介護保険 嚥下調整食 加算 2024 — 経口維持加算・算定要件の完全解説

2024年度(令和6年度)の介護報酬改定では、嚥下調整食に関連する複数の加算・施設基準が見直されました。施設の管理栄養士・言語聴覚士(ST)・介護職が連携して取り組む経口維持加算は、算定の精緻化と多職種連携の強化が図られています。本稿では改定の概要から算定要件・実務上の留意点まで体系的に解説します。


1. 2024年度改定の全体方針と嚥下調整食の位置づけ

厚生労働省が公表した「令和6年度介護報酬改定の概要」(2024年1月)によれば、改定の基本方針のひとつとして**「口腔・栄養管理の充実と多職種連携の強化」**が明示されています。[1] 嚥下調整食への対応はこの方針の中核をなす取り組みであり、施設系・居宅系サービスの双方で関連加算が拡充・整備されました。

嚥下調整食とは、嚥下機能が低下した利用者に対して、食形態・物性・粘度を調整した食事です。日本摂食嚥下リハビリテーション学会が策定した「嚥下調整食分類2021」(以下、学会分類2021)では、コード0〜4の段階で食形態を規定しており、IDDSI(国際嚥下食標準化イニシアチブ)フレームワークとの対応表も併記されています。[2][3]

嚥下機能が低下した高齢者において、適切な食形態の選択は誤嚥性肺炎リスクの低減と低栄養予防の両立に不可欠です。臨床的助言に基づけば、嚥下調整食の導入と定期的な食形態の再評価は、施設入居者の経口摂取維持期間の延長に寄与します。[4]


2. 経口維持加算(I・II)の概要

2-1. 経口維持加算 I

算定対象: 経管栄養または嚥下調整食(学会分類2021コード2以下)を必要とし、誤嚥が認められる入所者

項目内容
単位数400単位/月
対象施設特別養護老人ホーム・老人保健施設・介護医療院・特定施設(入居継続支援加算算定事業所)
主な要件①摂食機能療法を継続して行う計画 ②多職種チームによる食事観察(月1回以上) ③食形態の記録

2-2. 経口維持加算 II

算定対象: 経口維持加算Iを算定している入所者のうち、協力歯科医療機関の歯科医師または歯科衛生士が食事観察・カンファレンスに参加した場合

項目内容
単位数100単位/月(加算Iへの上乗せ)
追加要件協力歯科医療機関の歯科医師または歯科衛生士が①食事観察 ②多職種カンファレンスに参加

2024年改定のポイント: 経口維持加算IIの算定要件が明確化され、歯科医師・歯科衛生士の「参加記録」の整備が必須となりました。会議録・出席記録の様式を事前に整備してください。


3. 多職種カンファレンスの要件と実務

経口維持加算の算定には、医師・歯科医師・管理栄養士・ST(言語聴覚士)・介護職が参加する多職種カンファレンスの実施が必要です。[1]

カンファレンスで確認すべき事項

  1. 嚥下機能の現状評価
    • 反復唾液嚥下テスト(RSST)、改訂水飲みテスト(MWST)等のスクリーニング結果
    • VF(嚥下造影検査)またはVE(嚥下内視鏡検査)の実施状況と結果
  2. 現在の食形態とその根拠
    • 学会分類2021コードの確認
    • IDDSI レベルとの対応(国際的コミュニケーション用)
  3. 栄養状態の評価
    • 体重推移、MNA-SF(簡易栄養状態評価表)スコア
    • 目標エネルギー・タンパク質量と現在の実摂取量
  4. 誤嚥・窒息リスクのアセスメント
    • 直近1か月の誤嚥・窒息インシデント記録
    • 食事姿勢・介助方法の確認
  5. 今後の計画と目標
    • 食形態のステップアップ(または現状維持)の方針
    • 次回評価予定日

カンファレンスの記録様式

記録には以下を含める必要があります:


4. 嚥下調整食分類2021 と IDDSI の対応

2024年改定の文脈では、学会分類2021に準拠した食形態の記録が求められます。国際施設との情報共有や外国籍職員への説明には IDDSI フレームワークの併記が有用です。[3]

