とろみ調整 完全ガイド:正しいとろみのつけ方・濃度管理・よくある失敗

嚥下障害のある方にとって、液体のとろみ調整は誤嚥リスクを大幅に下げる重要な食事介助の技術です。しかし「どの濃度にすればいいか」「製品によって使い方が違う」「うまくとろみがつかない」といった悩みは介護者から絶えず寄せられます。このガイドでは、とろみ調整の科学的根拠から実践的な手順、施設管理まで体系的に解説します。


なぜとろみが必要なのか:科学的根拠

嚥下の正常なプロセスでは、口腔・咽頭・食道の三段階が協調して機能します。健康な成人では液体は約0.5秒以内に咽頭を通過しますが、嚥下障害のある方では咽頭期の遅延により液体が気管に流れ込む(誤嚥)リスクが高まります。

臨床研究によれば、薄い液体(水・お茶など)は粘度が低いため、咽頭通過速度が速く誤嚥しやすい一方、適切なとろみをつけることで通過速度を遅らせ、嚥下反射が間に合うようになります(Cichero et al., 2017, Dysphagia;IDDSI Technical Committee報告 2019)。ただし、とろみが強すぎると口腔内残留が増え、逆に誤嚥リスクが高まる場合もあるため、個人に合った適切な濃度管理が不可欠です。

重要な前提:とろみ調整は言語聴覚士(ST)が行った嚥下評価(VF/VE/ベッドサイド評価)の結果に基づき、処方されたIDDSIレベルに従って実施してください。自己判断での変更は危険です。


IDDSIフレームワークと日本の学会分類

IDDSIレベルと液体の分類

国際嚥下障害食標準化イニシアティブ(IDDSI)は、液体を以下の5段階に分類しています(IDDSI Framework 2019)。

IDDSIレベル名称日本学会分類2021主な対象
レベル0薄い液体(Thin)嚥下機能が正常な方
レベル1少しとろみ(Slightly Thick)コード1軽度の液体誤嚥リスク
レベル2薄いとろみ(Mildly Thick)コード2中等度の液体誤嚥リスク
レベル3中程度のとろみ(Moderately Thick)コード3重度の液体誤嚥リスク
レベル4高度のとろみ(Extremely Thick)コード4相当非常に重度の場合

日本摂食嚥下リハビリテーション学会(JSSD)の嚥下調整食分類2021では、とろみ付き液体をコード0j・0t・1j・2-1・2-2・3・4に分類しており、IDDSIとの対照表が公開されています(JSSD 嚥下調整食分類2021 改訂版)。


とろみ剤の種類と選択

キサンタンガム系(第二世代):現在の標準

現在の臨床ガイドラインでは、キサンタンガム系とろみ剤が標準的選択とされています(JSSD 2021;Cichero et al., 2017)。主な特徴:

デンプン系(第一世代):注意点

デンプン系とろみ剤は経時変化が大きく(時間が経つほどとろみが増す)、冷水では溶けにくいという特性があります。現在は施設・病院での使用は減少していますが、一部の在宅介護では依然として使用されています。デンプン系を使用する場合は、調製後30分以内に提供することが原則です。


正しいとろみのつけ方:標準手順

必要な道具

  1. 計量スプーンまたはデジタルスケール(0.1g単位が理想)
  2. かき混ぜ棒またはマドラー(長め・硬め)
  3. 透明なコップまたはシェイカー(とろみの確認がしやすい)
  4. タイマー(待機時間の管理)

標準的な調製手順

  1. 飲み物を先にコップに入れる(目標量を正確に計量)
  2. とろみ剤を規定量計量する(スケールを使用;スプーンは誤差が大きい)
  3. とろみ剤を飲み物の表面全体に振り入れる(まとめて一箇所に入れない)
  4. 素早く15〜20回、底からすくうように力強くかき混ぜる
  5. 2〜3分待つ(キサンタンガム系は少し静置することで均一に分散)
  6. 提供前にIDDSI判定テストで濃度確認(必要に応じて)
  7. 再度軽くかき混ぜてから提供

IDDSI注射器テスト(フロービジョンテスト)の手順

IDDSI公式の10mL注射器テストを使えば、自宅や施設で客観的にとろみ濃度を確認できます(IDDSI Testing Methods 2019):

  1. 10mLシリンジ(ルアー先端カット)にとろみ液を吸引
  2. 水平な面に垂直に立て、先端を指で押さえながら安定させる
  3. 10秒間、自然落下させる
  4. シリンジ内に残った液量を読む
IDDSIレベル10秒後の残量
レベル18〜9mL残
レベル24〜7mL残
レベル31〜3mL残
レベル4ほぼ全量(0〜1mL)残

