嚥下障害とは?症状・原因・対処法をわかりやすく解説
嚥下障害(えんげしょうがい)とは、食物や液体を口から胃へ安全に送り込む機能——嚥下(飲み込み)——に何らかの問題が生じた状態を指します。軽度のものは「食べるのが遅くなった」「むせやすくなった」という程度ですが、重度になると誤嚥性肺炎や栄養不良、脱水のリスクが高まります。
日本における有病率
日本では嚥下障害を抱える人は推計800万人以上とされており、高齢化の進行とともにその数は増加しています。
- 65歳以上の地域在住高齢者の約13〜14%に嚥下機能の低下が認められます(東京都健康長寿医療センター研究所)
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)入居者の50〜70%に何らかの嚥下困難があるとされます
- 誤嚥性肺炎は日本の死因の上位を占めており、70歳以上の肺炎の約70%が誤嚥に起因すると報告されています
嚥下の仕組み——4つのステージ
正常な嚥下は以下の4段階で進行します。
| ステージ | 内容 |
|---|---|
| 先行期(認知期) | 食物を見て、においを嗅ぎ、食べる準備をする段階 |
| 準備期 | 口の中で食物を噛み砕き、まとまりを形成する段階 |
| 口腔期 | 舌が食塊を咽頭へ送り込む段階 |
| 咽頭期 | 反射的に喉頭蓋が閉鎖し、食塊が食道へ送られる段階 |
| 食道期 | 蠕動運動で食塊が胃へ到達する段階 |
この流れのどこかに問題が生じると嚥下障害となります。
主な原因疾患
神経・筋疾患
- 脳卒中(脳梗塞・脳出血):嚥下障害の最も多い原因。急性期患者の約50%に発症します
- パーキンソン病:嚥下筋のすくみや運動緩慢により、病期が進むにつれ嚥下障害が生じます
- 認知症(アルツハイマー型・レビー小体型):認知機能低下に伴い、食行動全体に問題が生じます
- 筋萎縮性側索硬化症(ALS):進行とともに嚥下・構音・呼吸に影響します
- 重症筋無力症:嚥下関連筋の疲労による嚥下障害が起こります
頭頸部がん・治療後
- 口腔がん・咽頭がん・喉頭がんの手術・放射線治療後には、構造的変化による嚥下障害が生じることがあります
- 治療後のリハビリには言語聴覚士(ST)による嚥下訓練が重要です
加齢による機能低下(サルコペニア嚥下障害)
- 加齢に伴う嚥下関連筋の萎縮・口腔機能低下はオーラルフレイルと呼ばれます
- 特定の原疾患がなくても、食事時間の延長・むせの増加・体重減少として現れます
その他
- 食道疾患(逆流性食道炎、アカラシア)
- 薬剤性(抗精神病薬・抗コリン薬など)
- 頸椎症・椎間板ヘルニア
EAT-10:自分でできる嚥下機能スクリーニング
**EAT-10(Eating Assessment Tool)**は、スイスのBelafsky博士らが開発した10問の自己記入式スクリーニングツールです。日本語版も検証済みで、広く臨床・在宅で使われています。
設問例(各0〜4点の5段階評価):
- 嚥下の問題により体重が減った
- 嚥下の問題により外食することが妨げられている
- 液体を飲み込むのに努力がいる
- 固形物を飲み込むのに努力がいる
- 錠剤を飲み込むのに努力がいる
- 飲み込む動作が痛い
- 食べる喜びが嚥下障害によって影響を受けている
- 食べるとき食物がのどに引っかかる
- 食べるときせき込む
- 飲み込むときストレスを感じる
合計スコア3点以上:専門医・言語聴覚士への相談を推奨します。
嚥下障害のサインに気づく——家族・介護者向けチェックリスト
在宅介護の場面では、以下のサインに注意してください。
- 食事中・食後にむせる、咳が増えた
- 食事時間が著しく長くなった(30分以上かかる)
- 食後に声がかすれる、ガラガラ声になる(湿性嗄声)
- 食物を口から出す・ためる癖が出てきた
- 体重が半年で5%以上減少した
- 発熱を繰り返す(誤嚥性肺炎の可能性)
- 食欲が落ちた、食事を拒否するようになった
専門病院・専門家への相談
受診科目の目安
- 神経内科・脳神経内科:脳卒中・パーキンソン病など原因疾患の診察
- 耳鼻咽喉科・頭頸部外科:嚥下造影(VF)・嚥下内視鏡(VE)検査
- リハビリテーション科:摂食嚥下リハの専門チームへのアクセス
- 歯科・口腔外科:口腔機能低下への対応
日本摂食嚥下リハビリテーション学会(JSSD)
**日本摂食嚥下リハビリテーション学会(JSSD)**は、摂食嚥下分野の専門医・言語聴覚士・管理栄養士・歯科医師らが参加する学術団体です。学会ウェブサイトでは「嚥下専門外来」のリストも公開されており、地域の専門家を探す際に参照できます。
**学会分類2021(嚥下調整食)**は、JSSD が策定した日本の標準的な食形態分類であり、現在IDDSI との整合が進んでいます。
言語聴覚士(ST)への相談
言語聴覚士は嚥下評価・訓練の中核を担う専門職です。訪問型の嚥下リハも介護保険の給付対象となっており、在宅でも専門的なサポートを受けることができます。
嚥下障害のある方への食事対応——基本の考え方
- 食形態の調整:IDDSI フレームワーク(レベル0〜7)に基づいて安全な食形態を選択します
- とろみの使用:液体の流れを遅らせることで誤嚥リスクを下げます
- 食事姿勢:30〜90度の適切な座位保持が誤嚥予防に有効です
- 口腔ケア:口腔内細菌を減らすことで誤嚥性肺炎を予防します
- 嚥下訓練:言語聴覚士の指導のもと、機能維持・改善を図ります
まとめ
嚥下障害は「歳だから仕方ない」と諦めることなく、早期に気づき、専門家に相談することが重要です。EAT-10 でスクリーニングし、気になるサインがあれば主治医・言語聴覚士に相談しましょう。食形態の調整・とろみの活用・口腔ケアの継続によって、安全で楽しい食事を維持することは十分可能です。
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最終更新:2026年5月13日