学会分類2021コード食形態IDDSIレベル適応の目安
コード0j嚥下訓練食品(ゼリー)Level 3(Liquidised)嚥下機能が著しく低下している場合の訓練用
コード0t嚥下訓練食品(とろみ水)Level 0〜4(飲料)重度嚥下障害の訓練用
コード1j嚥下調整食1j(均質ゼリー)Level 3(Liquidised)嚥下機能の重度〜中等度低下
コード2-1嚥下調整食2-1(均質ペースト)Level 4(Pureed)舌の機能がある程度保たれている場合
コード2-2嚥下調整食2-2(不均質ゼリー)Level 4(Pureed)一部コード2-1より形態・凝集性のあるもの
コード3嚥下調整食3(ソフト食)Level 5(Minced & Moist)咀嚼能力が一部残存している場合
コード4嚥下調整食4(普通食に近いもの)Level 6(Soft & Bite-sized)軽度嚥下障害・軽度咀嚼障害

厚みのある食塊形成を要するコード3・4では、食材の軟化技術(酵素処理・低温調理など)の活用が有効であり、食事摂取量の改善につながるという臨床的エビデンスが蓄積されています。[4]


5. 経口移行加算との違い

経口維持加算としばしば混同される加算に経口移行加算があります。両者の違いを整理します。

項目経口維持加算経口移行加算
対象者経口摂取を継続している者(誤嚥あり)現在は経管栄養(主として)であり、経口摂取への移行を目指す者
目的現在の経口摂取機能を維持・向上させる経管栄養から経口摂取へ移行させる
単位数400単位(+加算IIで100単位)/月400単位/日
算定期間入所中継続(要件充足期間中)移行計画策定から最長180日

6. 施設基準と書類整備の実務チェックリスト

算定に必要な施設基準と書類を確認します。

6-1. 人員・体制の要件

6-2. 記録・書類の整備

6-3. 加算申請の流れ

  1. 対象者の選定(嚥下機能評価の実施)
  2. 経口維持計画書の策定・家族への説明・同意取得
  3. 多職種カンファレンスの開催(月1回以上)
  4. 介護給付費明細書への加算コード記載
  5. 実地指導時の書類確認に備えた保管

7. 2024年改定で強化された口腔管理との連携

2024年改定では、口腔衛生管理体制加算・口腔衛生管理加算も同時に見直され、歯科衛生士による口腔ケアと嚥下機能管理の一体的提供が推奨されています。[1]

口腔内の清潔度は誤嚥性肺炎リスクに直結します。口腔内細菌を減少させる口腔ケアは、肺炎の発症率を統計的に有意に低下させるというエビデンスが複数の系統的レビューで示されています。[5]

施設における嚥下調整食の提供と口腔ケアを組み合わせた包括的アプローチは、誤嚥性肺炎予防と経口摂取維持の両立を実現するための標準的実践として位置づけられています。


8. 算定にあたっての注意点・よくある指摘事項

実地指導で指摘されやすい点

  1. カンファレンス記録の不備 — 参加者の職種・氏名・議事内容が不明確
  2. 経口維持計画書の形骸化 — 定型文の羅列で個別性がない
  3. 食形態の根拠が曖昧 — スクリーニング結果との紐づけがない
  4. 対象者選定の不適切 — 加算要件(誤嚥が認められること)を満たさない者に算定
  5. 家族同意の未取得 — 説明・同意の記録が残っていない

対策


関連ページ


参考資料

  1. 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の概要」老人保健課, 2024年1月.
  2. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」日摂食嚥下リハ会誌 25(2):135-149, 2021.
  3. Cichero JAY, et al. Development of International Terminology and Definitions for Texture-Modified Foods and Thickened Fluids Used in Dysphagia Management: The IDDSI Framework. Dysphagia. 2017;32(2):293-314. PMID: 27913916.
  4. Namasivayam-MacDonald AM, Riquelme LF. Dysphagia Management for Older Adults: A Narrative Review. Semin Speech Lang. 2019;40(3):213-226. PMID: 31096313.
  5. Sjögren P, et al. A systematic review of the preventive effect of oral hygiene on pneumonia and respiratory tract infection in elderly people in hospitals and nursing homes. Gerodontology. 2008;25(1):9-17. PMID: 18086003.

最終更新:2026年5月25日