
  7. パ・タ・カ・ラ発声:「パパパ」「タタタ」「カカカ」「ラララ」を各5回、はっきり発音する

2. シャキア訓練(頭部挙上訓練)

シャキア訓練は、仰向けに寝た状態で頭を持ち上げる動作を繰り返すことで、舌骨上筋群(舌骨を引き上げる筋肉)を強化し、食道入口部(上部食道括約筋)の開大を改善する訓練です。

方法:

  1. 仰向けに寝る(枕なし、背中は床につけたまま)
  2. 足のつま先を見るように、肩を床につけたまま頭だけを持ち上げる
  3. 持続法:1分間頭を上げ続け、1分間休憩。これを3回繰り返す
  4. 反復法:できるだけ速く頭の上げ下げを繰り返す(疲れるまで×3セット)

注意:頸椎疾患のある方、頸部に手術歴のある方は必ず医師・STに確認してから実施してください。


3. バルーン法(バルーン拡張術の自主訓練版)

バルーン法は、上部食道括約筋の開大障害がある場合に用いられる訓練で、医療機関でのバルーン拡張術の自主訓練版として使用されることがあります。自宅での実施は必ず STの指導を受けてから行ってください。


4. 舌圧訓練(舌の筋力強化)

舌は食塊形成・口腔期の送り込みに不可欠であり、特に高齢者では舌圧の低下が嚥下障害の主因となります。

舌圧子を使った訓練

  1. アイスのスプーン(木製スプーン)や専用の舌圧子を舌の上に置く
  2. 舌で押しつぶすよう力を入れる(5秒保持×10回)
  3. 口蓋(口の天井)に舌をつけて押しつける動作も有効

JMS舌圧測定器・専用デバイス

日本では「JMSオーラルスクリーン」「ペコパンダ」など、舌圧訓練専用デバイスが市販されています。STの指示のもとで使用し、定期的に舌圧を測定して効果を確認します。


5. EMST(呼気筋力トレーニング)

EMST(Expiratory Muscle Strength Training:呼気筋力訓練)は、呼気筋(腹筋・肋間筋)を強化することで、咳嗽力と嚥下機能を向上させる訓練です。パーキンソン病・脳卒中後・頭頸部がん後の患者に有効であるとされています。

方法(EMSTデバイスを使用する場合):

  1. EMSTデバイス(レジスタンス呼気トレーナー)のマウスピースをくわえる
  2. 力強く息を吐き出す(吐き出す圧力が一定以上でないとデバイスが開かない)
  3. 5回吸×5セット、週5日を推奨(標準プロトコル)

日本では「トレスパー」「パワーブリーズ」などのデバイスが入手可能です。


6. 頸部ROM訓練(可動域訓練)

頸部の可動域を維持・改善することで、嚥下時の頸部の適切なポジショニングが可能になります。

基本的な頸部ROM訓練:


7. メンデルソン手技(Mendelsohn Maneuver)

嚥下の際に喉頭(のど仏)が上がった状態を意識的に数秒間保持する訓練です。喉頭挙上の持続により食道入口部の開大時間を延長し、咽頭残留を減らす効果があります。

方法:

  1. 唾液を飲み込む
  2. のど仏が最も高く上がった瞬間を感じたら、そこで止める
  3. 3〜5秒間保持してから飲み込みを完了する
  4. 10回×3セット

訓練時の注意事項


まとめ

嚥下体操・嚥下訓練の継続は、嚥下機能の維持・回復に欠かせません。シャキア訓練・舌圧訓練・EMST・メンデルソン手技など、それぞれの訓練は異なる嚥下機能を対象としています。担当の言語聴覚士の指示に従って、自宅での自主練習を安全に継続してください。