食物による窒息・誤嚥の緊急対応
緊急時はすぐに行動してください。 このページを今読んでいるなら、基本手順を覚えておいてください。窒息は数分以内に生命の危機となります。
窒息と誤嚥の違い
| 状態 | 説明 | 緊急度 |
|---|---|---|
| 窒息(ちっそく) | 食物・異物が気道を完全または部分的に塞いでいる状態。呼吸・発声ができない場合、直ちに対応が必要。 | 最緊急 |
| 誤嚥(ごえん) | 食物・唾液・液体が気管に入った状態。咳反射が起きることが多い。即時の窒息ではないが、繰り返すと誤嚥性肺炎につながる。 | 要観察〜緊急 |
窒息の見分け方:チョーク・サインを確認する
本人が**両手で喉を押さえる仕草(チョーク・サイン)**をしている場合、窒息が強く疑われます。
以下のいずれかが見られたら窒息を疑ってください:
- 突然声が出なくなる、または出ない(発声不能)
- 咳ができない、または咳の音が非常に小さい
- 顔色が青紫に変わる(チアノーゼ)
- 息を吸う際に「キーッ」という高い音がする(喘鳴)
- 意識が薄れる・倒れる
咳ができている間は気道が完全には塞がっていません。 「咳を続けるよう促す」「背後に立ち見守る」ことが基本です。咳の力が弱まったり、声が出なくなったりした時点で下記の対応を開始してください。
【成人・高齢者】窒息時の緊急対応手順
1. 大声で助けを呼び、周囲に知らせる
「窒息です!助けてください!」と叫び、他のスタッフ・家族を呼ぶ。
2. 咳を促す
「咳をしてください」と声をかける。咳が出ている間は介入せずに見守る。
3. 咳が弱くなった・声が出なくなった場合 → 背部叩打法を実施
背部叩打法(はいぶこうだほう)
- 本人の横または後ろに立ち、体を前に傾けさせる(座位でも立位でも可)
- 片手で胸部(胸骨部分)を支える
- もう一方の手の手根部(手のひらの付け根)で、肩甲骨の間を5回力強く叩く
- 異物が排出されたか確認する
- 排出されない場合 → 腹部突き上げ法へ
4. 腹部突き上げ法(ハイムリック法)を実施
腹部突き上げ法(Heimlich Maneuver)
- 本人の後ろに立ち、ウエストの位置に腕を回す
- 片方の手の親指側(拳を作る)をへそと剣状突起(みぞおち)の間に当てる
- もう一方の手で拳を包む
- 斜め上方向(手前かつ上)に向かって5回力強く突き上げる
- 異物が排出されたか確認する
- 排出されない場合 → 背部叩打法と腹部突き上げ法を交互に繰り返す
5. 意識を失った場合 → 直ちに119番通報 + CPR開始
意識を失った場合は床に仰向けに寝かせ、すぐに119番に電話して、指示に従ってください。口腔内を確認し、見える位置に異物があれば指で除去してください(見えない場合は盲目的に探らないでください)。心停止の場合は胸骨圧迫(CPR)を開始してください。
119番通報のタイミング
以下のいずれかの場合、すぐに119番に電話してください:
- 背部叩打法・腹部突き上げ法を繰り返しても異物が取れない
- 意識を失った
- 呼吸が止まっている、または非常に弱い
- 顔色が青紫(チアノーゼ)で改善しない
通報しながら対応を続けてください。 電話口のオペレーターの指示に従ってください。
高齢者・嚥下困難者への対応の注意点
骨粗しょう症のある方への腹部突き上げ法
骨粗しょう症(骨粗鬆症)のある高齢者は、強い腹部突き上げによって肋骨骨折のリスクがあります。しかし、窒息の緊急性はそのリスクを上回ります。 窒息に対応するためにまず実施し、処置後に医療機関で確認してください。
車いす使用者への対応
車いすに座ったままの状態で背部叩打法・腹部突き上げ法を実施できます。車いすを固定し、後方から腕を回してください。
重度認知症・意思疎通困難な方
状況の確認が難しい場合でも、呼吸音・表情・皮膚色で窒息を判断してください。チョーク・サインをとれない方もいます。突然の呼吸困難・顔色変化があれば迷わず対応してください。
胃ろう(PEG)造設者
胃ろう造設があっても、口から食事をしている場合は窒息リスクがあります。通常の対応手順を適用してください。
【乳幼児・子ども】への対応(参考)
このサイトの主な対象は成人・高齢者ですが、施設に子どもが訪問することもあるため、基本を記載します。
- 1歳未満の乳児:腹部突き上げ法は禁忌。背部叩打法(5回)+ 胸部突き上げ法(5回)を繰り返す。
- 1歳以上の子ども:成人と同様の手順で対応可能(力加減に注意)。
窒息後の対応
窒息から回復した後も、必ず以下の対応を行ってください。
- 医療機関を受診する:異物が気道に残存している可能性があります。腹部突き上げを実施した場合は内臓損傷の確認が必要です。
- 嚥下評価の再検討を依頼する:窒息が起きたということは、現在の食形態が適切でない可能性があります。言語聴覚士による再評価を行ってください。
- インシデント記録を作成する(施設の場合):発生状況・対応経過・その後の経過を記録してください。
介護施設での予防的取り組み
窒息・誤嚥事故を防ぐための日常的な取り組みが不可欠です。
食事前
- 入居者の覚醒状態を確認する(眠気が強い時は食事を一時延期)
- 義歯の装着状況を確認する
- 食事姿勢(体幹角度・頸部姿勢)を整える
食事中
- 一口量を適切に管理する(大口に入れすぎない)
- 食事のペースをゆっくりにする
- 水分と食物が交互になるよう注意する(口腔内残留を確認しながら)
- 食事中・食後に意識レベル・声質の変化がないか観察する
スタッフ研修
- 全スタッフが背部叩打法・腹部突き上げ法を習得していること
- 年1回以上の実技演習
- 施設内の緊急連絡フローの周知
緊急時の掲示物
施設の食堂や調理室に、窒息対応の手順を図解したポスターを掲示することを推奨します。日本語版の緊急対応ポスターは日本赤十字社や消防署のウェブサイトから入手できます。
関連ページ
最終更新:2026年5月13日
免責事項:このページは一般的な緊急対応の教育情報を提供するものです。実際の緊急対応は、適切な資格を持つ医療・救急専門家のトレーニングを受けた上で実施することを推奨します。