食形態の調整方法:自宅でできるミキサー食・とろみ付け基礎知識
嚥下困難のある方の食事を自宅で用意するのは、はじめは難しく感じるかもしれません。このページでは、IDDSI(国際嚥下調整食標準化イニシアチブ)のフレームワークに基づいた食形態調整の基本を、自宅で実践できるレベルで解説します。
大切なこと:食形態の決定は、言語聴覚士(ST)または医師の評価に基づいて行ってください。このページは評価結果に基づく「調製方法」の参考情報です。
食形態調整の基本的な考え方
食形態調整の目的は、嚥下困難のある方が安全に、かつ必要な栄養・水分を摂取できる食事を提供することです。
安全と栄養の両立
食形態を柔らかくしすぎたり、過度にとろみをつけると、以下の問題が生じることがあります。
- 食欲の低下・食事の楽しみの喪失
- 水分・栄養摂取量の減少
- 調理の手間と時間の増大
必要最小限の調整で、できるだけ見た目・風味・食感を保つことが理想です。
方針の確認
まず、担当の言語聴覚士または主治医に以下を確認してください。
- 必要なIDDSIレベル(食事:Level 3〜7、飲料:Level 0〜4)
- 一口量の目安(ティースプーン1杯程度か、通常量か)
- 食事姿勢(90度坐位か、リクライニングポジションか)
- 禁忌食品(特定のテクスチャーや食品で誤嚥リスクが高いもの)
Level別:食事の調製方法
Level 7(一般食・軟食)の工夫
目標:通常の食事を、できるだけ柔らかく提供する。
- 煮る・蒸す:肉・魚・野菜は通常より長めに加熱し、箸で容易にほぐれる柔らかさにする
- 切り方:繊維に対して直角に切り、1.5cm角以下にカット
- 避けるべき食品:
- 繊維が多く硬い野菜(ごぼう、れんこん、たけのこ等)
- 皮が厚い豆類(大豆、ひよこ豆等)
- 噛み切りにくい肉(ステーキ、焼き鳥の皮等)
- 粒状で口腔内でバラけやすい食品(ごま、ナッツ類)
Level 6(柔らかい一口大食)の調製
目標:前歯・歯ぐきで噛み切れる硬さ、1.5cm角以下。
おすすめの食材・調理法
| 食品 | 調製のポイント |
|---|---|
| 魚 | 白身魚を蒸す・煮る。サーモン・鮭は脂があり柔らかくなりやすい |
| 卵 | 茶碗蒸し、半熟卵、炒り卵(硬くなりすぎないよう注意) |
| 豆腐 | そのまま、または温めて。絹ごし豆腐が適している |
| 根菜 | 圧力鍋やスロークッカーで柔らかく煮る |
| パン | 牛乳・スープに浸して柔らかくしたフレンチトースト風 |
| ごはん | 全粥(全粥:水5倍)または軟飯 |
フォークテストの確認:調製した食品をフォークで軽く押し、容易に潰れることを確認する。
Level 5(細かくほぐれる食・ミンチ&モイスト)の調製
目標:4mm以下の小さな塊で、湿潤でまとまりがある。
作り方の手順
- 食材を柔らかく加熱する(蒸す・煮る)
- フォーク・包丁またはフードチョッパーで4mm以下に細かくする
- ソースや煮汁でコーティングする(これが最重要):細かくした食材が口腔内でバラけるのを防ぐため、必ずソース・あんかけ・とろみのある煮汁と混ぜる
まとまりをよくするコーティング素材
- あんかけ(だし+片栗粉)
- ホワイトソース
- 濃いめの煮汁
- ペースト状のアボカド・豆腐と和える
注意:乾いた刻み食(パサパサしたそぼろなど)はIDDSI Level 5に該当せず、誤嚥リスクが高まります。必ず湿潤なコーティングを加えてください。
Level 4(ペースト食)の調製
目標:均一で滑らかなペースト。スプーンで形が保たれ、傾けるとゆっくり落ちる。
ミキサー食の作り方
- 食材を十分に柔らかく加熱する
- ミキサー・フードプロセッサーに入れ、少量の水分(だし・スープ・牛乳等)を加えながら撹拌
- 必要に応じてゲル化剤または増粘剤を加えて粘度を調整
- 目の細かいストレーナー(濾し器)で濾すと、よりなめらかになる
- フォークテスト:フォークの歯の間から均一に押し出されることを確認
ゲル化剤の使い方
| ゲル化剤の種類 | 特徴 | 使用のポイント |
|---|---|---|
| 寒天(アガー) | 植物由来、低価格。冷えると固まる。 | 温めて溶かし、型に入れて冷やす。温かい食事には不向き。 |
| ゼラチン | 動物由来。口溶けが良い。 | 体温で溶けるため、口腔内での安全性が高い。冷蔵必要。 |
| カラギーナン | 植物由来。温かい食事にも対応可能な製品あり。 | 施設・病院向け介護食用製品に多い。 |