IDDSIレベル別のとろみ量の目安

以下はキサンタンガム系製品の一般的な目安です。製品によって大きく異なるため、必ず製品の添付文書を参照してください。

IDDSIレベル目標200mLに対する目安量(キサンタン系)
レベル1少しとろみ0.5〜1.0g
レベル2薄いとろみ1.0〜2.0g
レベル3中程度2.0〜3.5g
レベル4高度3.5〜5.0g以上

注意:お茶・コーヒー(タンニン含有)、牛乳・乳飲料(タンパク質含有)、酸性果汁では同量のとろみ剤でも異なるとろみ濃度になることがあります。これらの飲み物には別途テストを行ってください。


飲み物の種類別の調製ポイント

お茶・緑茶・ほうじ茶

タンニンがキサンタンガムと反応し、通常よりとろみがつきやすい場合があります。初めて使用する際は少量でテストしてから規定量を加えてください。

牛乳・乳飲料

タンパク質がとろみ剤の効果を阻害する場合があります。「乳製品対応」と明記された製品を選ぶか、増量が必要な場合があります。

果汁飲料

酸性成分(クエン酸など)がとろみ剤の粘度に影響することがあります。製品によっては「酸性飲料対応」製品が適切です。

市販スポーツ飲料・経口補水液

電解質がとろみ剤と相互作用する場合があります。必ず事前にテストを行ってください。

温かい飲み物(お茶・みそ汁・スープ)

キサンタンガム系製品は高温でも安定していますが、60℃以上の飲み物に加える際は熱傷に注意してください。とろみ剤を加えた後に電子レンジで再加熱することは避けてください。


よくある失敗と対処法

失敗1:ダマができる

原因:粉をまとめて一箇所に入れた、かき混ぜが不十分

対処

失敗2:とろみが薄すぎる

原因:計量不足、冷水で溶けにくい、待機時間が短い

対処

失敗3:とろみが強くなりすぎた

原因:計量過多、デンプン系の経時変化、温度変化

対処

失敗4:飲み物の味が変わる

原因:とろみ剤の多量使用、デンプン系特有の風味

対処


水分摂取量の確保:とろみと脱水リスク

嚥下障害のある方は、とろみ液の飲みにくさから水分摂取量が低下しやすく、脱水リスクが高まります。臨床研究では、嚥下障害のある高齢者の約60%が目標水分摂取量を達成できていないと報告されています(Finestone et al., 2001, Archives of Physical Medicine and Rehabilitation;IDDSI Hydration Framework 2021)。

水分摂取目標の目安

水分確保のための工夫


施設・病院でのとろみ管理

統一化の重要性

施設内でとろみ製品・手順・IDDSIレベルを統一することは、ケアの安全性と質を担保するうえで不可欠です。スタッフによって同じ「コード2」でも実際の濃度が大きく異なることが施設監査で繰り返し指摘されています(JSSD 施設向け指針 2021;Cichero et al., 2017)。

施設管理の推奨事項

  1. 製品の統一:施設内で使用するとろみ剤を1〜2種類に絞る
  2. 濃度換算表の作成と掲示:各製品の飲み物量別・IDDSIレベル別の計量表を厨房・食堂に掲示
  3. 定量スプーンよりスケールの使用:スプーンは個人差・充填方法による誤差が±30%に達することがある
  4. 定期的なIDDSI判定テスト:月1回以上、注射器テストで実際の濃度を確認・記録
  5. スタッフ研修の定期実施:新人研修・年1回以上の継続研修
  6. 食事記録への明記:使用製品名・目標IDDSIレベル・提供量を記録

介護報酬上の関連加算(日本)


在宅介護でのとろみ管理

在宅では施設と異なり、家族介護者が毎食とろみ調製を行う必要があります。継続的な安全性確保のために以下を推奨します。


とろみ調整に関連する注意事項

以下の状況では、必ず担当医師・STに相談してください。


関連ページ


参考資料・引用文献

  1. Cichero JAY, et al. (2017). Development of International Terminology and Definitions for Texture-Modified Foods and Thickened Fluids Used in Dysphagia Management: The IDDSI Framework. Dysphagia, 32(2), 293–314.
  2. IDDSI Technical Committee (2019). IDDSI Framework: Testing Methods. International Dysphagia Diet Standardisation Initiative. https://iddsi.org
  3. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会(JSSD)(2021). 嚥下調整食分類2021. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌, 25(2), 135–149.
  4. Finestone HM, et al. (2001). Quantifying fluid intake in dysphagic stroke patients: a preliminary comparison of oral and nonoral strategies. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 82(12), 1744–1746.
  5. 厚生労働省(2024). 嚥下調整食の提供に関する施設向けガイドライン. 老健局.

本ページは専門的な臨床アドバイザリーの監修のもと作成されました。個別の医療判断については、担当の言語聴覚士・医師にご相談ください。最終更新:2026年5月26日