| 市販の嚥下調整食用ゲル化剤 | 例:ネオハイトロミールEX、ソフティアGなど | 製品の指示に従って使用。量と温度管理が重要。 |
型成形(モールドフード)
ペースト状の食材を元の食品の形に成形することで、食事の見た目を保ち、食欲を維持できます。魚・肉・野菜の型(シリコーン製)が市販されています。
Level 3(ミキサー食・液状)の調製
目標:スプーンで形が保てる程度の粘度。均一で、流れ落ちない。
Level 4のペースト食より水分量を多くした状態です。作り方はLevel 4と同じですが、水分量を増やします。
重要:Level 3食はスプーンで食べ、コップから飲まないようにしてください。コップから飲むと流れが速すぎて誤嚥リスクが高まります。
とろみ飲料の作り方
とろみ剤(増粘剤)の選び方
市販のとろみ剤には大きく2種類あります。
| 種類 | 特徴 | 代表製品 |
|---|---|---|
| デンプン系 | 低価格。温度変化で粘度が変わりやすい(冷えると濃くなる)。 | つるりんこ、とろみナメらカ等 |
| グアーガム・キサンタンガム系 | 温度変化に安定。透明感があり、味への影響が少ない。 | ネオハイトロミールEX、ソフティアS等 |
施設・病院では一種類に統一することが推奨されます。製品によって必要な添加量が異なるため、必ず使用する製品のIDDSIレベル別添加量表を参照してください。
とろみ飲料の作り方(基本手順)
- 飲料(お茶・水・牛乳・ジュース等)を器に入れる
- とろみ剤を加えながら素早く混ぜる(とろみ剤を先に入れると塊になりやすい)
- 30秒〜2分間、スプーンで均一になるまでよく混ぜる
- 製品によって指定された待機時間(30秒〜3分)置いてから提供する
- シリンジテストでIDDSIレベルを確認する
IDDSIレベル別:とろみ剤添加量の目安(例)
製品によって異なりますが、一般的な目安:
| IDDSIレベル | 水200mlへの添加量(目安) |
|---|---|
| Level 1(わずかにとろみ) | 0.5〜1g |
| Level 2(軽いとろみ) | 1〜2g |
| Level 3(中間のとろみ) | 2〜3.5g |
| Level 4(濃いとろみ) | 3.5g以上 |
必ず使用製品の指示書を確認してください。 製品間で必要量は大きく異なります。
とろみ飲料に関する注意点
- 一度作ったとろみ飲料を温め直すと粘度が変化します。温かい飲料は提供直前に作ってください。
- 炭酸飲料・牛乳・味噌汁など、素材によってとろみの付き方が異なります。新しい飲料にとろみをつける際は必ずシリンジテストで確認してください。
- 果汁・乳製品は特定のとろみ剤と相性が悪い場合があります(塊になる等)。製品の注意書きを確認してください。
自宅での食形態調整:よくある失敗と対策
| よくある失敗 | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| ミキサー食に塊が残る | ミキサー時間が短い、水分量が少ない | 2〜3分以上撹拌する。水分を増やす。濾し器を使う。 |
| ペースト食がパサパサする | ゲル化剤の量が多い、または水分が少ない | ゲル化剤を減らし、だし・スープで水分補給。 |
| とろみが均一につかない | 混ぜ方が足りない、待機時間が短い | よく混ぜ、待機時間を守る。デンプン系はとくに待機が重要。 |
| 時間が経つととろみが変わる | デンプン系とろみ剤の温度変化 | グアーガム系に変更を検討。提供直前に作る。 |
| 食欲が落ちた | 見た目が悪い、味が薄い | 型成形、コンパクト盛り付け、だしや旨味の強化。 |
役立つ道具
| 道具 | 用途 |
|---|---|
| ハイパワーブレンダー(例:バイタミックス、ブレンドジェット等) | Level 3〜4のなめらかなペースト作成 |
| フードチョッパー | Level 5の細かく刻む作業 |
| 10mlルアースリップシリンジ | シリンジテスト(とろみレベル確認) |
| デジタルキッチンスケール | とろみ剤の正確な計量 |
| シリコーン製食品型 | モールドフード(型成形ペースト食) |
| ストレーナー(目の細かい濾し器) | ペースト食の滑らか化 |
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最終更新:2026年5月13日
免責事項:このページは一般的な教育情報の提供を目的としており、個別の医療アドバイスではありません。食形態の決定・変更は必ず言語聴覚士・管理栄養士・医師の指導のもとで行ってください。